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第8章
光線 3
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「なんだもう意識飛んじゃったの? まぁ丁度いいや……ふふっそのまま眠っていてよ。ちょうど彼からホテルに着いたって連絡が来たよ。君のお相手を迎えに行ってくるね」
遥か彼方から危険な声が聞こえているのに、俺の躰は暗闇の中で全く動かなくなっていた。
必死にもがくのに、どんどん暗闇の奥深くへと体が沈み込んでいくのを止められない。
そうだ。遥か昔、遠い昔のヨウも、こんな辱めを受けた。洋月……君も宮中で理不尽に躰を弄られて、必死に堪え痛みに我を忘れそうな辛い思いをした。
バタンー
その時……残酷に、扉がしまる音が響いた。
逃げ出さないと。そうしないと大変なことになってしまう。それは重々承知しているのに、身動き一つ出来ない自分が、ただひたすらに悔しかった。
****
「遅いな」
時間や約束には几帳面な奴だと思ったが、腕時計を見ると待ち合わせの時間からすでに十分経過していた。
確かに空からこのホテルだと聞いていた。だがこのホテルには宿泊せずに、涼の実家にいることも聞いていたので、俺はさっきからずっとロビーの柱にもたれながら、ホテルの入り口を伺っていた。
「……来ないな」
父親と十五年ぶりに再会するのだから、俺の方だって今日はあまり余裕ないぞ。そんな中お前が来ないと話にならないじゃないか。そんなイライラをぶつける相手が欲しくて、空に連絡をした。
「おい空、あいつが来ない。今何処にいるか知っているか」
すぐに空の既読が付いた。
「おはよう。陸。そうなの? 今朝まで涼くんの家にいて、朝早くにホテルに行って帰国の荷物をまとめるって連絡はもらっているよ。何でも今日帰国したいらしいから」
「……そうなのか」
「何かあった?」
「いや……あいつの部屋番号教えてくれないか」
「え……どうして? 」
「待ち合わせ時間を過ぎても来ないからさ」
「あっ本当だ、もう15分も過ぎているね、荷物整理に手間取っているのかな」
「いいから教えろよ」
「分かったよ。えっとね、2408だよ」
「OKありがとうな。また報告する」
「あ……陸、何かあったら手伝うから、僕を呼んで」
「あぁ分かった。ありがとうな」
さてと、これ以上待っても来なかったら部屋に行ってみようか。だがいきなり部屋を訪ねるのは躊躇するもんだ。結局そのままイライラと待っていると、ロビーを横切る人混みの中によく知った顔を見つけた。
「あいつ……なんでこんな所に? 」
それは辰起だった。まさか洋の所に来たのか。一抹の不安が胸に過った。声をかけようと近づいていくと、辰起は誰かを見つけたらしく手を振りながら違う方向へと近づいて行った。
****
「Hi! Simon. 」(やあサイモン!)
「TATUKI!Thank you for asking.Is it really good?」(タツキ、声かけてくれてありがとうな!本当にいいのか?)
「Of course. He can already prepare.This is a key.」(もちろん、彼はもう準備出来ているよ、ほら、これが鍵だよ)
「Thank you !」(ありがとうな)
「Please enjoy yourself.」(ふふっ楽しんで!)
****
よく聞こえないが、辰起は大柄な黒人男性と親しげに話し何かを手渡し、そのままホテルから出て行こうとしていた。一方男はニヤニヤと含み笑いを浮かべながらエレベーターへと向かっていた。
「まさか……」
どちらを追うべきか一瞬迷ったが、黒人の男の後を追って同じエレベーターに乗り込んだ。
そして嬉しそうにニヤニヤしている男の手元を見ると、ホテルの客室のルームキーが握りしめられていた。
必死に目を凝らして部屋番号を確認した。
そうだ、俺は嫌な予感をすでにこの時感じ取っていたのだ。
そして目に入って来た部屋番号は……やはり案じていた通り『2408』だった。
それは洋のルームナンバーだ。あいつは今そこにいるはずだ。
その瞬間、かっとした。
エレベーターの中でその男にくるりと突然正面から向き合い、肩を掴んで渾身の力で腹のあたりを蹴り上げてやった。
「ぐはっ!」
醜い蛙が潰れた様な声と共に、エレベーターがガタガタと大きく横に揺れた。
遥か彼方から危険な声が聞こえているのに、俺の躰は暗闇の中で全く動かなくなっていた。
必死にもがくのに、どんどん暗闇の奥深くへと体が沈み込んでいくのを止められない。
そうだ。遥か昔、遠い昔のヨウも、こんな辱めを受けた。洋月……君も宮中で理不尽に躰を弄られて、必死に堪え痛みに我を忘れそうな辛い思いをした。
バタンー
その時……残酷に、扉がしまる音が響いた。
逃げ出さないと。そうしないと大変なことになってしまう。それは重々承知しているのに、身動き一つ出来ない自分が、ただひたすらに悔しかった。
****
「遅いな」
時間や約束には几帳面な奴だと思ったが、腕時計を見ると待ち合わせの時間からすでに十分経過していた。
確かに空からこのホテルだと聞いていた。だがこのホテルには宿泊せずに、涼の実家にいることも聞いていたので、俺はさっきからずっとロビーの柱にもたれながら、ホテルの入り口を伺っていた。
「……来ないな」
父親と十五年ぶりに再会するのだから、俺の方だって今日はあまり余裕ないぞ。そんな中お前が来ないと話にならないじゃないか。そんなイライラをぶつける相手が欲しくて、空に連絡をした。
「おい空、あいつが来ない。今何処にいるか知っているか」
すぐに空の既読が付いた。
「おはよう。陸。そうなの? 今朝まで涼くんの家にいて、朝早くにホテルに行って帰国の荷物をまとめるって連絡はもらっているよ。何でも今日帰国したいらしいから」
「……そうなのか」
「何かあった?」
「いや……あいつの部屋番号教えてくれないか」
「え……どうして? 」
「待ち合わせ時間を過ぎても来ないからさ」
「あっ本当だ、もう15分も過ぎているね、荷物整理に手間取っているのかな」
「いいから教えろよ」
「分かったよ。えっとね、2408だよ」
「OKありがとうな。また報告する」
「あ……陸、何かあったら手伝うから、僕を呼んで」
「あぁ分かった。ありがとうな」
さてと、これ以上待っても来なかったら部屋に行ってみようか。だがいきなり部屋を訪ねるのは躊躇するもんだ。結局そのままイライラと待っていると、ロビーを横切る人混みの中によく知った顔を見つけた。
「あいつ……なんでこんな所に? 」
それは辰起だった。まさか洋の所に来たのか。一抹の不安が胸に過った。声をかけようと近づいていくと、辰起は誰かを見つけたらしく手を振りながら違う方向へと近づいて行った。
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「Hi! Simon. 」(やあサイモン!)
「TATUKI!Thank you for asking.Is it really good?」(タツキ、声かけてくれてありがとうな!本当にいいのか?)
「Of course. He can already prepare.This is a key.」(もちろん、彼はもう準備出来ているよ、ほら、これが鍵だよ)
「Thank you !」(ありがとうな)
「Please enjoy yourself.」(ふふっ楽しんで!)
****
よく聞こえないが、辰起は大柄な黒人男性と親しげに話し何かを手渡し、そのままホテルから出て行こうとしていた。一方男はニヤニヤと含み笑いを浮かべながらエレベーターへと向かっていた。
「まさか……」
どちらを追うべきか一瞬迷ったが、黒人の男の後を追って同じエレベーターに乗り込んだ。
そして嬉しそうにニヤニヤしている男の手元を見ると、ホテルの客室のルームキーが握りしめられていた。
必死に目を凝らして部屋番号を確認した。
そうだ、俺は嫌な予感をすでにこの時感じ取っていたのだ。
そして目に入って来た部屋番号は……やはり案じていた通り『2408』だった。
それは洋のルームナンバーだ。あいつは今そこにいるはずだ。
その瞬間、かっとした。
エレベーターの中でその男にくるりと突然正面から向き合い、肩を掴んで渾身の力で腹のあたりを蹴り上げてやった。
「ぐはっ!」
醜い蛙が潰れた様な声と共に、エレベーターがガタガタと大きく横に揺れた。
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