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第8章
交差の時 2
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「洋くん、お疲れ様!」
スタッフの終了を知らせる声でようやく我に返った。
一時間足らずの撮影だったのに、無我夢中でこなしたので俺が俺でないようなそんな卓越した時を過ごしたようだった。まだすんなりと現実に戻れなくて、呆然と立ち尽くしていると、ふわりと肩にタオルが掛けられた。
誰だ……?
振り向くと陸さんだった。だが……まだこうやって面と向かって話すのには少し緊張して言葉に詰まってしまった。
「あっ」
「お前さ……」
やっぱり俺なんかの付け焼刃のモデルなんて、気に食わなかったのだろうか。怒られる? 呆れられる? マイナスなことばかり考えていると、肩にポンと手を置かれた。
「悪くなかった……」
意外な言葉を伝えられ、ドキっとしてしまった。
「あっありがとう……」
「それで一体いつ行くつもりだ? 」
「えっ……」
「俺を父のところに案内するつもりだろう? 」
「あっうん、あの……四日後の日曜日は空いてる? 」
急につっかえていたものが取れたかのように自然にしゃべることが出来て、自分でも驚いてしまった。
「ふっ……いいよ、行くよ」
「ありがとう! じゃあ十時に宿泊先のホテルのロビーで」
「ああ分かった。そうだ……それから辰起には気をつけろよ。あいつ結構しつこくて凶暴だから。まぁあいつも明日からは撮影が押しているから、お前にちょっかい出す暇はないと思うけどな…」
「……分かった」
陸さんが俺の身まで案じてくれているのが信じられなかった。あんなに憎まれ恨まれていた存在だったのに……少しずつ心を開いてくれているのだろうか。
****
「しかし洋くんって、意外と行動力あるんだね」
帰りのタクシーの中で、空さんにしみじみと言われた。
「えっそうですか」
「うん正直驚いた。でも凄く良かったよ。涼くんとはまた違った大人っぽさっていうか……君たち従兄弟は人を魅入らせる天才だね。本当にそういうのってすごく羨ましいな」
「そんな……涼はともかく、俺はいつも目立たないように生きて来たから……そんな才能ありませんよ。でも陸さんや空さんの足をひっぱらなかったのなら良かったです」
「うん……陸もとうとう君に心を許したみたいだね、きっと日曜日の面会は上手くいくよ」
本当にそうなるといい。俺が一歩踏み出したことによって、確かに陸さんとの距離が近づいていると感じていた。
「じゃあ、僕は明日から別件の仕事が入っていて別行動になるけれども、大丈夫? 丈さんからも頼まれているから心配だな。君を一人にするのは……」
「そんな……大丈夫ですよ。ここは五年以上暮らした土地だし、高級なホテルも取ってもらったし、気を付けて過ごしますから」
宿泊先のホテルのロビーで空さんと別れた。
少し空さんの様子が気になったが……その時はそこまで気にかけていなかった。それよりも俺が仕事を奪ってしまったあの辰起という少年のことが気になっていた。
きっと……恨みを買ってしまっただろう。
彼は俺の撮影も見ずに消えてしまったから、そこまで案ずることはないと思うが陸さんにも忠告されたことだし、なるべく気をつけよう。そんな一抹の不安を抱きながらホテルの自分の客室の前まで行くと、そこに黒い人影を動いた。
「えっ……」
スタッフの終了を知らせる声でようやく我に返った。
一時間足らずの撮影だったのに、無我夢中でこなしたので俺が俺でないようなそんな卓越した時を過ごしたようだった。まだすんなりと現実に戻れなくて、呆然と立ち尽くしていると、ふわりと肩にタオルが掛けられた。
誰だ……?
振り向くと陸さんだった。だが……まだこうやって面と向かって話すのには少し緊張して言葉に詰まってしまった。
「あっ」
「お前さ……」
やっぱり俺なんかの付け焼刃のモデルなんて、気に食わなかったのだろうか。怒られる? 呆れられる? マイナスなことばかり考えていると、肩にポンと手を置かれた。
「悪くなかった……」
意外な言葉を伝えられ、ドキっとしてしまった。
「あっありがとう……」
「それで一体いつ行くつもりだ? 」
「えっ……」
「俺を父のところに案内するつもりだろう? 」
「あっうん、あの……四日後の日曜日は空いてる? 」
急につっかえていたものが取れたかのように自然にしゃべることが出来て、自分でも驚いてしまった。
「ふっ……いいよ、行くよ」
「ありがとう! じゃあ十時に宿泊先のホテルのロビーで」
「ああ分かった。そうだ……それから辰起には気をつけろよ。あいつ結構しつこくて凶暴だから。まぁあいつも明日からは撮影が押しているから、お前にちょっかい出す暇はないと思うけどな…」
「……分かった」
陸さんが俺の身まで案じてくれているのが信じられなかった。あんなに憎まれ恨まれていた存在だったのに……少しずつ心を開いてくれているのだろうか。
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「しかし洋くんって、意外と行動力あるんだね」
帰りのタクシーの中で、空さんにしみじみと言われた。
「えっそうですか」
「うん正直驚いた。でも凄く良かったよ。涼くんとはまた違った大人っぽさっていうか……君たち従兄弟は人を魅入らせる天才だね。本当にそういうのってすごく羨ましいな」
「そんな……涼はともかく、俺はいつも目立たないように生きて来たから……そんな才能ありませんよ。でも陸さんや空さんの足をひっぱらなかったのなら良かったです」
「うん……陸もとうとう君に心を許したみたいだね、きっと日曜日の面会は上手くいくよ」
本当にそうなるといい。俺が一歩踏み出したことによって、確かに陸さんとの距離が近づいていると感じていた。
「じゃあ、僕は明日から別件の仕事が入っていて別行動になるけれども、大丈夫? 丈さんからも頼まれているから心配だな。君を一人にするのは……」
「そんな……大丈夫ですよ。ここは五年以上暮らした土地だし、高級なホテルも取ってもらったし、気を付けて過ごしますから」
宿泊先のホテルのロビーで空さんと別れた。
少し空さんの様子が気になったが……その時はそこまで気にかけていなかった。それよりも俺が仕事を奪ってしまったあの辰起という少年のことが気になっていた。
きっと……恨みを買ってしまっただろう。
彼は俺の撮影も見ずに消えてしまったから、そこまで案ずることはないと思うが陸さんにも忠告されたことだし、なるべく気をつけよう。そんな一抹の不安を抱きながらホテルの自分の客室の前まで行くと、そこに黒い人影を動いた。
「えっ……」
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