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第7章
隠し事 19
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「ふっ……話したくないならまぁいい。だが、そのうち分かるかもな」
「うっ……世の中には出さないって言っていたし、丈は知らなくていいからっ」
「そう言われると、ますます気になるな」
絶対に駄目だ。恥ずかしいから丈には見られたくない。
でもあの時の俺……すごく不思議な気持ちだった。縮こまっていた躰が急に軽くなって羽が生えたみたいに自然とポーズを取れて、なんだか自分が自分ではないような。あっそうか、あの時の俺は、遠い昔に緊張しながら人前で踊ったことを五感で思い出し共鳴しあっていたんだ。
「丈……俺さ……モデルを強要され怖くて逃げ出したくなった時に、過去の洋月やヨウが助けてくれた…」
「何か伝わってきたのか」
「ん……眼を閉じると、その情景がリアルに浮かぶようだった。洋月の舞は可憐で美しかったよ。その時は丈の中将も一緒に舞っていた。ヨウは剣を持って踊る武舞だったよ。ジョウが見守る中とても凛々しかった」
「そうか、やっぱりつながっているんだな。この月輪と共にあの人たちと」
そういって丈は胸元の月輪を見せてくれた。夜空に浮かぶ月よりも優しい乳白色をしていて、そっと触れると心が落ち着いてきた。
そうだ。丈にはちゃんと話しておかないといけないことがある。
「丈……あのさ、さっきの話なんだけど……Soilさん、つまり陸さんのこと……」
「あぁ、洋はいつから知っていたんだ? 洋のお義父さんの実子だってことを」
「昨日だよ。涼の病院で初めて彼と会ったんだ。その時俺の名字で気づいたらしくて『サイガ』って珍しいだろう。何故だか彼は俺がサイガタカシの息子だってことを確信していたよ。あぁそうか、空さんと俺は先に会っていたから、そこでかな。ほら出版社で名乗ったら、すごく驚かれたっていうのは丈にも話したよね」
やっと素直に話せていた。
「やはり、そこだったのか」
「信じて欲しい。本当に知らなかったんだ。一言もそんな話……亡くなった母からも義父からもなかった。何も知らなかった。でも知らなかったからといって許されるもんじゃないってことは分かっている。陸さんにとって大事なお父さんだったんだね。俺が息子の立場を奪ってしまっていたんだね。ずっと長いこと……」
「そうだな……だが洋は悪くない。その時はまだ何も知らない子供だったのだから、そんなに自分を責めるな。それに洋はもうすでに過酷過ぎる重い業を背負わされたじゃないか」
自分に課せられた苦しい運命を思うと……あの日無理矢理躰を開かれ、無残に砕かれた心を思い出すと、今でも胸が張り裂けそうになった。
「うっ……」
「洋……大丈夫か」
いつの間にか浮かんでいた涙を丈が指先で拭い取ってくれる。まだ電車の中なのに、こんなに興奮して恥ずかしい…。
「ごめん。俺、感情的になって……あ、もうすぐ北鎌倉だね」
今日はとても長い一日だったので、北鎌倉の改札を抜けるとほっとした。やっと帰って来れた。早く翠さんや流さんが待つ俺たちの家に戻りたい。
「洋、今日は少し歩くか」
「そうだね」
通りに人気がなくなると、丈が俺の手を握りしめてくれた。ぎゅっと、もう離れるな……そう言っているかのようにきつく握り絡められた。
「もう隠し事はするな」
「……ごめん」
今日の事件、俺は一人で乗り越えたようで乗り越えたわけでない。
俺のために丈も安志も必死になって探して駆けつけてくれた。陰ながら心配してくれた涼も、そして、きっと翠さんや流さんにも……本当に皆に心配をかけてしまった。
俺はもう一人じゃない。
そう思えることのありがたさが、じんと心に響いた。
『隠し事』了
あとがき(不要な方はスルーして下さい)
****
いつも読んでくださってありがとうございます。やっとやっと今日で苦しかった「隠し事」も了となりました。
このお話は……BL脳で溢れる私の萌え優先で書いてしまっている物語ですので、読んでくださる方が疑問に思う展開も多々あるかと思いますが、どうかご理解いただけると助かります。
「うっ……世の中には出さないって言っていたし、丈は知らなくていいからっ」
「そう言われると、ますます気になるな」
絶対に駄目だ。恥ずかしいから丈には見られたくない。
でもあの時の俺……すごく不思議な気持ちだった。縮こまっていた躰が急に軽くなって羽が生えたみたいに自然とポーズを取れて、なんだか自分が自分ではないような。あっそうか、あの時の俺は、遠い昔に緊張しながら人前で踊ったことを五感で思い出し共鳴しあっていたんだ。
「丈……俺さ……モデルを強要され怖くて逃げ出したくなった時に、過去の洋月やヨウが助けてくれた…」
「何か伝わってきたのか」
「ん……眼を閉じると、その情景がリアルに浮かぶようだった。洋月の舞は可憐で美しかったよ。その時は丈の中将も一緒に舞っていた。ヨウは剣を持って踊る武舞だったよ。ジョウが見守る中とても凛々しかった」
「そうか、やっぱりつながっているんだな。この月輪と共にあの人たちと」
そういって丈は胸元の月輪を見せてくれた。夜空に浮かぶ月よりも優しい乳白色をしていて、そっと触れると心が落ち着いてきた。
そうだ。丈にはちゃんと話しておかないといけないことがある。
「丈……あのさ、さっきの話なんだけど……Soilさん、つまり陸さんのこと……」
「あぁ、洋はいつから知っていたんだ? 洋のお義父さんの実子だってことを」
「昨日だよ。涼の病院で初めて彼と会ったんだ。その時俺の名字で気づいたらしくて『サイガ』って珍しいだろう。何故だか彼は俺がサイガタカシの息子だってことを確信していたよ。あぁそうか、空さんと俺は先に会っていたから、そこでかな。ほら出版社で名乗ったら、すごく驚かれたっていうのは丈にも話したよね」
やっと素直に話せていた。
「やはり、そこだったのか」
「信じて欲しい。本当に知らなかったんだ。一言もそんな話……亡くなった母からも義父からもなかった。何も知らなかった。でも知らなかったからといって許されるもんじゃないってことは分かっている。陸さんにとって大事なお父さんだったんだね。俺が息子の立場を奪ってしまっていたんだね。ずっと長いこと……」
「そうだな……だが洋は悪くない。その時はまだ何も知らない子供だったのだから、そんなに自分を責めるな。それに洋はもうすでに過酷過ぎる重い業を背負わされたじゃないか」
自分に課せられた苦しい運命を思うと……あの日無理矢理躰を開かれ、無残に砕かれた心を思い出すと、今でも胸が張り裂けそうになった。
「うっ……」
「洋……大丈夫か」
いつの間にか浮かんでいた涙を丈が指先で拭い取ってくれる。まだ電車の中なのに、こんなに興奮して恥ずかしい…。
「ごめん。俺、感情的になって……あ、もうすぐ北鎌倉だね」
今日はとても長い一日だったので、北鎌倉の改札を抜けるとほっとした。やっと帰って来れた。早く翠さんや流さんが待つ俺たちの家に戻りたい。
「洋、今日は少し歩くか」
「そうだね」
通りに人気がなくなると、丈が俺の手を握りしめてくれた。ぎゅっと、もう離れるな……そう言っているかのようにきつく握り絡められた。
「もう隠し事はするな」
「……ごめん」
今日の事件、俺は一人で乗り越えたようで乗り越えたわけでない。
俺のために丈も安志も必死になって探して駆けつけてくれた。陰ながら心配してくれた涼も、そして、きっと翠さんや流さんにも……本当に皆に心配をかけてしまった。
俺はもう一人じゃない。
そう思えることのありがたさが、じんと心に響いた。
『隠し事』了
あとがき(不要な方はスルーして下さい)
****
いつも読んでくださってありがとうございます。やっとやっと今日で苦しかった「隠し事」も了となりました。
このお話は……BL脳で溢れる私の萌え優先で書いてしまっている物語ですので、読んでくださる方が疑問に思う展開も多々あるかと思いますが、どうかご理解いただけると助かります。
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