重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
441 / 1,657
第7章 

上弦の月 5

しおりを挟む
「見たい」
「えっ安志さんも? 」
「あぁ、洋の頑張った姿見せて欲しい」
「でも……勝手にいいのかな? 」
「洋は嫌がって見せてくれないかもしれないが、だからこそ、見てやりたい」

 俺は涼の横に座り、一緒に茶色い封筒からアルバムを取り出した。

「じゃあ、見るね」
「おぅ」

 ゴクリと喉がなる。

「あっ……本当に洋兄さんだ。すごく……綺麗だ」

 最初は緊張して戸惑って……助けを求めるような切なげな瞳の洋が現れた。

 あぁ……これはいつもの洋だ。俺だったら涼ではなく洋だと一目で気付く、切なさと儚さを含んだ憂いのあるこの目元。俺はいつだってこの目をすぐ近くで見ていた。

「こんな苦し気な表情をさせて……洋兄さんに無理させてしまった。僕のせいで」
「いや……それはどうだろう? 次の頁をめくってみろ」

 こんな表情のままじゃなかった。あの時の洋は吹っ切れた様な清々しい顔をして、凛々しかった。だから確信を持てたんだ。

 次の写真からは、まさにサナギが羽化して蝶になるような艶やかな洋の変身を、写真は如実に写し取っていた。洋の内面の心の変化もひしひしと伝わって来る緊張感のある写真だ。

 儚げに伏せていた目がぱっと開かれ、意志を持ち、カメラを正面から見据えている。

 先ほどのか弱い雰囲気は見事に消え去っていた。

 強烈なまでの凛とした美しさ。

 自らの手ではだけた胸元が、ドキッとするほど色っぽい。

 次の写真、その次と夢中で頁をめくった。

 躍動感のあるポーズ。目線……美しさが溢れ出る表情。もう目が離せなかった。そして象牙のようなしっとりとした肌が少し汗ばんで、洋には今まであまりなかった男らしい色気すらも漂ってきていた。

 本当にこれはどういうことだ?
 洋なのに洋じゃない。
 これは一体誰だ?

 そう思ってしまう程、堂々と艶やかな姿で、洋は見事にカメラに収まっていた。隣で涼も息を呑んでいた。

「すごい。これ、本当に洋兄さんなの? 信じられないよ」
「あぁ確かに洋だよ。これは……もしかしたら洋の隠れた一面なのかもしれないな」
「僕も負けていられない。そして、この洋兄さんに僕も会いたい」


しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...