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第7章
隠し事 18
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「洋……本当に悪かった。かっとして洋の立場も考えずに」
ハンカチで押さえた口元を、安志が心配そうに撫でて来た。
お前、これ、気にしちゃうな。安志の今の気持ちが痛い程伝わって来て、居たたまれない。
「大丈夫だ。これ位すぐ治るから気にするなよ。もう……なっ」
「だが……はぁ……俺は考えなしだ、この手で洋を殴るなんて最悪だ」
後悔の念を浮かべ頭を抱え込んで真剣に悩んでいる安志の様子に、緊迫した場にも関わらず思わず笑みが零れてしまう。本当に安志らしいな。こういう所が素直で爽やかだ。
そんな様子を見かねて、丈も助け船を出してくれる。
「安志くん、まぁ……そう自分を責めるな。私も安志くんのおかげでこうやって洋のもとに辿り着けて感謝しているよ。洋を守ってくれてありがとう」
「いや俺は何もしてないし……しかも余計なことまで言って……本当に洋、ごめんな」
安志の方が泣きそうな顔になっていた。
「もうそんなに責めるな。物事はなるようになるよ。それに陸さんとは一度ちゃんと話した方がいいと思っている。幸い空さんが間に入ってくれそうだから、もう心配するな。今度はちゃんと丈と一緒に話をしにいくよ」
意外そうな顔で安志が見つめ返して来た。
「洋、お前強くなったな。今日はいろいろ嫌な目にもあったのに……あんな奴にキスまでされて。ったく、あいつ……なんであんなことをしたんだ? どういうつもりなのかさっぱり分からない」
「あっそれはもう言うなっ」
安志の馬鹿! それを蒸し返すなよっ。と心の中で叫んでしまった。
気まずくて横に立っている丈の顔を盗み見すると、やっぱり目が笑っていなかった。怒っているよな。勝手な行動した挙句、あんな姿になってキスまでされていて……後でどんなお仕置きがあるかと思うと怖くなる。
それに……陸さんから突然唇を重ね合わせられた時の衝撃が堪えているのは、こっちも同じだ。唇を重ねた後、そのまま血を舐めとっていった。その時、何故か傷を労わるような心配するような気持も伝わって来た。俺のこと憎んでいたはずなのに……何故だろう。だが同時に……陸さんは義父さんの血を受け継いでいると思うと、ぞくりともした。
これ以上のことは、何も起こらないといい。ただそれだけを願っている。
「安志くん、せっかく東京まで来たので涼くんを見舞いたいが、洋のこの腫れた顔を見たらかえって心配かけそうなので、私たちは今日はもう鎌倉に戻るよ」
「ええ、分かりました。そうしてもらえると助かります。洋、本当にごめん。殴って悪かった」
「お前、気にしすぎっ。もう大丈夫だから、ほら早く涼の所に行ってやれよ。きっとすごく心配していると思う。丈の言う通り今日はやめておくけれども、近いうちに会いに行くって伝えて欲しい」
シュンとしてしまった安志を軽くハグした。いつも爽やかで明るい安志が暗くなってしまうのは嫌なものだ。結局いつも俺が安志を振り回してしまっていることを反省した。
ごめんな、安志。そしてありがとう。
****
帰りの電車の中で、丈が突然聞いて来た。
「洋、それで結局撮影ってなんのことだ?」
「えっ? そ……その…陸さんの知り合いのカメラマンが涼のことプライベートで撮りたいっていう話で、でも涼が怪我しちゃったので俺が代わりをすることになって」
「身代わり? はっいいようにやられたな。で、それでなんであんな姿になっていた? 驚いたぞ。私も安志くんと同じ行動取りそうになった」
「あぁ……えっと、その……カメラマンの人から言われて、セ……」
「セ?」
まずいな。絶対に怒られる。撮影とはいえ『セミヌード』を求められて、自分から脱いだなんて!
咎めるような丈の目つきに心臓がバクバクしてきてしまう。
ハンカチで押さえた口元を、安志が心配そうに撫でて来た。
お前、これ、気にしちゃうな。安志の今の気持ちが痛い程伝わって来て、居たたまれない。
「大丈夫だ。これ位すぐ治るから気にするなよ。もう……なっ」
「だが……はぁ……俺は考えなしだ、この手で洋を殴るなんて最悪だ」
後悔の念を浮かべ頭を抱え込んで真剣に悩んでいる安志の様子に、緊迫した場にも関わらず思わず笑みが零れてしまう。本当に安志らしいな。こういう所が素直で爽やかだ。
そんな様子を見かねて、丈も助け船を出してくれる。
「安志くん、まぁ……そう自分を責めるな。私も安志くんのおかげでこうやって洋のもとに辿り着けて感謝しているよ。洋を守ってくれてありがとう」
「いや俺は何もしてないし……しかも余計なことまで言って……本当に洋、ごめんな」
安志の方が泣きそうな顔になっていた。
「もうそんなに責めるな。物事はなるようになるよ。それに陸さんとは一度ちゃんと話した方がいいと思っている。幸い空さんが間に入ってくれそうだから、もう心配するな。今度はちゃんと丈と一緒に話をしにいくよ」
意外そうな顔で安志が見つめ返して来た。
「洋、お前強くなったな。今日はいろいろ嫌な目にもあったのに……あんな奴にキスまでされて。ったく、あいつ……なんであんなことをしたんだ? どういうつもりなのかさっぱり分からない」
「あっそれはもう言うなっ」
安志の馬鹿! それを蒸し返すなよっ。と心の中で叫んでしまった。
気まずくて横に立っている丈の顔を盗み見すると、やっぱり目が笑っていなかった。怒っているよな。勝手な行動した挙句、あんな姿になってキスまでされていて……後でどんなお仕置きがあるかと思うと怖くなる。
それに……陸さんから突然唇を重ね合わせられた時の衝撃が堪えているのは、こっちも同じだ。唇を重ねた後、そのまま血を舐めとっていった。その時、何故か傷を労わるような心配するような気持も伝わって来た。俺のこと憎んでいたはずなのに……何故だろう。だが同時に……陸さんは義父さんの血を受け継いでいると思うと、ぞくりともした。
これ以上のことは、何も起こらないといい。ただそれだけを願っている。
「安志くん、せっかく東京まで来たので涼くんを見舞いたいが、洋のこの腫れた顔を見たらかえって心配かけそうなので、私たちは今日はもう鎌倉に戻るよ」
「ええ、分かりました。そうしてもらえると助かります。洋、本当にごめん。殴って悪かった」
「お前、気にしすぎっ。もう大丈夫だから、ほら早く涼の所に行ってやれよ。きっとすごく心配していると思う。丈の言う通り今日はやめておくけれども、近いうちに会いに行くって伝えて欲しい」
シュンとしてしまった安志を軽くハグした。いつも爽やかで明るい安志が暗くなってしまうのは嫌なものだ。結局いつも俺が安志を振り回してしまっていることを反省した。
ごめんな、安志。そしてありがとう。
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帰りの電車の中で、丈が突然聞いて来た。
「洋、それで結局撮影ってなんのことだ?」
「えっ? そ……その…陸さんの知り合いのカメラマンが涼のことプライベートで撮りたいっていう話で、でも涼が怪我しちゃったので俺が代わりをすることになって」
「身代わり? はっいいようにやられたな。で、それでなんであんな姿になっていた? 驚いたぞ。私も安志くんと同じ行動取りそうになった」
「あぁ……えっと、その……カメラマンの人から言われて、セ……」
「セ?」
まずいな。絶対に怒られる。撮影とはいえ『セミヌード』を求められて、自分から脱いだなんて!
咎めるような丈の目つきに心臓がバクバクしてきてしまう。
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