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第7章
上弦の月 4
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「安志さんっ……あっあの」
「何だ?」
「もし……また人が来て途中になってしまったら……僕、もう耐えられないよ」
ふと抱き寄せた涼が眉を寄せて耐えるような表情を浮かべているのに気が付いて、急に罪悪感が湧いてしまった。確かに、このまま鍵もかかっていない病室で事を進めるのは危険すぎる。
はぁ……全く俺もがっついているよな。いい歳して、自分自身の焦り具合が滑稽に思えてきてしまう。モデルをしている涼に危険な思いをさせたくないと、ずっと気遣ってきたくせに、情けない。
「涼……悪かった」
シーツに押し倒していた涼の躰を解放してやると、涼もほっとした顔をした。
「安志さん、ごめん。僕の方が誘ったのに……この前、あの後すごく辛かったかし、今日も人が来たらと思ったら急に不安になってしまって」
「いや、止めてくれてありがとうな。俺もどうかしていたよ。こんな場所で懲りもせずに」
「そうだ! 明日退院することになったんだ。それで傷が治るまで一週間のオフももらった。だから……その……」
「なんだ、そうだったのか。そういうことは早く言えよ」
「だって言う暇もなく安志さんがクリームパンなんてくれるから。お腹空いていたし夢中になってしまって」
恥ずかしそうにほっとしたように涼が笑ったので、俺もつられて笑った。
すると本当にその後すぐに病室をノックする音がしたので、二人で顔を見合わせて肩をすくめてしまった。
(うわっ本当にやめておいてよかったね)
(うん……続きは明日だな)
そんな風にカーテンの中でアイコンタクトを取って頷きあった。
「涼くん、入っていい? 」
「誰だろう……どうぞ? 」
入って来たのは、見知らぬ男性だった。肩にカメラバッグをかけているので、カメラマンか。
「あっ末広さんっどうしてここに?」
「やあ! いきなり悪いね。面会中だった? 」
「大丈夫です。どうしたんですか?あ……安志さん、この方はカメラマンの末広さんといって、僕の事務所の専属のカメラマンで、Soilさんとも仲良しなんだ」
「Soilさん? 」
途端にあの雑居ビルでの出来事を思い出して、嫌な思いが込み上げてしまった。
「涼くん、この人は? この前あそこで見かけたような」
「?」
「あ……ほらあの貸しスタジオのロビーで、暴れていた……」
「は? 」
えっ?あの騒動を見ていたってことは、あの時洋を撮ったっていうカメラマンってことか。このタイミングで……何の用だ?
「いやーSoilが忘れものしたから届けようと階段あがったら、なんだか入り込めない程すごい剣幕になっていて。君ってさ、あの時Soilを殴ろうとした人だよね?で、俺の可愛いモデルちゃんに手をあげたんだよね」
「なっ!!!」
「いやいや心配しなくていいよ。俺は口が堅いし、あの撮影はもともとSoilに内々に頼まれたものだったから事務所にも内緒だし」
「末広さんだったんですか。洋兄さんを撮ったのって? 」
「あの子、洋くんっていうのか? いやぁ~良かったよ、彼。君に話が伝わっているなら聞く手間が省けそうだ」
「何をです? 」
「あの日のことさ。最初Soilがさ、洋くんに涼くんそっくりのメイクや洋服を着せて連れて来てね。ほらーあれあれ!俺がずっと涼くんのエロイセミヌードの写真撮りたいって騒いでいたの覚えてるだろ? 」
「すっ末広さん……それはっその話はここでは……」
「涼っそれって何のことだ?」
語尾がみるみる小さくなっていく涼のことを思わず小さく睨んでしまった。やっぱり涼は俺の知らない所でいろんな奴に狙われているじゃないか。危なっかしい。
「はははっ見事に断られたけどね。未練がましくしていたらSoilがさ、特別に一度だけ涼を個人的に撮らせてくれるって連絡くれて貸事務所に呼び出されたんだよ。で、半信半疑で待っていたら現れたのが涼くんに似せた洋くんだってわけ」
「洋兄さん……僕と似てました? 」
「あぁ最初は騙されそうになったけれども、すぐに気が付いたよ。でも知らないふりしてそのまま沢山撮らせてもらったんだ。それがこれさ」
彼は茶色の封筒をちらっと見せた。
「世に出さない。とは約束したんだけぞ、埋もれさすにはあまりに惜しい逸材なんだ。それで涼くんのところにこうやってこっそり探りを入れに来たってわけ」
「……そうだったのですね。それは洋兄さん困っただろうな、末広さんの要求ってエロイし……」
「彼ね、凄かったよ。正直、最初は泣きそうだったけど、その後開き直ってから、何かが乗り移ったみたいに壮絶に綺麗でさ。で、もう一度撮影してみたくてね。なぁ涼くんからも口添えしてもらえないか?」
「えっ?」
「とにかく、この写真を涼くんに託すよ。見れば涼くんもきっと彼と共演したくなるはずだ」
言いたいことを言うと、その末広というカメラマンはあっけなく去っていた。
涼の手元には茶色い封筒が残されたままだ。
「これ……どうしよう。僕が見てもいいのかな」
涼の迷い戸惑いが、ひしひしと伝わって来る。だが、あの泣き虫だった洋が、恥ずかしがらずに堂々と乗り切ったという撮影の写真ならば、俺は見てみたい。
「何だ?」
「もし……また人が来て途中になってしまったら……僕、もう耐えられないよ」
ふと抱き寄せた涼が眉を寄せて耐えるような表情を浮かべているのに気が付いて、急に罪悪感が湧いてしまった。確かに、このまま鍵もかかっていない病室で事を進めるのは危険すぎる。
はぁ……全く俺もがっついているよな。いい歳して、自分自身の焦り具合が滑稽に思えてきてしまう。モデルをしている涼に危険な思いをさせたくないと、ずっと気遣ってきたくせに、情けない。
「涼……悪かった」
シーツに押し倒していた涼の躰を解放してやると、涼もほっとした顔をした。
「安志さん、ごめん。僕の方が誘ったのに……この前、あの後すごく辛かったかし、今日も人が来たらと思ったら急に不安になってしまって」
「いや、止めてくれてありがとうな。俺もどうかしていたよ。こんな場所で懲りもせずに」
「そうだ! 明日退院することになったんだ。それで傷が治るまで一週間のオフももらった。だから……その……」
「なんだ、そうだったのか。そういうことは早く言えよ」
「だって言う暇もなく安志さんがクリームパンなんてくれるから。お腹空いていたし夢中になってしまって」
恥ずかしそうにほっとしたように涼が笑ったので、俺もつられて笑った。
すると本当にその後すぐに病室をノックする音がしたので、二人で顔を見合わせて肩をすくめてしまった。
(うわっ本当にやめておいてよかったね)
(うん……続きは明日だな)
そんな風にカーテンの中でアイコンタクトを取って頷きあった。
「涼くん、入っていい? 」
「誰だろう……どうぞ? 」
入って来たのは、見知らぬ男性だった。肩にカメラバッグをかけているので、カメラマンか。
「あっ末広さんっどうしてここに?」
「やあ! いきなり悪いね。面会中だった? 」
「大丈夫です。どうしたんですか?あ……安志さん、この方はカメラマンの末広さんといって、僕の事務所の専属のカメラマンで、Soilさんとも仲良しなんだ」
「Soilさん? 」
途端にあの雑居ビルでの出来事を思い出して、嫌な思いが込み上げてしまった。
「涼くん、この人は? この前あそこで見かけたような」
「?」
「あ……ほらあの貸しスタジオのロビーで、暴れていた……」
「は? 」
えっ?あの騒動を見ていたってことは、あの時洋を撮ったっていうカメラマンってことか。このタイミングで……何の用だ?
「いやーSoilが忘れものしたから届けようと階段あがったら、なんだか入り込めない程すごい剣幕になっていて。君ってさ、あの時Soilを殴ろうとした人だよね?で、俺の可愛いモデルちゃんに手をあげたんだよね」
「なっ!!!」
「いやいや心配しなくていいよ。俺は口が堅いし、あの撮影はもともとSoilに内々に頼まれたものだったから事務所にも内緒だし」
「末広さんだったんですか。洋兄さんを撮ったのって? 」
「あの子、洋くんっていうのか? いやぁ~良かったよ、彼。君に話が伝わっているなら聞く手間が省けそうだ」
「何をです? 」
「あの日のことさ。最初Soilがさ、洋くんに涼くんそっくりのメイクや洋服を着せて連れて来てね。ほらーあれあれ!俺がずっと涼くんのエロイセミヌードの写真撮りたいって騒いでいたの覚えてるだろ? 」
「すっ末広さん……それはっその話はここでは……」
「涼っそれって何のことだ?」
語尾がみるみる小さくなっていく涼のことを思わず小さく睨んでしまった。やっぱり涼は俺の知らない所でいろんな奴に狙われているじゃないか。危なっかしい。
「はははっ見事に断られたけどね。未練がましくしていたらSoilがさ、特別に一度だけ涼を個人的に撮らせてくれるって連絡くれて貸事務所に呼び出されたんだよ。で、半信半疑で待っていたら現れたのが涼くんに似せた洋くんだってわけ」
「洋兄さん……僕と似てました? 」
「あぁ最初は騙されそうになったけれども、すぐに気が付いたよ。でも知らないふりしてそのまま沢山撮らせてもらったんだ。それがこれさ」
彼は茶色の封筒をちらっと見せた。
「世に出さない。とは約束したんだけぞ、埋もれさすにはあまりに惜しい逸材なんだ。それで涼くんのところにこうやってこっそり探りを入れに来たってわけ」
「……そうだったのですね。それは洋兄さん困っただろうな、末広さんの要求ってエロイし……」
「彼ね、凄かったよ。正直、最初は泣きそうだったけど、その後開き直ってから、何かが乗り移ったみたいに壮絶に綺麗でさ。で、もう一度撮影してみたくてね。なぁ涼くんからも口添えしてもらえないか?」
「えっ?」
「とにかく、この写真を涼くんに託すよ。見れば涼くんもきっと彼と共演したくなるはずだ」
言いたいことを言うと、その末広というカメラマンはあっけなく去っていた。
涼の手元には茶色い封筒が残されたままだ。
「これ……どうしよう。僕が見てもいいのかな」
涼の迷い戸惑いが、ひしひしと伝わって来る。だが、あの泣き虫だった洋が、恥ずかしがらずに堂々と乗り切ったという撮影の写真ならば、俺は見てみたい。
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