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第8章
交差の時 13
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「えっ……」
俺の前に、すっと立ちはだかってくれた伯父の後ろ姿を呆然と見つめることしか出来なかった。
スーツが良く似合う肩幅のある頼もしい大人の背中だった。
本当に…?
聞き間違えではないのか、俺のことを『私の息子』と呼んでくれたのは。
こんな広い背中に俺は遠い昔おんぶしてもらったような気がする。どことなく実父の面影を感じ、こんな状況なのに目の奥がじんと熱くなってしまった。
「さぁもう行こう。洋」
振り向いた伯父は毅然とした態度で俺の背中を押して、出口まで誘導してくれた。
「くそっなんだよ! 親に庇ってもらっていい御身分だな! 覚えていろよっ」
後ろから襲い掛かる辰起の怒りで震える声に対して、伯父は静かにこう告げた。
「君は随分と言葉遣いが悪いね。私はこのニューヨークでの弁護士の資格を持っている。はっきり言わせてもらうと、君が今していたことは立派な犯罪にあたるのだから、自分の身の程をよくわきまえなさい。これ以上、私の息子に手を出すようなことがあったら法的手段に訴えても構わないのだから」
「くそっ……」
言い返せなくなった辰起は俺達を押しのけて、先にパウダールームから飛び出して行った。
「ふぅ。やれやれまだ年若い少年なのに、なんとやさぐれた子なんだろう。洋くん大丈夫だったかかい?」
「伯父さん……」
俺の戸惑った様子を見て、伯父さんは少しすまなそうな表情を浮かべた。
「あぁ、咄嗟に息子だなんて言ってしまって、気を悪くしなかったかい? 」
「とんでもないです。あの俺…」
違うんだ。気なんて悪くなるはずがない。むしろ……もう二十八歳になろうとしていて……もういい大人でなくてはいけないのに……伯父に思いがけず庇ってもらって、心地よい安堵感を感じていたのだ。
「実際、君はもう私達の子供のような気分だよ。君の生い立ちと今までの生活を詳しく朝から聞いてね、それから涼からも君の大学時代のアメリカでの暮らしぶりを聞いて、何か役に立てることはないかとずっと私なりに考えていたのだよ。君は必死に大人ぶろうとしているが、甘えることが出来なかった分、私達にはまだ小さな子供のように甘えていいのだよ」
「うっ……伯父さん、俺……嬉しかったです。本当の父さんみたいに頼もしくて、カッコ良くて……伯父さんっ……伯父さん……」
伯父さんの広い胸にもたれてとうとう泣いてしまった。スーツを涙で汚してはいけないと思うのに、もう止まらなかった。
「洋くん、それでいいんだ。甘えなさい。君はもっと甘えてもいいんだよ。朝と私たちがいるのだから……ニューヨークでも君はもう一人じゃない」
「……っつ…俺っ」
こんなに安心できるなんて。
伯父と伯母とか……そういう親戚関係が皆無だった俺だから、どう接していいか分からなくてぎこちなかったのに、伯父の方から垣根を飛び越えてやってきてくれた。
「しかし君はなんだか危なっかしいな。こんな調子で義理のお父さんに会えるのか。当日は私も立ち会うことにしようか」
「伯父さん……そんなことまで。……大丈夫です。実は義父のもとには、彼の実の息子と一緒に行くから……お互いその日は一人で行く約束をしているので」
「そうか、それならばしょうがないな。だが何かあったらすぐに連絡をするのだよ。その代り、その日までは私たちのもとで暮らしなさい。さっきの子がまた何か仕出かすか分からないからね」
「ありがとうございます。そうさせて下さい。あの……本当に俺、嬉しいです」
「あぁ、さぁもう泣き止みなさい。そんな顔していると朝がまた心配するぞ」
「はい」
鏡を見るとさっきより目が充血して酷い顔になっていて、恥ずかしかった。
辰起に脅され恐怖に震えていたのが噓のように、今は心が熱く熱く、興奮している。
あとがき(不要な方はスルーで)
****
こんにちは、志生帆 海です。今日は私の大好きなシーンでした。
涼のお父さんが洋を「私の息子」と呼んで、守る。
洋は本当に苦労した人なので、この先どんどんこうやって良縁に恵まれて欲しいです。
俺の前に、すっと立ちはだかってくれた伯父の後ろ姿を呆然と見つめることしか出来なかった。
スーツが良く似合う肩幅のある頼もしい大人の背中だった。
本当に…?
聞き間違えではないのか、俺のことを『私の息子』と呼んでくれたのは。
こんな広い背中に俺は遠い昔おんぶしてもらったような気がする。どことなく実父の面影を感じ、こんな状況なのに目の奥がじんと熱くなってしまった。
「さぁもう行こう。洋」
振り向いた伯父は毅然とした態度で俺の背中を押して、出口まで誘導してくれた。
「くそっなんだよ! 親に庇ってもらっていい御身分だな! 覚えていろよっ」
後ろから襲い掛かる辰起の怒りで震える声に対して、伯父は静かにこう告げた。
「君は随分と言葉遣いが悪いね。私はこのニューヨークでの弁護士の資格を持っている。はっきり言わせてもらうと、君が今していたことは立派な犯罪にあたるのだから、自分の身の程をよくわきまえなさい。これ以上、私の息子に手を出すようなことがあったら法的手段に訴えても構わないのだから」
「くそっ……」
言い返せなくなった辰起は俺達を押しのけて、先にパウダールームから飛び出して行った。
「ふぅ。やれやれまだ年若い少年なのに、なんとやさぐれた子なんだろう。洋くん大丈夫だったかかい?」
「伯父さん……」
俺の戸惑った様子を見て、伯父さんは少しすまなそうな表情を浮かべた。
「あぁ、咄嗟に息子だなんて言ってしまって、気を悪くしなかったかい? 」
「とんでもないです。あの俺…」
違うんだ。気なんて悪くなるはずがない。むしろ……もう二十八歳になろうとしていて……もういい大人でなくてはいけないのに……伯父に思いがけず庇ってもらって、心地よい安堵感を感じていたのだ。
「実際、君はもう私達の子供のような気分だよ。君の生い立ちと今までの生活を詳しく朝から聞いてね、それから涼からも君の大学時代のアメリカでの暮らしぶりを聞いて、何か役に立てることはないかとずっと私なりに考えていたのだよ。君は必死に大人ぶろうとしているが、甘えることが出来なかった分、私達にはまだ小さな子供のように甘えていいのだよ」
「うっ……伯父さん、俺……嬉しかったです。本当の父さんみたいに頼もしくて、カッコ良くて……伯父さんっ……伯父さん……」
伯父さんの広い胸にもたれてとうとう泣いてしまった。スーツを涙で汚してはいけないと思うのに、もう止まらなかった。
「洋くん、それでいいんだ。甘えなさい。君はもっと甘えてもいいんだよ。朝と私たちがいるのだから……ニューヨークでも君はもう一人じゃない」
「……っつ…俺っ」
こんなに安心できるなんて。
伯父と伯母とか……そういう親戚関係が皆無だった俺だから、どう接していいか分からなくてぎこちなかったのに、伯父の方から垣根を飛び越えてやってきてくれた。
「しかし君はなんだか危なっかしいな。こんな調子で義理のお父さんに会えるのか。当日は私も立ち会うことにしようか」
「伯父さん……そんなことまで。……大丈夫です。実は義父のもとには、彼の実の息子と一緒に行くから……お互いその日は一人で行く約束をしているので」
「そうか、それならばしょうがないな。だが何かあったらすぐに連絡をするのだよ。その代り、その日までは私たちのもとで暮らしなさい。さっきの子がまた何か仕出かすか分からないからね」
「ありがとうございます。そうさせて下さい。あの……本当に俺、嬉しいです」
「あぁ、さぁもう泣き止みなさい。そんな顔していると朝がまた心配するぞ」
「はい」
鏡を見るとさっきより目が充血して酷い顔になっていて、恥ずかしかった。
辰起に脅され恐怖に震えていたのが噓のように、今は心が熱く熱く、興奮している。
あとがき(不要な方はスルーで)
****
こんにちは、志生帆 海です。今日は私の大好きなシーンでした。
涼のお父さんが洋を「私の息子」と呼んで、守る。
洋は本当に苦労した人なので、この先どんどんこうやって良縁に恵まれて欲しいです。
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