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第8章
あの空の色 9
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まずい人が来た。俺は慌ててキャップを被り、顔をさりげなく背けながら外へ出ようとした。
早く空さんのもとへ戻らないと。やっぱり撮影現場に直接訪ねるのは危険だったかもしれない。外の陽射しを感じ、ほっとしたのもつかの間、強い口調で呼び止められてしまった。
「おいっ、待てよ!」
背後から聞こえたのは日本語だ。撮影のスタッフだろうか。そうなると、ますますまずい。足早に無視して去ろうとした時、突然その男にぐいっと腕を掴まれて、ぐらりとよろめいてしまった。それからさらに右腕を背中に回されてぐいっと捩じりあげられて、激痛が稲妻のように躰に走った。
「痛っ!」
突然の痛みに思わず悲鳴を上げそうになったが、唇を噛んで我慢した。こんなところで騒ぎを起こしたくない。空さんや陸さんに迷惑をかけることになってしまうのは嫌だ。
「あんたさ、顔よく見せてくれない?」
「手を離してくれないか……一体急にどういうつもりだ?」
俺も負けずに必死に体を揺すって抵抗し、腕を振りほどこうとするが、逆にギリギリと更に捩じりあげられてしまう。
「うっ……」
腕と肩がぎゅうっと更に強く痛みだす。どうしてこんな酷い仕打ちを初対面の人から受けるのか分からず困惑してしまった。
「いいからっそのキャップ取れよ!」
男の手によって容赦なくキャップが取り除かれ、キャップはふわっと空に舞い、顔が丸見えになってしまった。
「やっぱり! お前っ! おいっなんでここにいる? 」
「えっ!」
その男はさっき陸さんと撮影をしていた男の子だった。さっきまで陸さんよりずっと幼く見えていたのに、今は怒りに満ちた恐ろしい形相になっていた。
「涼、また僕の仕事を奪う気なのか。Soilさんに言われてのこのこアメリカまで付いてきたのか。それとも監督にか」
「なっ…」
「この淫乱! どうやってSoilさんや撮影監督に取り入ったんだ! このイヤらしい躰でかっ」
どうやらこの男は俺のことを涼と誤解しているようだ。顔が似ているのは認めるし、今日の俺は涼の年代が着そう洋服を着ていたので間違えるのも無理がないが……この酷い言われように悔しい気持ちになる。俺のことはともかく、涼のことをそんな風に言うなんて許せない。
しかし捩じられた腕の痛みがどんどん増して、それに耐えるのに精一杯でなんの返答も出来ない。冷や汗が込み上げてくるほどの激痛で真っ青になり、動けなかった。
一見可愛い感じの華奢な少年にこんな力があるなんて。涼への怒りを真正面から受け止める形になって戸惑っていた。
「お前、今すぐ日本に帰れよっ! Soilさんの周りうろつくな。さもないと」
突然、背後からぴたりと冷たいものが頬にあたって、躰に緊張が走る。
「なっやめろっ」
「五月蠅いっ! くそっ! やっぱりあの日この顔に傷つけてやれば良かった。今からでも遅くないかっ」
太陽を受け止めた鋭利なカッターナイフが目の前に光っていた。
「やめろっ!!」
シュッとナイフが空を切る音がした。
もう駄目だ!
目を瞑った瞬間だった。
カランっとナイフがコンクリートの床に落ちる音。
そして次の瞬間、その少年がトイレの壁に吹っ飛び、ドスンという音が鳴り響いた。
早く空さんのもとへ戻らないと。やっぱり撮影現場に直接訪ねるのは危険だったかもしれない。外の陽射しを感じ、ほっとしたのもつかの間、強い口調で呼び止められてしまった。
「おいっ、待てよ!」
背後から聞こえたのは日本語だ。撮影のスタッフだろうか。そうなると、ますますまずい。足早に無視して去ろうとした時、突然その男にぐいっと腕を掴まれて、ぐらりとよろめいてしまった。それからさらに右腕を背中に回されてぐいっと捩じりあげられて、激痛が稲妻のように躰に走った。
「痛っ!」
突然の痛みに思わず悲鳴を上げそうになったが、唇を噛んで我慢した。こんなところで騒ぎを起こしたくない。空さんや陸さんに迷惑をかけることになってしまうのは嫌だ。
「あんたさ、顔よく見せてくれない?」
「手を離してくれないか……一体急にどういうつもりだ?」
俺も負けずに必死に体を揺すって抵抗し、腕を振りほどこうとするが、逆にギリギリと更に捩じりあげられてしまう。
「うっ……」
腕と肩がぎゅうっと更に強く痛みだす。どうしてこんな酷い仕打ちを初対面の人から受けるのか分からず困惑してしまった。
「いいからっそのキャップ取れよ!」
男の手によって容赦なくキャップが取り除かれ、キャップはふわっと空に舞い、顔が丸見えになってしまった。
「やっぱり! お前っ! おいっなんでここにいる? 」
「えっ!」
その男はさっき陸さんと撮影をしていた男の子だった。さっきまで陸さんよりずっと幼く見えていたのに、今は怒りに満ちた恐ろしい形相になっていた。
「涼、また僕の仕事を奪う気なのか。Soilさんに言われてのこのこアメリカまで付いてきたのか。それとも監督にか」
「なっ…」
「この淫乱! どうやってSoilさんや撮影監督に取り入ったんだ! このイヤらしい躰でかっ」
どうやらこの男は俺のことを涼と誤解しているようだ。顔が似ているのは認めるし、今日の俺は涼の年代が着そう洋服を着ていたので間違えるのも無理がないが……この酷い言われように悔しい気持ちになる。俺のことはともかく、涼のことをそんな風に言うなんて許せない。
しかし捩じられた腕の痛みがどんどん増して、それに耐えるのに精一杯でなんの返答も出来ない。冷や汗が込み上げてくるほどの激痛で真っ青になり、動けなかった。
一見可愛い感じの華奢な少年にこんな力があるなんて。涼への怒りを真正面から受け止める形になって戸惑っていた。
「お前、今すぐ日本に帰れよっ! Soilさんの周りうろつくな。さもないと」
突然、背後からぴたりと冷たいものが頬にあたって、躰に緊張が走る。
「なっやめろっ」
「五月蠅いっ! くそっ! やっぱりあの日この顔に傷つけてやれば良かった。今からでも遅くないかっ」
太陽を受け止めた鋭利なカッターナイフが目の前に光っていた。
「やめろっ!!」
シュッとナイフが空を切る音がした。
もう駄目だ!
目を瞑った瞬間だった。
カランっとナイフがコンクリートの床に落ちる音。
そして次の瞬間、その少年がトイレの壁に吹っ飛び、ドスンという音が鳴り響いた。
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