重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
445 / 1,657
第7章 

重なれば満月に 2

しおりを挟む
「安志さん? 」
「おっおお! 洗面所の棚だな」
「そう、そこの下の棚に入ってない? 」
 
 動揺してしまった。今このタイミングで声を掛けるなんて、涼の奴……さりげなく俺のこと煽ってるんじゃないよな。苦笑しながらバスルームへと向かった。

「ほら、あったよ」

 バスルームの扉を開ければ、ふわっと白い湯気と共に、涼の綺麗な肌色が目に飛び込んで来た。バスルームにはいつも涼が使っているボディシャンプーの清潔な香りがむせ返るように立ち込めていた。

「ありがとう! 助かったよ」

 涼のほっそりとしているのにか弱い印象ではない、しなやかに筋肉のついた美しい裸体に目がくらみそうだ。ついムラムラと湧き上がる情動を抑え込めず、シャンプーに手を伸ばした涼の腕を掴んで、動きを制止してしまった。

 涼は不思議そうにその掴まれた腕を眺めていた。

「安志さん、どうしたの? 」
「涼、俺が髪を洗ってやる」
「えっ? 」
「まだ傷の部分庇いながらだろ。大変そうだし」
「うっうん、でもなんか恥ずかしいな」
「そうか……病院では看護師さんに躰を拭いてもらったんだろう。初日は点滴だらけで動けなかったはずだから」
「なっなんだよ。もぅ! 恥ずかしいこと思い出させないで欲しいな」
「くくっ。涼、なぁ……俺も一緒に風呂はいっていいか」

 笑いながらも、病院に運ばれたばかりの痛々しい涼の姿を思い出してしまった。可愛い涼と今は一瞬たりとも離れたくない。だから珍しく俺の方から積極的に口走ってしまった

「え! う……うん」

 涼は耳まで朱色の染め上げて、恥ずかしそうに俯いている。

 そういえば二人きりで風呂に入るの初めだな。洋と涼と一緒に銭湯に行ったことはあるが、あの時は二人の警備みたいで楽しむどころじゃなかった。

「ありがとう。ちょっと待ってろ」

 急いで服を脱ぎ捨て、バスルームに俺も入った。

「うわっ」

 涼は俺を見るなり、湯船に顔をぱっと伏せた。パシャンっと水が跳ねる音に、心臓が高鳴っていく。

 俺は涼の後ろに回り込むような形で、湯船に浸かった。

 流石に男二人で入るには浴槽が狭いが、なんとか収まった。涼の肩を俺の胸に乗せるような姿勢に誘導すると、涼が恥ずかしそうにもぞもぞと動いてしまう。

 その度にお湯が……心臓の音と呼応するかのように溢れて零れていく。

「おい涼、そんなに恥ずかしがるなよ。俺の方が恥ずかしくなる」
「だって、ここすごく明るいし……安志さん…逞しくてかっこいいから困るよ」
「何言ってんだ。涼ならモデルの仕事でもっと綺麗ないい男を沢山見る機会があるだろ。俺なんてほんと平凡だ。涼と不釣り合いなほどだ。平凡なあっさりした顔してるって、さっきも凹んでいたところだぞ」

 涼は意外そうな声をあげた。

「何言っているの? 安志さんはすごくカッコイイんだ。だから僕、今……馬鹿みたいにドキドキしている」
「ははっ涼はやさしいな。励ましてくれるのか」
「本気で言っているんだよ。ほらっ」

 そういいながら涼は俺の手を掴んで、自分の胸にあてた。

 俺の手が感じる涼の胸の鼓動。

 ドクドクドクドク……と、早鐘を打つ心臓の音に、俺の躰も一気に熱くなっていく。

「涼、随分と積極的だな」
「あっ違う……そうじゃなくて」

 躰を捩ろうとする涼を制止して、手の平で涼の躰を味わうようにまさぐっていく。涼の少し汗ばんだお湯で濡れてキラキラと輝く胸板を撫でまわして、小さな突起を指先で摘まんでやると、涼は悩まし気に目を瞑って「あっ……」っと感じているような小さな喘ぎ声をあげた。

「涼、今日は声我慢しなくていいんだぞ。もう病室じゃないんだから」
「んっ……ん…ん」

 涼の首元に顔を埋め、ちゅっと吸って、さらにリズム良く吸う力を徐々に強めていく。すると涼の滑らかで柔らかい皮膚が、花弁のあとのように一部分だけ赤く染まった。俺は何とも言えない満足感を得て、その部分を指先でなぞりながら、涼の耳元で囁やいてやる。

「もっと痕つけていいか。今日は……」

 本当はさ……ずっと我慢していたんだ。
 モデルの仕事の妨げになるから、激しく抱くことも躰に痕跡を残すことも避けていた。

「今日位いいよな。一週間仕事がないのだから、俺が深く抱いた印をつけてもいいよな」
「安志さんっ……僕も……今日はそうして欲しい」

 涼が熱を帯びた潤んだ目で強請るように訴えたので……もう理性が吹っ飛んでしまった。

 次の瞬間、お湯が大きくうねり、湯船から大量に零れ落ちた。

しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

処理中です...