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第8章
あの空の色 7
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あいつが見ている。
その視線を、俺は確実に感じていた。木陰から俺を見つめる視線。帽子を目深に被って、先日と随分違った随分とラフな姿だが、遠目にもすぐに分かった。
サイガヨウ……洋……
あいつの視線は憎しみを含んだものでなかった。おい、何故そんな目で俺を見ることができる? 俺はお前に酷いことをしたし、もっと酷いことをしようと思っていたのに。
ニューヨークに着いた翌日、セントラルパークでの屋外の撮影が始まった。
少々時差ボケの残る頭に、五月の新緑が眩しかった。どこまでも広がる緑の芝生は、中学生の時に打ち込んだサッカー場の芝を彷彿させるものだった。そのせいか、いつもより俺の心が澄んでいるような気がした。
「Soilいいね。そうそう攻撃的でない君も新鮮だよ」
「へぇSoil……こんな表情も出来るのか。いいぞ目線こっちにくれる? 」
カメラマンやプロデューサーの声に乗せられ、俺はポーズを次々と決めていく。どこかいつもの俺ではないような……遠い昔に置いて来た少年のような澄んだ心が蘇って来ていた。
心が軽いな──
サイガヨウ、お前が見ている前で、こんな感覚に陥るなんて、不思議だな。
「あぁもうっ、駄目だ。だめ! 」
気持ち良く撮影していたのに、突然プロデューサーの怒り声で打ち破られてしまった。
一体何だ? 俺に何か問題でもあるのか。
「どうしました?何か」
「あっごめんごめん。soilのことじゃないよ。こっちの坊やの表情がきつくて……なんていうかイメージに合わないんだ、全然この背景にしっくり来なくてね」
ふと反対側の撮影現場を見ると、見たことがある奴がいた。
あいつは以前事務所のロッカールームで涼をカッターで切りつけた少年だ。名前は辰起(たつき)だったか。怒られて悔しさそうに憎しみを秘めた目をしている。キツイ性格がそうなってしまうと丸出しになってしまうのに、損なことを。
あいつは子役上がりで気が強いから、急病で涼に仕事を変わってもらった癖に仕事を取られたって逆恨みして、全く厄介な奴だ。
やれやれ……今回の撮影そういえば一緒だったな。あとで二人のシーンもあるのに、この調子じゃ先が思いやられるな。
「せっかくSoilがこのニューヨークのセントラルパークの爽やかさに沿う、優しい雰囲気になっているのに、あの子のあのキツイ表情じゃ台無しですね」
マネージャーたちも困り顔で、相談しあっている。
「僕の何がいけないっていうんです? 急に雰囲気を変えたSoilさんに合わせろって? 」
おいおい言ってくれるな、随分と。あいつはまだまだ子供だ。モデルなんだから撮影の雰囲気に自分を合わせて変化させないといけないのに、どうやらこの分じゃ今日の撮影は長引きそうだ。溜息を交じりにちらっとサイガヨウがいる木陰に目をやると、いつの間にか空が隣に立っていた。
空を見るとほっとする。ちゃんと来てくれたんだな。この撮影は空が編集する雑誌の企画だったから、俺も快く引き受けたんだ。
空とサイガヨウ──
なんだか二人共気が合いそうだ。空もサイガヨウもお人好しだから。
なにやら二人で話した後、空が俺のことを真っすぐに見つめてきた。優しい穏やかな表情で、それから、目元に手をやって……ん? もしかして涙ぐんでいるのか。でも何故……そんな風に嬉しそうに泣く?
俺は人の感情を読むのが得意でないから、空の涙もサイガヨウの優しい視線の意味も分からない。
何も掴めていない。それが本音だった。
その視線を、俺は確実に感じていた。木陰から俺を見つめる視線。帽子を目深に被って、先日と随分違った随分とラフな姿だが、遠目にもすぐに分かった。
サイガヨウ……洋……
あいつの視線は憎しみを含んだものでなかった。おい、何故そんな目で俺を見ることができる? 俺はお前に酷いことをしたし、もっと酷いことをしようと思っていたのに。
ニューヨークに着いた翌日、セントラルパークでの屋外の撮影が始まった。
少々時差ボケの残る頭に、五月の新緑が眩しかった。どこまでも広がる緑の芝生は、中学生の時に打ち込んだサッカー場の芝を彷彿させるものだった。そのせいか、いつもより俺の心が澄んでいるような気がした。
「Soilいいね。そうそう攻撃的でない君も新鮮だよ」
「へぇSoil……こんな表情も出来るのか。いいぞ目線こっちにくれる? 」
カメラマンやプロデューサーの声に乗せられ、俺はポーズを次々と決めていく。どこかいつもの俺ではないような……遠い昔に置いて来た少年のような澄んだ心が蘇って来ていた。
心が軽いな──
サイガヨウ、お前が見ている前で、こんな感覚に陥るなんて、不思議だな。
「あぁもうっ、駄目だ。だめ! 」
気持ち良く撮影していたのに、突然プロデューサーの怒り声で打ち破られてしまった。
一体何だ? 俺に何か問題でもあるのか。
「どうしました?何か」
「あっごめんごめん。soilのことじゃないよ。こっちの坊やの表情がきつくて……なんていうかイメージに合わないんだ、全然この背景にしっくり来なくてね」
ふと反対側の撮影現場を見ると、見たことがある奴がいた。
あいつは以前事務所のロッカールームで涼をカッターで切りつけた少年だ。名前は辰起(たつき)だったか。怒られて悔しさそうに憎しみを秘めた目をしている。キツイ性格がそうなってしまうと丸出しになってしまうのに、損なことを。
あいつは子役上がりで気が強いから、急病で涼に仕事を変わってもらった癖に仕事を取られたって逆恨みして、全く厄介な奴だ。
やれやれ……今回の撮影そういえば一緒だったな。あとで二人のシーンもあるのに、この調子じゃ先が思いやられるな。
「せっかくSoilがこのニューヨークのセントラルパークの爽やかさに沿う、優しい雰囲気になっているのに、あの子のあのキツイ表情じゃ台無しですね」
マネージャーたちも困り顔で、相談しあっている。
「僕の何がいけないっていうんです? 急に雰囲気を変えたSoilさんに合わせろって? 」
おいおい言ってくれるな、随分と。あいつはまだまだ子供だ。モデルなんだから撮影の雰囲気に自分を合わせて変化させないといけないのに、どうやらこの分じゃ今日の撮影は長引きそうだ。溜息を交じりにちらっとサイガヨウがいる木陰に目をやると、いつの間にか空が隣に立っていた。
空を見るとほっとする。ちゃんと来てくれたんだな。この撮影は空が編集する雑誌の企画だったから、俺も快く引き受けたんだ。
空とサイガヨウ──
なんだか二人共気が合いそうだ。空もサイガヨウもお人好しだから。
なにやら二人で話した後、空が俺のことを真っすぐに見つめてきた。優しい穏やかな表情で、それから、目元に手をやって……ん? もしかして涙ぐんでいるのか。でも何故……そんな風に嬉しそうに泣く?
俺は人の感情を読むのが得意でないから、空の涙もサイガヨウの優しい視線の意味も分からない。
何も掴めていない。それが本音だった。
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