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第8章
あの空の色 4
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「嘘っ! やったー月乃くんが参加してくれた! 」
「おう! やっと連れて来たぜ。俺に感謝してくれよ」
「山岡くん流石~! 月乃くんの一番の親友だけあるわ! 」
「はははっ! まあな。さっ月乃はこっちこっち」
女の子の黄色い歓声に圧倒されながら、山岡に手を引かれ飲み会の輪に入った。クラスの懇親会ということだったが、経済学部E組の大半が参加している大規模なもので、あまりのにぎやかさに圧倒されてしまった。
しかもこういう場って日本に来てから初めてなので、勝手が分からないな。
「じゃあ乾杯! 」
「……乾杯」
でも、なんで僕の席こんな端っこで、しかも隣が山岡なんだ? せっかくクラスのメンバーと喋るいい機会なのにさ。ふと疑問が浮かんで小さな声で文句を言ってしまう。
「おい。なんで僕がこの席なの? 」
「あーだって、お前を狙う女子が多すぎだからさ。月乃のことは俺が守ってやるよん~」
「馬鹿かっ」
そう言いながら肩を抱こうとする山岡に驚いて、思わず立ち上がってしまった。すると今度は女の子がキャーキャーワーワーと騒ぎ出す。
「わぁぁぁやっぱりモデルだけあってスタイルいいね~八頭身!! 」
「ねねっ私、月乃くんの出た雑誌全部買っているのよ」
「……えっそうなの? ありがとう」
なんというか、こういう目線に慣れていないので困ってしまう。女の子のキラキラした目線を浴びることが恥ずかしくて、赤面してしまう。
「あれっ月乃くんって意外と純情? 顔赤いよ」
「ほんとほんと」
「もしかしてまだ彼女とかいないの? 」
「なんかキスもまだって感じの清純な顔しているわよねーー! エッチそうな山岡くんとは違って」
「ねぇ~ファーストキスも、もしかしてまだ? 」
「言えてるー! どんな女の子が好み? 私たちの中で誰が好み? 」
勝手なことを想像でどんどん話されて、返答に困って、変な汗が出てきてしまう。
「くっくっ……」
横を見ると山岡が声を殺して笑っていた。
「おいっ笑うなよ」
「だって、あんなことしておいてさ、お前が純情って……ぷっ」
「いいだろっ! 」
****
寺の庭は新緑で埋もれそうなになっていた。つい先日まで染井吉野が咲き乱れていたのに早いものだ。季節はどんどん移ろいで行く。同時に丈と洋くんの関係も、絡まった糸が解けていくようにどんどん進んでいく。
明け方、洋くんがスーツケースを押しながら丈と一緒に出て行った。その後姿を、僕はそっと山門の影から見守った。
重たそうなスーツケースを押す洋くんの背中には、丈の手がそっと添えられていた。
「洋、無理すんな。スーツケースを貸せ」
「この位、自分で押せるよ」
朝の霞に溶けそうな程、仲睦まじい信頼しあった二人の姿が小さく見えなくなるまで、じっと見守ってしまった。
僕も流も心配したが、単身渡米する洋くんの決心は変わらなかった。自分のことは自分でけりをつけたい。一刻も早くこのタイミングで…そう逸る気持ちは分かるが、やはり僕たち兄弟は夕凪の二の舞にならないかと、不安に思ってしまう。
古くからの言い伝えの夕さんと夕凪親子との縁。彼らを守ったのは湖翠と流水という兄弟だった。しかし彼らには弟はいなかったのに、僕たちには丈という弟がいる。これは何を意味するのか、まだ分からない。
清らかな鶯の鳴き声が木立の中から聞こえる。
誘われるように……僕は抜けるような青空を見上げた。
空の彼方のそのまた向こうに、洋くんを乗せた飛行機はもう飛び立ったのだろうか。
洋くん頑張っておいで……
この寺で僕と流は、君の帰りを待ちわびているよ。
「おう! やっと連れて来たぜ。俺に感謝してくれよ」
「山岡くん流石~! 月乃くんの一番の親友だけあるわ! 」
「はははっ! まあな。さっ月乃はこっちこっち」
女の子の黄色い歓声に圧倒されながら、山岡に手を引かれ飲み会の輪に入った。クラスの懇親会ということだったが、経済学部E組の大半が参加している大規模なもので、あまりのにぎやかさに圧倒されてしまった。
しかもこういう場って日本に来てから初めてなので、勝手が分からないな。
「じゃあ乾杯! 」
「……乾杯」
でも、なんで僕の席こんな端っこで、しかも隣が山岡なんだ? せっかくクラスのメンバーと喋るいい機会なのにさ。ふと疑問が浮かんで小さな声で文句を言ってしまう。
「おい。なんで僕がこの席なの? 」
「あーだって、お前を狙う女子が多すぎだからさ。月乃のことは俺が守ってやるよん~」
「馬鹿かっ」
そう言いながら肩を抱こうとする山岡に驚いて、思わず立ち上がってしまった。すると今度は女の子がキャーキャーワーワーと騒ぎ出す。
「わぁぁぁやっぱりモデルだけあってスタイルいいね~八頭身!! 」
「ねねっ私、月乃くんの出た雑誌全部買っているのよ」
「……えっそうなの? ありがとう」
なんというか、こういう目線に慣れていないので困ってしまう。女の子のキラキラした目線を浴びることが恥ずかしくて、赤面してしまう。
「あれっ月乃くんって意外と純情? 顔赤いよ」
「ほんとほんと」
「もしかしてまだ彼女とかいないの? 」
「なんかキスもまだって感じの清純な顔しているわよねーー! エッチそうな山岡くんとは違って」
「ねぇ~ファーストキスも、もしかしてまだ? 」
「言えてるー! どんな女の子が好み? 私たちの中で誰が好み? 」
勝手なことを想像でどんどん話されて、返答に困って、変な汗が出てきてしまう。
「くっくっ……」
横を見ると山岡が声を殺して笑っていた。
「おいっ笑うなよ」
「だって、あんなことしておいてさ、お前が純情って……ぷっ」
「いいだろっ! 」
****
寺の庭は新緑で埋もれそうなになっていた。つい先日まで染井吉野が咲き乱れていたのに早いものだ。季節はどんどん移ろいで行く。同時に丈と洋くんの関係も、絡まった糸が解けていくようにどんどん進んでいく。
明け方、洋くんがスーツケースを押しながら丈と一緒に出て行った。その後姿を、僕はそっと山門の影から見守った。
重たそうなスーツケースを押す洋くんの背中には、丈の手がそっと添えられていた。
「洋、無理すんな。スーツケースを貸せ」
「この位、自分で押せるよ」
朝の霞に溶けそうな程、仲睦まじい信頼しあった二人の姿が小さく見えなくなるまで、じっと見守ってしまった。
僕も流も心配したが、単身渡米する洋くんの決心は変わらなかった。自分のことは自分でけりをつけたい。一刻も早くこのタイミングで…そう逸る気持ちは分かるが、やはり僕たち兄弟は夕凪の二の舞にならないかと、不安に思ってしまう。
古くからの言い伝えの夕さんと夕凪親子との縁。彼らを守ったのは湖翠と流水という兄弟だった。しかし彼らには弟はいなかったのに、僕たちには丈という弟がいる。これは何を意味するのか、まだ分からない。
清らかな鶯の鳴き声が木立の中から聞こえる。
誘われるように……僕は抜けるような青空を見上げた。
空の彼方のそのまた向こうに、洋くんを乗せた飛行機はもう飛び立ったのだろうか。
洋くん頑張っておいで……
この寺で僕と流は、君の帰りを待ちわびているよ。
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