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第7章
下弦の月 7
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朝起きると、ソファにいたはずの僕は何故かベッドで眠っていた。しかも背中越しに人の体温を感じ寝返ると、隣で陸が寝息を立てていたので、飛び上がるほど驚いてしまった。
「なっ……なんで……僕は一体」
昨夜僕がしたことを思い出し羞恥で耳まで赤くなってしまった。寝ている陸に、僕はなんてことを……それに、あのまま陸の寝顔見ながらソファで眠ってしまったはずなのに、一体どうやってベッドに?
まさか陸が……
隣で息を呑む程端正な顔で眠っている陸を見つめた。
ずるいよな。寝ていてもこんなに男らしくてかっこいいなんて。それに比べて僕は……なんの取柄もないよ。
手元に眼鏡がないので視界がぼやけてしまう。朝日も白いシーツもどこかこの世のものではないような幻想的な光景だ。問題は山積みなのに、今この時が愛おしい位、平和な世界に見えた。
それでもこんな夢みたいな時間は束の間だ。現実に戻ろう。そう思い一気に躰を起こしベッドから降りようとすると、眠っていたはずの陸に腕を掴まれたので心臓が停まるかと思った。
「りっ陸!起きていたの?」
「あぁうっかり俺までここで寝ちまった」
「じゃあ陸がここまで僕を?」
「あぁ昨日はいろいろ悪かったな。俺随分飲んだみたいでさ、またお前に介抱させたんだろ」
「いや……僕も一緒に眠ってしまったから、よく覚えていないんだ、あの……僕の眼鏡はどこ?」
「眼鏡?あぁソファのテーブルの上だ」
「そっか本当にありがとう。ベッドまで運んでくれて」
陸の唇を見るのが…気まずい。昨日キスしたことはバレていないようだが、まともに顔を見れなくて、そそくさと移動しようとすると、何故か陸が掴んでいた手を離してくれない。
「陸……あの……もう手放せよ」
「あっ?ああ悪い。空の眼鏡かけていない顔をじっくり見るのって久しぶりだな」
いつもかけている眼鏡がない。それだけでも、どんどん自信がなくなっていく。なんだか素っ裸になったような気持で、恥ずしくなってくる。
「そんなに見るなよ。大した顔じゃないだろっ」
「いや……優しそうな顔だ」
「えっ?」
「空、お前さ…なんか疲れているんじゃないか。いつも俺の面倒ばかり請け負って。今回のことだって、お前は関係ないのに巻き込んで悪かったな」
「いや、そんなことない。僕がしたくてしているんだ。陸には幸せになって欲しいから……迷惑なんかじゃないから」
陸がいつもよりずっと優しい。こんな風に気遣ってくれるなんて。どうして?
嬉しいはずの言葉に、どこか寂しさを感じてしまった。優しいのは、もしかしてあの洋くんのせいなのか。そんな風に思ってしまう自分はなんて心が狭いのだろうと思う。
「俺さ、あいつよとは一度ちゃんと話すよ。その時は空も来てくれないか。そうしないと俺、なにか仕出かしそうで自分が怖い」
「何かって……何を?」
「……分からないが、信じられない行動を取ってしまいそうだ」
「それってまさか……キスの続き……?」
聞きたくないことを…とうとう自虐的に自分から聞いてしまった。
すると陸は意外そうに目を見開いたが、それ以上何も答えなかった。
それは何を意味するのか。
****
まだ心臓がバクバクいってる。本当に山岡に話してしまって大丈夫だったのだろうか。でも後悔はしていない。安志さんのこと、必要以上に隠すのは嫌なんだ。それに洋兄さんを殴ったことで傷ついていた安志さんに、今日はこれ以上我慢して欲しくなかったんだ。
山岡なら大丈夫。そう思う僕の心に素直に従ったのだが、実は吉と出るか凶と出るか、一か八かの賭けでもあった。僕と同じ帰国子女でもある山岡は同性同士の恋愛に理解を示してくれて本当によかった。
「ふぅ……」
でも安志さん大丈夫かな。成り行きとはいえ、洋兄さんを自らの手で殴ってしまうなんて。あんなに洋兄さんのこと大事にしていたのだから、かなりショックだったろう。
だから安志さんが病室なのに激しく僕を求めて来た時、躰を素直に委ねたんだ。もちろん僕もそうしたかったから……僕のこの躰、さっきまで、あんなに熱くなって……もっともっと本当は安志さんが欲しかったのに。中途半端で終わった熱は、いまだに躰の奥で燻っている。
激しく跡をつけるように吸われた乳首がムズムズと痛痒いので、襟元のボタンを一つ外して確かめると、赤い余韻が散っていた。
モデルになってから、安志さんは僕を抱く時、とても慎重だった。跡をつけないように……翌日に響かないようにと、とても気を遣って、今日みたいに激しく求めてくれなかった気がする。だからなのか……猶更今日の続きが待ち遠しい。
本当に僕は、さっきからこんな淫らなことばかり考えてしまって変だ。
「はぁ……このまま眠れるかな」
「なっ……なんで……僕は一体」
昨夜僕がしたことを思い出し羞恥で耳まで赤くなってしまった。寝ている陸に、僕はなんてことを……それに、あのまま陸の寝顔見ながらソファで眠ってしまったはずなのに、一体どうやってベッドに?
まさか陸が……
隣で息を呑む程端正な顔で眠っている陸を見つめた。
ずるいよな。寝ていてもこんなに男らしくてかっこいいなんて。それに比べて僕は……なんの取柄もないよ。
手元に眼鏡がないので視界がぼやけてしまう。朝日も白いシーツもどこかこの世のものではないような幻想的な光景だ。問題は山積みなのに、今この時が愛おしい位、平和な世界に見えた。
それでもこんな夢みたいな時間は束の間だ。現実に戻ろう。そう思い一気に躰を起こしベッドから降りようとすると、眠っていたはずの陸に腕を掴まれたので心臓が停まるかと思った。
「りっ陸!起きていたの?」
「あぁうっかり俺までここで寝ちまった」
「じゃあ陸がここまで僕を?」
「あぁ昨日はいろいろ悪かったな。俺随分飲んだみたいでさ、またお前に介抱させたんだろ」
「いや……僕も一緒に眠ってしまったから、よく覚えていないんだ、あの……僕の眼鏡はどこ?」
「眼鏡?あぁソファのテーブルの上だ」
「そっか本当にありがとう。ベッドまで運んでくれて」
陸の唇を見るのが…気まずい。昨日キスしたことはバレていないようだが、まともに顔を見れなくて、そそくさと移動しようとすると、何故か陸が掴んでいた手を離してくれない。
「陸……あの……もう手放せよ」
「あっ?ああ悪い。空の眼鏡かけていない顔をじっくり見るのって久しぶりだな」
いつもかけている眼鏡がない。それだけでも、どんどん自信がなくなっていく。なんだか素っ裸になったような気持で、恥ずしくなってくる。
「そんなに見るなよ。大した顔じゃないだろっ」
「いや……優しそうな顔だ」
「えっ?」
「空、お前さ…なんか疲れているんじゃないか。いつも俺の面倒ばかり請け負って。今回のことだって、お前は関係ないのに巻き込んで悪かったな」
「いや、そんなことない。僕がしたくてしているんだ。陸には幸せになって欲しいから……迷惑なんかじゃないから」
陸がいつもよりずっと優しい。こんな風に気遣ってくれるなんて。どうして?
嬉しいはずの言葉に、どこか寂しさを感じてしまった。優しいのは、もしかしてあの洋くんのせいなのか。そんな風に思ってしまう自分はなんて心が狭いのだろうと思う。
「俺さ、あいつよとは一度ちゃんと話すよ。その時は空も来てくれないか。そうしないと俺、なにか仕出かしそうで自分が怖い」
「何かって……何を?」
「……分からないが、信じられない行動を取ってしまいそうだ」
「それってまさか……キスの続き……?」
聞きたくないことを…とうとう自虐的に自分から聞いてしまった。
すると陸は意外そうに目を見開いたが、それ以上何も答えなかった。
それは何を意味するのか。
****
まだ心臓がバクバクいってる。本当に山岡に話してしまって大丈夫だったのだろうか。でも後悔はしていない。安志さんのこと、必要以上に隠すのは嫌なんだ。それに洋兄さんを殴ったことで傷ついていた安志さんに、今日はこれ以上我慢して欲しくなかったんだ。
山岡なら大丈夫。そう思う僕の心に素直に従ったのだが、実は吉と出るか凶と出るか、一か八かの賭けでもあった。僕と同じ帰国子女でもある山岡は同性同士の恋愛に理解を示してくれて本当によかった。
「ふぅ……」
でも安志さん大丈夫かな。成り行きとはいえ、洋兄さんを自らの手で殴ってしまうなんて。あんなに洋兄さんのこと大事にしていたのだから、かなりショックだったろう。
だから安志さんが病室なのに激しく僕を求めて来た時、躰を素直に委ねたんだ。もちろん僕もそうしたかったから……僕のこの躰、さっきまで、あんなに熱くなって……もっともっと本当は安志さんが欲しかったのに。中途半端で終わった熱は、いまだに躰の奥で燻っている。
激しく跡をつけるように吸われた乳首がムズムズと痛痒いので、襟元のボタンを一つ外して確かめると、赤い余韻が散っていた。
モデルになってから、安志さんは僕を抱く時、とても慎重だった。跡をつけないように……翌日に響かないようにと、とても気を遣って、今日みたいに激しく求めてくれなかった気がする。だからなのか……猶更今日の続きが待ち遠しい。
本当に僕は、さっきからこんな淫らなことばかり考えてしまって変だ。
「はぁ……このまま眠れるかな」
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