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第7章
重なれば満月に 1
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二人で丘の上でキスをした。
涼の方から求めてくれる可愛いキスに、俺も外だというのに応じてしまった。涼の唇の温もり感触を楽しみながら、吹き抜けていく爽やかな春風と踊るように舞う桜吹雪に、どこか夢見心地だった。
春だ。ぽかぽかの春がいつの間にかやって来た。長い冬が終わって春になるのだ。
涼の柔らかな栗毛色の髪の毛が日にあたって、艶々と輝いている。そんな光景の向こうに、ふと洋の姿を思い浮かべた。
あいつ……いつの間にか、あんなに男らしくカッコよくなって。俺も負けていられないな。
今の洋ならば、きっと抱えている問題も良い方向へ持っていけるのではないか。そう願わずにいられないよ。
「安志さん……また洋兄さんのこと考えていた? 」
「え? 」
少しだけ怒ったような口ぶりの涼にドキッとする。俺って奴は本当に馬鹿だよな。今この胸に涼を抱きながら、洋のこと考えてしまうなんて。
「洋兄さんのこと心配なのは僕も一緒だけど……昨日だってあんなに夢中で写真を眺めてさ、まるで僕に魅力がないみたいじゃないか」
冗談めかした口調の涼だけれども、伝わって来る。涼を不安にさせてしまったのだ。
「涼……ごめん、俺達が今すごく幸せだから、洋の幸せも願わずにいられなくて、つい」
「いいんだよ。安志さんが僕のことちゃんと見てくれているのなら」
「あぁもちろんだよ。涼だけを見ている。俺の方も心配だ。洋があんなにカッコよく男らしく写っていたから、涼が惚れちゃわないかさ」
涼が不思議そうな顔をした。
「馬鹿だな安志さん、洋兄さんと僕は従兄弟同士だよ? 」
「分かっているが心配でさ。洋が別人みたいにカッコ良すぎて」
「あれ? じゃあ……お互い妬いていたのかな。くすっ」
涼が蜂蜜のように甘い笑顔を浮かべると、途端にお腹がすいて、涼を思う存分食べたくなってしまった。
「なぁ、そろそろ戻ろう」
「んっ」
そう答える涼の頬も赤らんでいるので、どうやら同じことを考えているようだ。ぽかぽかな幸せを噛みしめながら歩く嬉しい帰路となった。
想いが通じ合うって、本当に幸せだ。
****
「安志さん汗かいたね。先に僕……シャワーを浴びて来てもいい? 」
「あぁ先に入って来いよ」
「うん、じゃあ少し待っていて」
部屋に戻り、まず涼がシャワーをつかった。久しぶりに訪れる涼の一人暮らしの部屋は、変わっていないな。ふとカウンターを見ると、深紅の薔薇の大きな花束が置かれていた。
「退院祝いか。誰からだろう……随分と立派な花束だ」
随分大人っぽい雰囲気の花束だ。でも立派過ぎて、この明るい部屋の主である涼には似合わないような。涼にだったらオレンジや黄色とか元気な可愛い色合いの花が似合うかな。
あっ俺も花束持ってくればよかったのか?
花束の横にメッセージカードが見えたので、悪いと思いつつも読んでしまった。メッセージ添えられた名前はSoilさん、いや陸さんだったので、途端に複雑な気持ちになった。
確かに彼に対して勢いで殴りかかろうとしたことは、俺も悪かった。だが彼が一方的に洋を恨むのは筋違いだ。彼も両親が離婚してから、俺には想像できないような苦しみの日々だったろうが、洋も充分に苦しんだ。
洋が義父の手によって、その身を犠牲にするほどの悲劇に見舞われたことを、彼はまだ知らない。いや知らない方がいいだろう。この先も……永遠に。
それでも何とかして二人のわだかまりが解ける日が来るといいのだが。
それにしても真っ赤な花束を涼に贈るなんて、なんだか妬けるな。彼の完璧なルックスと深紅の薔薇が似合うエキゾチックで整った美形の顔を思い浮かべた。鏡に映るいかにも日本人らしいあっさりとした自分の顔をじっと見つめて、恨めしくも悩ましく思った。平凡な顔だよなぁ。
その時バスルームから、涼の声がした。
「安志さんーごめんっ。シャンプー切らしていて、洗面所の棚にあるの取ってもらえる? 」
涼の方から求めてくれる可愛いキスに、俺も外だというのに応じてしまった。涼の唇の温もり感触を楽しみながら、吹き抜けていく爽やかな春風と踊るように舞う桜吹雪に、どこか夢見心地だった。
春だ。ぽかぽかの春がいつの間にかやって来た。長い冬が終わって春になるのだ。
涼の柔らかな栗毛色の髪の毛が日にあたって、艶々と輝いている。そんな光景の向こうに、ふと洋の姿を思い浮かべた。
あいつ……いつの間にか、あんなに男らしくカッコよくなって。俺も負けていられないな。
今の洋ならば、きっと抱えている問題も良い方向へ持っていけるのではないか。そう願わずにいられないよ。
「安志さん……また洋兄さんのこと考えていた? 」
「え? 」
少しだけ怒ったような口ぶりの涼にドキッとする。俺って奴は本当に馬鹿だよな。今この胸に涼を抱きながら、洋のこと考えてしまうなんて。
「洋兄さんのこと心配なのは僕も一緒だけど……昨日だってあんなに夢中で写真を眺めてさ、まるで僕に魅力がないみたいじゃないか」
冗談めかした口調の涼だけれども、伝わって来る。涼を不安にさせてしまったのだ。
「涼……ごめん、俺達が今すごく幸せだから、洋の幸せも願わずにいられなくて、つい」
「いいんだよ。安志さんが僕のことちゃんと見てくれているのなら」
「あぁもちろんだよ。涼だけを見ている。俺の方も心配だ。洋があんなにカッコよく男らしく写っていたから、涼が惚れちゃわないかさ」
涼が不思議そうな顔をした。
「馬鹿だな安志さん、洋兄さんと僕は従兄弟同士だよ? 」
「分かっているが心配でさ。洋が別人みたいにカッコ良すぎて」
「あれ? じゃあ……お互い妬いていたのかな。くすっ」
涼が蜂蜜のように甘い笑顔を浮かべると、途端にお腹がすいて、涼を思う存分食べたくなってしまった。
「なぁ、そろそろ戻ろう」
「んっ」
そう答える涼の頬も赤らんでいるので、どうやら同じことを考えているようだ。ぽかぽかな幸せを噛みしめながら歩く嬉しい帰路となった。
想いが通じ合うって、本当に幸せだ。
****
「安志さん汗かいたね。先に僕……シャワーを浴びて来てもいい? 」
「あぁ先に入って来いよ」
「うん、じゃあ少し待っていて」
部屋に戻り、まず涼がシャワーをつかった。久しぶりに訪れる涼の一人暮らしの部屋は、変わっていないな。ふとカウンターを見ると、深紅の薔薇の大きな花束が置かれていた。
「退院祝いか。誰からだろう……随分と立派な花束だ」
随分大人っぽい雰囲気の花束だ。でも立派過ぎて、この明るい部屋の主である涼には似合わないような。涼にだったらオレンジや黄色とか元気な可愛い色合いの花が似合うかな。
あっ俺も花束持ってくればよかったのか?
花束の横にメッセージカードが見えたので、悪いと思いつつも読んでしまった。メッセージ添えられた名前はSoilさん、いや陸さんだったので、途端に複雑な気持ちになった。
確かに彼に対して勢いで殴りかかろうとしたことは、俺も悪かった。だが彼が一方的に洋を恨むのは筋違いだ。彼も両親が離婚してから、俺には想像できないような苦しみの日々だったろうが、洋も充分に苦しんだ。
洋が義父の手によって、その身を犠牲にするほどの悲劇に見舞われたことを、彼はまだ知らない。いや知らない方がいいだろう。この先も……永遠に。
それでも何とかして二人のわだかまりが解ける日が来るといいのだが。
それにしても真っ赤な花束を涼に贈るなんて、なんだか妬けるな。彼の完璧なルックスと深紅の薔薇が似合うエキゾチックで整った美形の顔を思い浮かべた。鏡に映るいかにも日本人らしいあっさりとした自分の顔をじっと見つめて、恨めしくも悩ましく思った。平凡な顔だよなぁ。
その時バスルームから、涼の声がした。
「安志さんーごめんっ。シャンプー切らしていて、洗面所の棚にあるの取ってもらえる? 」
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