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第7章
重なれば満月に 7
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その時、地面がぐらりと揺れたような気がした。
「なんだ? 」
そのまま目の前の光景が幕を閉じたように一瞬で暗くなったので、焦ってパチパチと瞬きをした。すると今度は眩いばかりの月光が、突き刺すように天空から差し込んで来た。
目を細め夜空を見上げれば、大きな下弦の月が手に届きそうな程近くにぽっかりと浮かんでいた。
月は船だった。
その船には人が乗っていた。
雲の波を避け星の林を避けながら、遠い過去、そのまた前の世界からこの船はやってきたのだ。時空を超える旅をしてきた。何故かそう頭の中で冷静に理解していた。
眩いばかりの光線を発する月の船には、浴衣に羽織を着た和装の青年が乗っていた。
「誰だ……君は? 」
俺の声に反応したらしく若い青年が、はっと俺を見降ろした。
長い睫毛の下で揺れる儚げな瞳、薄い桜色の唇。
この顔に見覚えが……これは見慣れた俺の顔だ。
「君は……俺なのか」
青年にも俺が見えるらしく、目を見開いて驚いていた。
「君は……俺なのか」
二人の言葉がぴったりと寄り添うように重なっていく。
俺は片手を月に触れるほど高く伸ばした。その時、隣に立っていた丈に呼び止められた。
「洋、どうしたんだ? 」
「あ……あれ…丈には見えるか。あの月の船が……」
「いや残念ながら、何も見えない。月は雲に隠れ今は闇夜だ」
「そうなのか……今、ここに来ているんだ。あの青年……俺の前世の夕凪が」
「なんだって? 」
俺は、丈と握りあっていた手にギュッと力を込めた。
「夕凪……俺達を見てくれ。俺は今とても幸せなんだ。俺は丈とこれから籍を共にし、ずっと一緒に過ごす約束をしたばかりだ。だから安心してくれ」
そう改めて口にすると、自然と俺の頬は緩んでいった。すると俺の表情をじっと見つめていた青年も、白き花が舞うようなたおやかな優しい微笑み返してくれた。
「君は幸せなんだね……君が幸せなら良かった。俺も幸せになりたい……君が幸せならば、それが希望の光となり、俺を導いてくれるだろう……ありがとう。君に出会えて良かった」
消えそうな寂しい笑みが少し心配になった。
君も俺と同じような理不尽に躰を奪われてしまったのか……まさか……そうなのか。
「諦めないで欲しい。幸せになると願って欲しい。それが今の俺の幸せにつながるのだから」
夕凪に触れてみたいと思い背伸びして手を必死に伸ばすが、月の船にはどうしても触れられない。
やがて雲の波がまたやってきて、船は再びゆっくりと動き出した。
「行ってしまうのか……夕凪っ」
「君は、俺の名前を知っていたのか。では、君の名は……」
その時船が大きく白波に乗り、再び天高く一気に上昇してしまった。
月を挟んだ邂逅だった。
信じられない出来事だった。
夕顔さんの和歌が夕凪を呼んだのか。
君に会えて嬉しかった。
空を見上げれば、月は元の位置に戻って頭上で輝いていた。下弦の月は、まるで船のようだ。
胸の中に熱いものが広がって、じわっと涙が込み上げてしまう。
丈と進む道、これで間違っていない。
俺は夕凪のためにも幸せになりたい。
「洋、大丈夫か。月が戻って来たな。夕凪は……もう行ってしまったのか」
「うん、もうここにはいない」
「……そうか私も会いたかったな」
「丈っ俺達、幸せになろう! 夕凪のためにも」
「もちろんだ、洋。愛しい君と共に、この先私は生きていく」
「俺も同じ気持ちだ。あの下弦の月に誓って」
切なる願いを、俺は夜空に託した。
「なんだ? 」
そのまま目の前の光景が幕を閉じたように一瞬で暗くなったので、焦ってパチパチと瞬きをした。すると今度は眩いばかりの月光が、突き刺すように天空から差し込んで来た。
目を細め夜空を見上げれば、大きな下弦の月が手に届きそうな程近くにぽっかりと浮かんでいた。
月は船だった。
その船には人が乗っていた。
雲の波を避け星の林を避けながら、遠い過去、そのまた前の世界からこの船はやってきたのだ。時空を超える旅をしてきた。何故かそう頭の中で冷静に理解していた。
眩いばかりの光線を発する月の船には、浴衣に羽織を着た和装の青年が乗っていた。
「誰だ……君は? 」
俺の声に反応したらしく若い青年が、はっと俺を見降ろした。
長い睫毛の下で揺れる儚げな瞳、薄い桜色の唇。
この顔に見覚えが……これは見慣れた俺の顔だ。
「君は……俺なのか」
青年にも俺が見えるらしく、目を見開いて驚いていた。
「君は……俺なのか」
二人の言葉がぴったりと寄り添うように重なっていく。
俺は片手を月に触れるほど高く伸ばした。その時、隣に立っていた丈に呼び止められた。
「洋、どうしたんだ? 」
「あ……あれ…丈には見えるか。あの月の船が……」
「いや残念ながら、何も見えない。月は雲に隠れ今は闇夜だ」
「そうなのか……今、ここに来ているんだ。あの青年……俺の前世の夕凪が」
「なんだって? 」
俺は、丈と握りあっていた手にギュッと力を込めた。
「夕凪……俺達を見てくれ。俺は今とても幸せなんだ。俺は丈とこれから籍を共にし、ずっと一緒に過ごす約束をしたばかりだ。だから安心してくれ」
そう改めて口にすると、自然と俺の頬は緩んでいった。すると俺の表情をじっと見つめていた青年も、白き花が舞うようなたおやかな優しい微笑み返してくれた。
「君は幸せなんだね……君が幸せなら良かった。俺も幸せになりたい……君が幸せならば、それが希望の光となり、俺を導いてくれるだろう……ありがとう。君に出会えて良かった」
消えそうな寂しい笑みが少し心配になった。
君も俺と同じような理不尽に躰を奪われてしまったのか……まさか……そうなのか。
「諦めないで欲しい。幸せになると願って欲しい。それが今の俺の幸せにつながるのだから」
夕凪に触れてみたいと思い背伸びして手を必死に伸ばすが、月の船にはどうしても触れられない。
やがて雲の波がまたやってきて、船は再びゆっくりと動き出した。
「行ってしまうのか……夕凪っ」
「君は、俺の名前を知っていたのか。では、君の名は……」
その時船が大きく白波に乗り、再び天高く一気に上昇してしまった。
月を挟んだ邂逅だった。
信じられない出来事だった。
夕顔さんの和歌が夕凪を呼んだのか。
君に会えて嬉しかった。
空を見上げれば、月は元の位置に戻って頭上で輝いていた。下弦の月は、まるで船のようだ。
胸の中に熱いものが広がって、じわっと涙が込み上げてしまう。
丈と進む道、これで間違っていない。
俺は夕凪のためにも幸せになりたい。
「洋、大丈夫か。月が戻って来たな。夕凪は……もう行ってしまったのか」
「うん、もうここにはいない」
「……そうか私も会いたかったな」
「丈っ俺達、幸せになろう! 夕凪のためにも」
「もちろんだ、洋。愛しい君と共に、この先私は生きていく」
「俺も同じ気持ちだ。あの下弦の月に誓って」
切なる願いを、俺は夜空に託した。
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