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第8章
交差の時 12
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泣いたことを伯父と伯母に気づかれたくなくて水で顔を洗った。
ハンカチで顔を拭いていると背後に人の気配を感じたので何気なく鏡越しに相手を見ると、驚いたことに、あの少年が立っていた。
またあの目だ……怒りに満ちた目で俺のことを睨んでいた。
「君は……」
「……また会いましたね」
「あっその、昨日は俺が余計なことをして……」
「いいんですよ。撮影は楽しかったですか」
「あっはい……」
フッと自嘲的な笑みを浮かべ、一歩また一歩と辰起と呼ばれた少年が近づいて来たので、身構えてしまった。手に、まさかまたカッターナイフを持っているのだろうか。彼の手元が気になってしょうがない。しかもこんな狭い空間では逃げ場がない。
「楽しかったなら、もっとやりませんか」
「えっ何を? 」
「モデルですよ。あなたがSoilさんに頼まれてプライベートで林ってカメラマンに撮ってもらったの知っていますよ。彼が今来ているから、撮ってもらいませんか、撮られるの好きなんでしょ」
「違うっ……昨日は……Soilさんが困っていたから、余計なことをしたのは詫びる。それに俺はもうモデルはしない」
「へぇ……断っていいんですか」
「……もし俺が断ったら?」
「そうですねぇ、今度は何を倒そうかな。Soilさんが傷つくか涼が傷つくか……見物ですね」
その言葉の意味は……まさかあの日本での事故は……涼が陸さんを庇って怪我した事故って、偶然ではなく故意に起きたものだったのか。どうしてこんなまだ若い少年が、そこまで出来るのか。急に背筋がぞっとした。
「君は一体……まさか…」
「ふっ驚いています? 僕には怖いものなんてないですよ。泣けって言われればいくらでも泣きます。謝れって言われれば塩らしおらしく泣くことも出来ますよ。僕はね、その陰で、こんなこと考えちゃうんです。人と肉体的に精神的に傷つけるのは簡単だ。その人にとっての弱みを握って脅せばいいんですから」
「そんなの……おかしい。君は間違っている!」
「さぁどうします? 言うこと聞きます? それとも少し痛い目にあいますか? 」
照明を落としたパウダールームの鏡に、きらりと光るものが映った。カッターナイフだ。やっぱり持っていたのか。こんなところで騒ぎを起こして伯父や叔母に心配をかけたくない。
「やめろっやめてくれ! 」
「じゃあ言うこと聞きます? 」
くくくっと高笑いをあげる様子に、絶望的になった。
「さぁ行きましょうよ。今すぐに撮影してもらえますよ。カメラマンがすぐそこにいるし……僕の部屋を貸してあげるから」
どうしたらいいのか、迷って途方に暮れていると手首をぐいっと強引に掴まれた。この細い躰のどこにこんな力があるのかと驚くほど、痛い位きつく引っ張られた。
「あっ……ちょっと待ってくれ! やめろ! 」
ずるずると引きずられそうになったのを、踏ん張って堪えようとした時、パウダールームのドアがバンっと大きな音を立てて開いた。
「君っ! 何をしているんだ? 」
険しい声で近づいて来たのは伯父だった。ツカツカと歩み寄って、掴まれた手をぐいっと引き離してくれた。
「なんだよ。このおっさん!今僕はこいつと話している最中なんだよ。邪魔すんなよ」
辰起がカッとなって汚い言葉で言い返した。
すると伯父は小さな溜息の後、はっきりとこう告げた。
「私の息子に何か用事でも?」
ハンカチで顔を拭いていると背後に人の気配を感じたので何気なく鏡越しに相手を見ると、驚いたことに、あの少年が立っていた。
またあの目だ……怒りに満ちた目で俺のことを睨んでいた。
「君は……」
「……また会いましたね」
「あっその、昨日は俺が余計なことをして……」
「いいんですよ。撮影は楽しかったですか」
「あっはい……」
フッと自嘲的な笑みを浮かべ、一歩また一歩と辰起と呼ばれた少年が近づいて来たので、身構えてしまった。手に、まさかまたカッターナイフを持っているのだろうか。彼の手元が気になってしょうがない。しかもこんな狭い空間では逃げ場がない。
「楽しかったなら、もっとやりませんか」
「えっ何を? 」
「モデルですよ。あなたがSoilさんに頼まれてプライベートで林ってカメラマンに撮ってもらったの知っていますよ。彼が今来ているから、撮ってもらいませんか、撮られるの好きなんでしょ」
「違うっ……昨日は……Soilさんが困っていたから、余計なことをしたのは詫びる。それに俺はもうモデルはしない」
「へぇ……断っていいんですか」
「……もし俺が断ったら?」
「そうですねぇ、今度は何を倒そうかな。Soilさんが傷つくか涼が傷つくか……見物ですね」
その言葉の意味は……まさかあの日本での事故は……涼が陸さんを庇って怪我した事故って、偶然ではなく故意に起きたものだったのか。どうしてこんなまだ若い少年が、そこまで出来るのか。急に背筋がぞっとした。
「君は一体……まさか…」
「ふっ驚いています? 僕には怖いものなんてないですよ。泣けって言われればいくらでも泣きます。謝れって言われれば塩らしおらしく泣くことも出来ますよ。僕はね、その陰で、こんなこと考えちゃうんです。人と肉体的に精神的に傷つけるのは簡単だ。その人にとっての弱みを握って脅せばいいんですから」
「そんなの……おかしい。君は間違っている!」
「さぁどうします? 言うこと聞きます? それとも少し痛い目にあいますか? 」
照明を落としたパウダールームの鏡に、きらりと光るものが映った。カッターナイフだ。やっぱり持っていたのか。こんなところで騒ぎを起こして伯父や叔母に心配をかけたくない。
「やめろっやめてくれ! 」
「じゃあ言うこと聞きます? 」
くくくっと高笑いをあげる様子に、絶望的になった。
「さぁ行きましょうよ。今すぐに撮影してもらえますよ。カメラマンがすぐそこにいるし……僕の部屋を貸してあげるから」
どうしたらいいのか、迷って途方に暮れていると手首をぐいっと強引に掴まれた。この細い躰のどこにこんな力があるのかと驚くほど、痛い位きつく引っ張られた。
「あっ……ちょっと待ってくれ! やめろ! 」
ずるずると引きずられそうになったのを、踏ん張って堪えようとした時、パウダールームのドアがバンっと大きな音を立てて開いた。
「君っ! 何をしているんだ? 」
険しい声で近づいて来たのは伯父だった。ツカツカと歩み寄って、掴まれた手をぐいっと引き離してくれた。
「なんだよ。このおっさん!今僕はこいつと話している最中なんだよ。邪魔すんなよ」
辰起がカッとなって汚い言葉で言い返した。
すると伯父は小さな溜息の後、はっきりとこう告げた。
「私の息子に何か用事でも?」
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