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第7章
解きたい 4
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「洋、寄っていくか?」
「うん、せっかく帰りに横浜を通ることだし……いいかな? 」
「あぁもちろんだ」
陸さんと空さんと別れた後、俺と丈は関内にある安志の職場へと向かった。
安志の奴、この前あんな別れ方をしたからきっと気にしているだろう。もう傷も治ったことだし、今日は元気な顔を見せてやりたい。それにアメリカへ行く話とか、丈の籍に入ることは直接会って話しておきたい。
丈と一緒に安志の勤める『SI警備』の前で待っていると、やがてスーツ姿の安志が出て来た。
へぇ……こんな風に客観的に安志のことを見るのは久しぶりだな。スーツ姿が良く似合って落ち着いて、すっかり大人になったなと改めて思う。頼り甲斐のある奴なんだ。温かい性格で真っすぐで、彼になら涼を任せても大丈夫。安志ならまだ幼さの残る涼のことをちゃんと受け止め幸せにしてくれる。そう心の底から思えることに幸せを感じてしまった。
「安志っ」
「えっ! うわっ洋? 驚いたな。なんでここに? 」
安志は俺達に気が付かずに通り過ぎようとしたので、背後から肩を叩いて声を掛けた。するとまるで幽霊でも見たかのように大きく飛び跳ねて一歩退いたので、その様子に苦笑してしまった。
「おいっ酷いな。そんなに驚いた? 」
「洋っ! もう大丈夫なのか」
安志は嬉しそうに目を細め、指先で俺の唇の傷を確かめるように撫でて来たので、なんだかくすぐったかった。
「おい、よせよ。こんなところで」
「あっ悪い! つい。殴った時の傷、痕になってないか心配してたから」
「もう大丈夫だよ。ほら」
「んー? もっとよく見せろ」
安志が顎を掴んでくるので、思わずたじろいでしまう。
顔近い……
「あーコホンっ」
丈の咳払いでまたもや安志が幽霊でも見たかのように、大きく飛び退いてしまった。
「うわぁ驚いた! あれ? 丈さんも一緒だったんですか」
「……最初から横にいたが」
「えっ気が付かなかった。影薄っ……っと、すいません」
「まったく、君には涼くんがいるのに、さっきから洋にベタベタ……べたべたと…」
うわっまずい。丈が不機嫌になる。
そう思うと、思わず俺の方からフォローしてしまう。
「丈っ何言ってるんだよ。安志は心配して、ほら、俺のこと殴った張本人だからさ」
「洋~もうそれ言うな。思い出すと悲しくなるだろ」
安志に嫌なこと思い出させてしまったようで、シュンとうなだれてしまった。そんな安志が可愛くて、思わず今度は俺の方から頭を撫でてやりたくなってしまった。いや、まてよ。これじゃまた丈に焼きもちをやかせることになるよな。
「安志くん、時間があるなら飲みにいかないか」
「あっはい」
俺達は安志を誘って、元町の中華街へと足を延ばした。
****
「じゃあ乾杯っ。なぁ洋何かいいことがあったのか。いつもより明るいな」
「そうかな? うん……そうだね。確かにこれは……いいことっていうのかな」
洋がちらりと丈さんのことを見つめた。その頬はまだ酒を飲んでいないのに、ほんのりと赤く染まっていた。
「丈さん、洋に何か良いものでも贈ったのですか」
「そうだな……物ではないが、提案をした」
「へぇ……なんの提案ですか」
「それはだな、私の家の籍に入らないかってことだ」
「えっそれって入籍するってことですか。洋が張矢家に? 」
洋のことをちらっとみると、ますます恥ずかしそうに頬を染めていた。でも幸せそうなとろけるような目で丈さんのことを見つめていた。
こんな落ち着いた優しい瞳の洋を見るのは久しぶりだ。何故かまだ洋の両親が生きていた頃いの、幼い頃の甘い笑みを思い出して、胸がズキンとしてしまった。
そうか……『崔加』の姓からとうとう変わるのか。
洋はどんどん……いや、やっと幸せになっていく。
俺も負けないようにするよ。洋が幸せなら俺も幸せだ。
「洋、いよいよなんだな。おめでとう、それでいつなんだ?」
「んっそれが手続きにいろいろあって、一度アメリカに行って来ないといけなくて」
「えっ? アメリカってまさか洋のお義父さんのところにか」
ぞくりとした。あの洋にした仕打ちを考えれば、もう二度と会わなくてもいいものを……
「うん……離縁するには書類が必要で、署名してもらわないといけないし……それに陸さんのこともあって」
「そうか……なんだか心配だな」
この前の騒動であの涼の尊敬する慕っている先輩のSoilさんが、実は洋のお義父さんの実の息子で、陸さんという人物だということは判明した。
「陸さんとのことはどうするんつもりだ?」
「それで……陸さんと一緒に義父に会ってこようかと思って」
「なっ!なんだって!!」
洋の話に動揺し思わず勢いよく立ち上がった拍子に、ビールのグラスを倒してしまった。それは見事に洋に被ってしまい、洋の上着にまで飛び散ってしまった。
「うわっ冷たいっ!安志、ちょっと落ち着けよ」
「うん、せっかく帰りに横浜を通ることだし……いいかな? 」
「あぁもちろんだ」
陸さんと空さんと別れた後、俺と丈は関内にある安志の職場へと向かった。
安志の奴、この前あんな別れ方をしたからきっと気にしているだろう。もう傷も治ったことだし、今日は元気な顔を見せてやりたい。それにアメリカへ行く話とか、丈の籍に入ることは直接会って話しておきたい。
丈と一緒に安志の勤める『SI警備』の前で待っていると、やがてスーツ姿の安志が出て来た。
へぇ……こんな風に客観的に安志のことを見るのは久しぶりだな。スーツ姿が良く似合って落ち着いて、すっかり大人になったなと改めて思う。頼り甲斐のある奴なんだ。温かい性格で真っすぐで、彼になら涼を任せても大丈夫。安志ならまだ幼さの残る涼のことをちゃんと受け止め幸せにしてくれる。そう心の底から思えることに幸せを感じてしまった。
「安志っ」
「えっ! うわっ洋? 驚いたな。なんでここに? 」
安志は俺達に気が付かずに通り過ぎようとしたので、背後から肩を叩いて声を掛けた。するとまるで幽霊でも見たかのように大きく飛び跳ねて一歩退いたので、その様子に苦笑してしまった。
「おいっ酷いな。そんなに驚いた? 」
「洋っ! もう大丈夫なのか」
安志は嬉しそうに目を細め、指先で俺の唇の傷を確かめるように撫でて来たので、なんだかくすぐったかった。
「おい、よせよ。こんなところで」
「あっ悪い! つい。殴った時の傷、痕になってないか心配してたから」
「もう大丈夫だよ。ほら」
「んー? もっとよく見せろ」
安志が顎を掴んでくるので、思わずたじろいでしまう。
顔近い……
「あーコホンっ」
丈の咳払いでまたもや安志が幽霊でも見たかのように、大きく飛び退いてしまった。
「うわぁ驚いた! あれ? 丈さんも一緒だったんですか」
「……最初から横にいたが」
「えっ気が付かなかった。影薄っ……っと、すいません」
「まったく、君には涼くんがいるのに、さっきから洋にベタベタ……べたべたと…」
うわっまずい。丈が不機嫌になる。
そう思うと、思わず俺の方からフォローしてしまう。
「丈っ何言ってるんだよ。安志は心配して、ほら、俺のこと殴った張本人だからさ」
「洋~もうそれ言うな。思い出すと悲しくなるだろ」
安志に嫌なこと思い出させてしまったようで、シュンとうなだれてしまった。そんな安志が可愛くて、思わず今度は俺の方から頭を撫でてやりたくなってしまった。いや、まてよ。これじゃまた丈に焼きもちをやかせることになるよな。
「安志くん、時間があるなら飲みにいかないか」
「あっはい」
俺達は安志を誘って、元町の中華街へと足を延ばした。
****
「じゃあ乾杯っ。なぁ洋何かいいことがあったのか。いつもより明るいな」
「そうかな? うん……そうだね。確かにこれは……いいことっていうのかな」
洋がちらりと丈さんのことを見つめた。その頬はまだ酒を飲んでいないのに、ほんのりと赤く染まっていた。
「丈さん、洋に何か良いものでも贈ったのですか」
「そうだな……物ではないが、提案をした」
「へぇ……なんの提案ですか」
「それはだな、私の家の籍に入らないかってことだ」
「えっそれって入籍するってことですか。洋が張矢家に? 」
洋のことをちらっとみると、ますます恥ずかしそうに頬を染めていた。でも幸せそうなとろけるような目で丈さんのことを見つめていた。
こんな落ち着いた優しい瞳の洋を見るのは久しぶりだ。何故かまだ洋の両親が生きていた頃いの、幼い頃の甘い笑みを思い出して、胸がズキンとしてしまった。
そうか……『崔加』の姓からとうとう変わるのか。
洋はどんどん……いや、やっと幸せになっていく。
俺も負けないようにするよ。洋が幸せなら俺も幸せだ。
「洋、いよいよなんだな。おめでとう、それでいつなんだ?」
「んっそれが手続きにいろいろあって、一度アメリカに行って来ないといけなくて」
「えっ? アメリカってまさか洋のお義父さんのところにか」
ぞくりとした。あの洋にした仕打ちを考えれば、もう二度と会わなくてもいいものを……
「うん……離縁するには書類が必要で、署名してもらわないといけないし……それに陸さんのこともあって」
「そうか……なんだか心配だな」
この前の騒動であの涼の尊敬する慕っている先輩のSoilさんが、実は洋のお義父さんの実の息子で、陸さんという人物だということは判明した。
「陸さんとのことはどうするんつもりだ?」
「それで……陸さんと一緒に義父に会ってこようかと思って」
「なっ!なんだって!!」
洋の話に動揺し思わず勢いよく立ち上がった拍子に、ビールのグラスを倒してしまった。それは見事に洋に被ってしまい、洋の上着にまで飛び散ってしまった。
「うわっ冷たいっ!安志、ちょっと落ち着けよ」
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