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第8章
あの空の色 3
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退屈な講義の合間に窓際の席から空を見上げた。真っ青な青空の遥か彼方に、真っ白な飛行機が太陽を反射して光って見えた。
飛行機……もうそろそろ離陸した頃かな。
洋兄さん、頑張って来て欲しい。
無事に解決して戻って来て欲しい。
そして陸さんとも和解できるように祈っているよ。
空の向こうへ消えていく飛行機に、僕は願いをこめた。
安志さんから、洋兄さんが陸さんや空さんと一緒にアメリカに行くと聞いた時、正直驚いてしまい、すぐに洋兄さんに電話をかけてしまった。
****
「もしもし……」
「洋兄さん!」
「涼……どうした? そんなに焦って」
電話の向こうの洋兄さんは落ち着いていた。
「安志さんから聞いたんだけど、月末にニューヨークへ行くって本当なの? 洋兄さんのお義父に会うって聞いて……それで驚いちゃって」
「そうだよ、陸さんと一緒に行くよ」
「大丈夫なの?」
本当に心配だよ!
「ふっ……大丈夫だよ。空さんも一緒だし、それに陸さんと俺は、義父のことで、ちゃんと向き合わないといけないし」
「でも……」
「心配症だな、涼は」
「当たり前だよ。洋兄さん危なっかしいから」
つい声を大にしてしまう。
「小さかった涼がそんな風に心配してくれるなんて嬉しいな。でも大丈夫。今回はきっとうまくいく……そんな気がしているから」
「もう呑気だな。そんな不確かなことで。あー僕も一緒に行けたらいいのに……そうだ! 何かあったらニューヨークに住んでいる僕の両親に頼ってね。父さんも母さんも洋兄さんのこと心配していたし」
「んっありがとう。でもきっと迷惑をかけるようなことにはならないよ、俺だって五年以上アメリカに住んでいたのだから勝手も分かるしな」
「とにかく気を付けて」
そこまで一気に話すと、洋兄さんは小さく咳払いし、少し改まった口調になった。
「涼……俺、帰国したらすぐに丈と入籍することになったよ。だから今回は自分でも驚くほど前向きに頑張れそうなんだ」
「えっ入籍って……張矢さんの家の戸籍にってこと? 」
「……そう、日本じゃまだその方法しかないからね。でも、それでも俺は凄く嬉しいよ。崔加の姓から離れることで、一から生まれ変われるようで。何もかも置いて新しい世界に飛び込みたいんだ。その時は皆にきちんと報告したいから、涼もこっちに来てくれ」
「もちろんだよ! 嬉しい! 洋兄さん、本当にどんどん幸せになっていくね」
本当に嬉しい報告だった。
アメリカ行き……丈さんを置いて行くことが不安だったけれども、なんだか洋兄さんはとても前向きで、いつもより男らしく感じてしまった。
****
「月乃! いつまでぼけっとしてるんだよ? 講義、とっくに終わってるぜ」
山岡がいつの間にか隣の席に来ていて、僕の頭をゴツンっと叩いたので、はっと我に返った。
「ったく、痛いなっ」
「えっ何処が痛いって? もしかしてここか」
山岡が笑いながら、腰をさすってきたので足で軽く蹴とばしてやった。そしてお互い笑い合った。
「お前っ! ふざけるなよっ」
「悪いっ悪い」
「なぁ今日は一緒に飲みに行けるよな」
「分かったよ。今日は付き合うから」
「やった! クラスの女子がお前を呼べってうるさくて」
「…」
山岡が耳元で囁いてくる。
「月乃、安心しろ。この前の病院でのこと他言しないからな。その代りたまに俺にも付き合ってくれよ。学生は学生らしく遊ぼうぜ」
「全く……」
能天気な山岡の様子に、思わず苦笑してしまった。でも今はこの明るさが、気が紛れていいのかもしれない。
飛行機……もうそろそろ離陸した頃かな。
洋兄さん、頑張って来て欲しい。
無事に解決して戻って来て欲しい。
そして陸さんとも和解できるように祈っているよ。
空の向こうへ消えていく飛行機に、僕は願いをこめた。
安志さんから、洋兄さんが陸さんや空さんと一緒にアメリカに行くと聞いた時、正直驚いてしまい、すぐに洋兄さんに電話をかけてしまった。
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「もしもし……」
「洋兄さん!」
「涼……どうした? そんなに焦って」
電話の向こうの洋兄さんは落ち着いていた。
「安志さんから聞いたんだけど、月末にニューヨークへ行くって本当なの? 洋兄さんのお義父に会うって聞いて……それで驚いちゃって」
「そうだよ、陸さんと一緒に行くよ」
「大丈夫なの?」
本当に心配だよ!
「ふっ……大丈夫だよ。空さんも一緒だし、それに陸さんと俺は、義父のことで、ちゃんと向き合わないといけないし」
「でも……」
「心配症だな、涼は」
「当たり前だよ。洋兄さん危なっかしいから」
つい声を大にしてしまう。
「小さかった涼がそんな風に心配してくれるなんて嬉しいな。でも大丈夫。今回はきっとうまくいく……そんな気がしているから」
「もう呑気だな。そんな不確かなことで。あー僕も一緒に行けたらいいのに……そうだ! 何かあったらニューヨークに住んでいる僕の両親に頼ってね。父さんも母さんも洋兄さんのこと心配していたし」
「んっありがとう。でもきっと迷惑をかけるようなことにはならないよ、俺だって五年以上アメリカに住んでいたのだから勝手も分かるしな」
「とにかく気を付けて」
そこまで一気に話すと、洋兄さんは小さく咳払いし、少し改まった口調になった。
「涼……俺、帰国したらすぐに丈と入籍することになったよ。だから今回は自分でも驚くほど前向きに頑張れそうなんだ」
「えっ入籍って……張矢さんの家の戸籍にってこと? 」
「……そう、日本じゃまだその方法しかないからね。でも、それでも俺は凄く嬉しいよ。崔加の姓から離れることで、一から生まれ変われるようで。何もかも置いて新しい世界に飛び込みたいんだ。その時は皆にきちんと報告したいから、涼もこっちに来てくれ」
「もちろんだよ! 嬉しい! 洋兄さん、本当にどんどん幸せになっていくね」
本当に嬉しい報告だった。
アメリカ行き……丈さんを置いて行くことが不安だったけれども、なんだか洋兄さんはとても前向きで、いつもより男らしく感じてしまった。
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「月乃! いつまでぼけっとしてるんだよ? 講義、とっくに終わってるぜ」
山岡がいつの間にか隣の席に来ていて、僕の頭をゴツンっと叩いたので、はっと我に返った。
「ったく、痛いなっ」
「えっ何処が痛いって? もしかしてここか」
山岡が笑いながら、腰をさすってきたので足で軽く蹴とばしてやった。そしてお互い笑い合った。
「お前っ! ふざけるなよっ」
「悪いっ悪い」
「なぁ今日は一緒に飲みに行けるよな」
「分かったよ。今日は付き合うから」
「やった! クラスの女子がお前を呼べってうるさくて」
「…」
山岡が耳元で囁いてくる。
「月乃、安心しろ。この前の病院でのこと他言しないからな。その代りたまに俺にも付き合ってくれよ。学生は学生らしく遊ぼうぜ」
「全く……」
能天気な山岡の様子に、思わず苦笑してしまった。でも今はこの明るさが、気が紛れていいのかもしれない。
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