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第8章
あの空の色 5
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飛行機は無事にジョン・F・ケネディ国際空港に到着し、そのまま空さんと一緒にシャトルバスを利用してマンハッタンの宿泊先へと向かった。
窓の外には懐かしい風景が広がっている。
去年、丈とここを去る時は、もう暫くは訪れることもないと思っていたのに……こんなに早いタイミングでまた来ることになるとは。あの時は船上での青いリボンの爽やかなサプライズの余韻に浸っていて、とても幸せな気持ちだった。
握り合った手、もたれた胸の広さ……色鮮やかにあの日のことが蘇って来ると、途端に丈のことを思い出して、切ない気持ちになってしまった。きっと今頃、日本で俺のことを心配しながら待っていることだろう。
「丈、無事に着いたよ。行ってくる」
そう心の中で到着の報告をした。
「ふぅ、緊張した。やっぱり洋くんはこっちに住んでいただけあって、慣れているね」
「そうですか」
「うん頼りになるよ。ありがとう」
「いえ……」
空さんとは飛行機で隣の席だったのに、結局ほとんどしゃべることが出来なかった。同じ飛行機に陸さんが乗っているということに緊張してしまっていたのか。結局ビジネスクラスを使う陸さんとは離陸前に会うこともなかったし、空港でもすれ違ってしまったようで、まだ顔も見ていない。だからあまり実感がわかない。
そうだ……今後の予定を聞いておかないと。いきなり二人で義父の家に行くのは急すぎるし、空さんが一緒にいてくれるうちに一度会っておきたい。
「あの……」
「なに? あぁ陸のこと? 」
「はい……あの……彼の撮影っていつからですか。もしよかったら俺も一度見に行けますか」
撮影現場で会うのが一番良いと思った。
「あぁそうだね。陸と一度会った方がいいよね。えっとちょっと待って」
空さんはすぐに手帳を開いて、スケジュールを確認してくれた。
「明日の午後はセントラルパークで撮影するから、僕も取材で同行するよ。その時一緒に行こうか」
「ありがとうございます。ぜひお願いします」
「そうだ……洋くん悪いけど…今日はホテルで一人でゆっくりしていてもらえるかな。僕は別件の仕事があってすぐに支社に行かないといけないんだ」
「はい大丈夫です」
****
ホテルの部屋で、俺は受話器を握りしめていた。
必要以上にきつく、汗ばんだ手で……
「もしもし……お義父さんですか」
「洋かっどうしたんだ? お前が電話してくれるなんて」
「あ……あの実は俺…今ニューヨークに来ています」
「なんだって、どうした? まさか私に会いに来てくれたのか」
ホテルに一人でチェックインした後、思い切って義父へ連絡を取った。
事前にKENTから知らせてもらった情報によると、義父は今はあの夏の別荘ではなく、ューヨーク州の南東部に位置するWestchester(ウエストチェスター)のBronxbillの郊外の一軒家で過ごしているそうだ。あそこは、高級住宅地で非常に環境の良い所だ。義父が車椅子生活なのは変わらないが、日々落ち着いて仕事に打ち込んでいると聞いてほっとした。
「その……」
久しぶりに聴くこの声は、やはり俺にとっては重たいものでしかなかった。でもここで逃げるわけには行かない。今回の旅の目的を忘れてはいけない。
「どうした? 洋は今は丈さんと上手くやっているんだろう? 」
「……はい俺は大丈夫ですが、あの、義父さん、五日後の日曜日って空いていますか。義父さんに会いたい人がいて、一緒にそちらへ伺ってもいいですか。俺からも頼みたいことがあって…」
「私に会いたい人? そんな人……はたしているのかな。本当に」
父の声はとても低く静かで……渇いていた。本当にいないと思っているのだろうか。俺と引き換えに置いて来た実の息子のことを、本当に考えたことはなかったのだろうか。
きっとあるはずだ。
自分の実の子供なんだ。
きっと会えば、分かり合える。
真正面から、ぶつかって行った方がいい。
義父も陸さんも……頑なな所が似ているような気がするから。
窓の外には懐かしい風景が広がっている。
去年、丈とここを去る時は、もう暫くは訪れることもないと思っていたのに……こんなに早いタイミングでまた来ることになるとは。あの時は船上での青いリボンの爽やかなサプライズの余韻に浸っていて、とても幸せな気持ちだった。
握り合った手、もたれた胸の広さ……色鮮やかにあの日のことが蘇って来ると、途端に丈のことを思い出して、切ない気持ちになってしまった。きっと今頃、日本で俺のことを心配しながら待っていることだろう。
「丈、無事に着いたよ。行ってくる」
そう心の中で到着の報告をした。
「ふぅ、緊張した。やっぱり洋くんはこっちに住んでいただけあって、慣れているね」
「そうですか」
「うん頼りになるよ。ありがとう」
「いえ……」
空さんとは飛行機で隣の席だったのに、結局ほとんどしゃべることが出来なかった。同じ飛行機に陸さんが乗っているということに緊張してしまっていたのか。結局ビジネスクラスを使う陸さんとは離陸前に会うこともなかったし、空港でもすれ違ってしまったようで、まだ顔も見ていない。だからあまり実感がわかない。
そうだ……今後の予定を聞いておかないと。いきなり二人で義父の家に行くのは急すぎるし、空さんが一緒にいてくれるうちに一度会っておきたい。
「あの……」
「なに? あぁ陸のこと? 」
「はい……あの……彼の撮影っていつからですか。もしよかったら俺も一度見に行けますか」
撮影現場で会うのが一番良いと思った。
「あぁそうだね。陸と一度会った方がいいよね。えっとちょっと待って」
空さんはすぐに手帳を開いて、スケジュールを確認してくれた。
「明日の午後はセントラルパークで撮影するから、僕も取材で同行するよ。その時一緒に行こうか」
「ありがとうございます。ぜひお願いします」
「そうだ……洋くん悪いけど…今日はホテルで一人でゆっくりしていてもらえるかな。僕は別件の仕事があってすぐに支社に行かないといけないんだ」
「はい大丈夫です」
****
ホテルの部屋で、俺は受話器を握りしめていた。
必要以上にきつく、汗ばんだ手で……
「もしもし……お義父さんですか」
「洋かっどうしたんだ? お前が電話してくれるなんて」
「あ……あの実は俺…今ニューヨークに来ています」
「なんだって、どうした? まさか私に会いに来てくれたのか」
ホテルに一人でチェックインした後、思い切って義父へ連絡を取った。
事前にKENTから知らせてもらった情報によると、義父は今はあの夏の別荘ではなく、ューヨーク州の南東部に位置するWestchester(ウエストチェスター)のBronxbillの郊外の一軒家で過ごしているそうだ。あそこは、高級住宅地で非常に環境の良い所だ。義父が車椅子生活なのは変わらないが、日々落ち着いて仕事に打ち込んでいると聞いてほっとした。
「その……」
久しぶりに聴くこの声は、やはり俺にとっては重たいものでしかなかった。でもここで逃げるわけには行かない。今回の旅の目的を忘れてはいけない。
「どうした? 洋は今は丈さんと上手くやっているんだろう? 」
「……はい俺は大丈夫ですが、あの、義父さん、五日後の日曜日って空いていますか。義父さんに会いたい人がいて、一緒にそちらへ伺ってもいいですか。俺からも頼みたいことがあって…」
「私に会いたい人? そんな人……はたしているのかな。本当に」
父の声はとても低く静かで……渇いていた。本当にいないと思っているのだろうか。俺と引き換えに置いて来た実の息子のことを、本当に考えたことはなかったのだろうか。
きっとあるはずだ。
自分の実の子供なんだ。
きっと会えば、分かり合える。
真正面から、ぶつかって行った方がいい。
義父も陸さんも……頑なな所が似ているような気がするから。
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