436 / 1,657
第7章
下弦の月 7
しおりを挟む
朝起きると、ソファにいたはずの僕は何故かベッドで眠っていた。しかも背中越しに人の体温を感じ寝返ると、隣で陸が寝息を立てていたので、飛び上がるほど驚いてしまった。
「なっ……なんで……僕は一体」
昨夜僕がしたことを思い出し羞恥で耳まで赤くなってしまった。寝ている陸に、僕はなんてことを……それに、あのまま陸の寝顔見ながらソファで眠ってしまったはずなのに、一体どうやってベッドに?
まさか陸が……
隣で息を呑む程端正な顔で眠っている陸を見つめた。
ずるいよな。寝ていてもこんなに男らしくてかっこいいなんて。それに比べて僕は……なんの取柄もないよ。
手元に眼鏡がないので視界がぼやけてしまう。朝日も白いシーツもどこかこの世のものではないような幻想的な光景だ。問題は山積みなのに、今この時が愛おしい位、平和な世界に見えた。
それでもこんな夢みたいな時間は束の間だ。現実に戻ろう。そう思い一気に躰を起こしベッドから降りようとすると、眠っていたはずの陸に腕を掴まれたので心臓が停まるかと思った。
「りっ陸!起きていたの?」
「あぁうっかり俺までここで寝ちまった」
「じゃあ陸がここまで僕を?」
「あぁ昨日はいろいろ悪かったな。俺随分飲んだみたいでさ、またお前に介抱させたんだろ」
「いや……僕も一緒に眠ってしまったから、よく覚えていないんだ、あの……僕の眼鏡はどこ?」
「眼鏡?あぁソファのテーブルの上だ」
「そっか本当にありがとう。ベッドまで運んでくれて」
陸の唇を見るのが…気まずい。昨日キスしたことはバレていないようだが、まともに顔を見れなくて、そそくさと移動しようとすると、何故か陸が掴んでいた手を離してくれない。
「陸……あの……もう手放せよ」
「あっ?ああ悪い。空の眼鏡かけていない顔をじっくり見るのって久しぶりだな」
いつもかけている眼鏡がない。それだけでも、どんどん自信がなくなっていく。なんだか素っ裸になったような気持で、恥ずしくなってくる。
「そんなに見るなよ。大した顔じゃないだろっ」
「いや……優しそうな顔だ」
「えっ?」
「空、お前さ…なんか疲れているんじゃないか。いつも俺の面倒ばかり請け負って。今回のことだって、お前は関係ないのに巻き込んで悪かったな」
「いや、そんなことない。僕がしたくてしているんだ。陸には幸せになって欲しいから……迷惑なんかじゃないから」
陸がいつもよりずっと優しい。こんな風に気遣ってくれるなんて。どうして?
嬉しいはずの言葉に、どこか寂しさを感じてしまった。優しいのは、もしかしてあの洋くんのせいなのか。そんな風に思ってしまう自分はなんて心が狭いのだろうと思う。
「俺さ、あいつよとは一度ちゃんと話すよ。その時は空も来てくれないか。そうしないと俺、なにか仕出かしそうで自分が怖い」
「何かって……何を?」
「……分からないが、信じられない行動を取ってしまいそうだ」
「それってまさか……キスの続き……?」
聞きたくないことを…とうとう自虐的に自分から聞いてしまった。
すると陸は意外そうに目を見開いたが、それ以上何も答えなかった。
それは何を意味するのか。
****
まだ心臓がバクバクいってる。本当に山岡に話してしまって大丈夫だったのだろうか。でも後悔はしていない。安志さんのこと、必要以上に隠すのは嫌なんだ。それに洋兄さんを殴ったことで傷ついていた安志さんに、今日はこれ以上我慢して欲しくなかったんだ。
山岡なら大丈夫。そう思う僕の心に素直に従ったのだが、実は吉と出るか凶と出るか、一か八かの賭けでもあった。僕と同じ帰国子女でもある山岡は同性同士の恋愛に理解を示してくれて本当によかった。
「ふぅ……」
でも安志さん大丈夫かな。成り行きとはいえ、洋兄さんを自らの手で殴ってしまうなんて。あんなに洋兄さんのこと大事にしていたのだから、かなりショックだったろう。
だから安志さんが病室なのに激しく僕を求めて来た時、躰を素直に委ねたんだ。もちろん僕もそうしたかったから……僕のこの躰、さっきまで、あんなに熱くなって……もっともっと本当は安志さんが欲しかったのに。中途半端で終わった熱は、いまだに躰の奥で燻っている。
激しく跡をつけるように吸われた乳首がムズムズと痛痒いので、襟元のボタンを一つ外して確かめると、赤い余韻が散っていた。
モデルになってから、安志さんは僕を抱く時、とても慎重だった。跡をつけないように……翌日に響かないようにと、とても気を遣って、今日みたいに激しく求めてくれなかった気がする。だからなのか……猶更今日の続きが待ち遠しい。
本当に僕は、さっきからこんな淫らなことばかり考えてしまって変だ。
「はぁ……このまま眠れるかな」
「なっ……なんで……僕は一体」
昨夜僕がしたことを思い出し羞恥で耳まで赤くなってしまった。寝ている陸に、僕はなんてことを……それに、あのまま陸の寝顔見ながらソファで眠ってしまったはずなのに、一体どうやってベッドに?
まさか陸が……
隣で息を呑む程端正な顔で眠っている陸を見つめた。
ずるいよな。寝ていてもこんなに男らしくてかっこいいなんて。それに比べて僕は……なんの取柄もないよ。
手元に眼鏡がないので視界がぼやけてしまう。朝日も白いシーツもどこかこの世のものではないような幻想的な光景だ。問題は山積みなのに、今この時が愛おしい位、平和な世界に見えた。
それでもこんな夢みたいな時間は束の間だ。現実に戻ろう。そう思い一気に躰を起こしベッドから降りようとすると、眠っていたはずの陸に腕を掴まれたので心臓が停まるかと思った。
「りっ陸!起きていたの?」
「あぁうっかり俺までここで寝ちまった」
「じゃあ陸がここまで僕を?」
「あぁ昨日はいろいろ悪かったな。俺随分飲んだみたいでさ、またお前に介抱させたんだろ」
「いや……僕も一緒に眠ってしまったから、よく覚えていないんだ、あの……僕の眼鏡はどこ?」
「眼鏡?あぁソファのテーブルの上だ」
「そっか本当にありがとう。ベッドまで運んでくれて」
陸の唇を見るのが…気まずい。昨日キスしたことはバレていないようだが、まともに顔を見れなくて、そそくさと移動しようとすると、何故か陸が掴んでいた手を離してくれない。
「陸……あの……もう手放せよ」
「あっ?ああ悪い。空の眼鏡かけていない顔をじっくり見るのって久しぶりだな」
いつもかけている眼鏡がない。それだけでも、どんどん自信がなくなっていく。なんだか素っ裸になったような気持で、恥ずしくなってくる。
「そんなに見るなよ。大した顔じゃないだろっ」
「いや……優しそうな顔だ」
「えっ?」
「空、お前さ…なんか疲れているんじゃないか。いつも俺の面倒ばかり請け負って。今回のことだって、お前は関係ないのに巻き込んで悪かったな」
「いや、そんなことない。僕がしたくてしているんだ。陸には幸せになって欲しいから……迷惑なんかじゃないから」
陸がいつもよりずっと優しい。こんな風に気遣ってくれるなんて。どうして?
嬉しいはずの言葉に、どこか寂しさを感じてしまった。優しいのは、もしかしてあの洋くんのせいなのか。そんな風に思ってしまう自分はなんて心が狭いのだろうと思う。
「俺さ、あいつよとは一度ちゃんと話すよ。その時は空も来てくれないか。そうしないと俺、なにか仕出かしそうで自分が怖い」
「何かって……何を?」
「……分からないが、信じられない行動を取ってしまいそうだ」
「それってまさか……キスの続き……?」
聞きたくないことを…とうとう自虐的に自分から聞いてしまった。
すると陸は意外そうに目を見開いたが、それ以上何も答えなかった。
それは何を意味するのか。
****
まだ心臓がバクバクいってる。本当に山岡に話してしまって大丈夫だったのだろうか。でも後悔はしていない。安志さんのこと、必要以上に隠すのは嫌なんだ。それに洋兄さんを殴ったことで傷ついていた安志さんに、今日はこれ以上我慢して欲しくなかったんだ。
山岡なら大丈夫。そう思う僕の心に素直に従ったのだが、実は吉と出るか凶と出るか、一か八かの賭けでもあった。僕と同じ帰国子女でもある山岡は同性同士の恋愛に理解を示してくれて本当によかった。
「ふぅ……」
でも安志さん大丈夫かな。成り行きとはいえ、洋兄さんを自らの手で殴ってしまうなんて。あんなに洋兄さんのこと大事にしていたのだから、かなりショックだったろう。
だから安志さんが病室なのに激しく僕を求めて来た時、躰を素直に委ねたんだ。もちろん僕もそうしたかったから……僕のこの躰、さっきまで、あんなに熱くなって……もっともっと本当は安志さんが欲しかったのに。中途半端で終わった熱は、いまだに躰の奥で燻っている。
激しく跡をつけるように吸われた乳首がムズムズと痛痒いので、襟元のボタンを一つ外して確かめると、赤い余韻が散っていた。
モデルになってから、安志さんは僕を抱く時、とても慎重だった。跡をつけないように……翌日に響かないようにと、とても気を遣って、今日みたいに激しく求めてくれなかった気がする。だからなのか……猶更今日の続きが待ち遠しい。
本当に僕は、さっきからこんな淫らなことばかり考えてしまって変だ。
「はぁ……このまま眠れるかな」
10
お気に入りに追加
445
あなたにおすすめの小説
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)


そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる