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第7章
隠し事 14
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「洋……今……なんて?」
「……だから義父は、俺の母と結婚する前に……すでに」
「なんだって? そんな……聞いてない。そんなこと!」
安志の唇もわなわなと震えている。
はっ……本当に義父さんお見事だよ。全く気が付かなかった。今まで、これっぽっちも、何も知らない過ごして来た自分自身が情けなくなる。俯くと……流したくないのに悔し涙がぽとりと零れ落ちてしまった。
すると、立ちすくんでいた陸さんが俺の横にしゃがみ込んで来た。その横顔は若い頃の父を彷彿させるもので、思わず身を固くしてしまった。ビクっと俺が震えたのを感じ取ったのか、陸さんは聞いてはいけないことを口にした。
「おいっ、今の話は一体なんだ? 俺の父はお前に何かしたのか」
「うっ……」
「おい! はっきり言えよ、この幼馴染が誤解していたことってなんだ? 」
「何もない……いい義父だったよ」
だって……そう答えるしかないじゃないか。陸さんは知らなくてもいいことだ。そして俺に取っては絶対に知られたくない辛く深い傷だ。
お願いだ……もう放って置いて欲しい。忘れさせてくれよ。
「もうよせっ! 洋に触れんなっ。もう行くぞ。丈さんも心配してるぞ」
安志が俺を支えながら立ち上がらせようとしてくれた。これ以上深入りさせないためにも、もうこの場から去った方がいい。安志が駆けつけてくれたということは、丈も心配しているのだろう。
丈にも本当に心配をかけてしまった。早く丈に会いたい。
「おいっ待てよ」
安志に肩を抱かれ支えながら出て行こうとする俺を、陸さんが引き留めて来た。次の瞬間、躰は安志から離れ反転させられ、陸さんと向かい合っていた。
「何……?」
陸さんの指先がゆっくり伸びて来て、何故か俺の切れた唇に触れた。冷たい指先にひやりとする感触に驚いた。
「……ここ……血が出ているぞ」
「……やめろ……大丈夫だ」
触れられたくない。顔を安志の方へ再び背けようとした時、顎をぐいっと掴まれて…陸さんの端正な……だが義父を思い出してしまう顔がゆっくりと近づいて来て、焦点が合わなくなってくる。
「えっ?」
突然のことだった。呆気に取られている間に、俺は陸さんに、口づけされてしまった。一体何故そんなことを!
「んんっ!」
なんで口づけされたのか意味が分からない。衝撃と驚愕で目を見開いたまま固まっていると、その冷たい唇は俺の切れた口から流れ出ていた血を舐めとった。
「あっ……」
「おいっ洋に何するんだ! 離せっ!」
制止する声がロビーに大きく鳴り響いた。しかも、その声は安志のものだけでは、なかった。
「……だから義父は、俺の母と結婚する前に……すでに」
「なんだって? そんな……聞いてない。そんなこと!」
安志の唇もわなわなと震えている。
はっ……本当に義父さんお見事だよ。全く気が付かなかった。今まで、これっぽっちも、何も知らない過ごして来た自分自身が情けなくなる。俯くと……流したくないのに悔し涙がぽとりと零れ落ちてしまった。
すると、立ちすくんでいた陸さんが俺の横にしゃがみ込んで来た。その横顔は若い頃の父を彷彿させるもので、思わず身を固くしてしまった。ビクっと俺が震えたのを感じ取ったのか、陸さんは聞いてはいけないことを口にした。
「おいっ、今の話は一体なんだ? 俺の父はお前に何かしたのか」
「うっ……」
「おい! はっきり言えよ、この幼馴染が誤解していたことってなんだ? 」
「何もない……いい義父だったよ」
だって……そう答えるしかないじゃないか。陸さんは知らなくてもいいことだ。そして俺に取っては絶対に知られたくない辛く深い傷だ。
お願いだ……もう放って置いて欲しい。忘れさせてくれよ。
「もうよせっ! 洋に触れんなっ。もう行くぞ。丈さんも心配してるぞ」
安志が俺を支えながら立ち上がらせようとしてくれた。これ以上深入りさせないためにも、もうこの場から去った方がいい。安志が駆けつけてくれたということは、丈も心配しているのだろう。
丈にも本当に心配をかけてしまった。早く丈に会いたい。
「おいっ待てよ」
安志に肩を抱かれ支えながら出て行こうとする俺を、陸さんが引き留めて来た。次の瞬間、躰は安志から離れ反転させられ、陸さんと向かい合っていた。
「何……?」
陸さんの指先がゆっくり伸びて来て、何故か俺の切れた唇に触れた。冷たい指先にひやりとする感触に驚いた。
「……ここ……血が出ているぞ」
「……やめろ……大丈夫だ」
触れられたくない。顔を安志の方へ再び背けようとした時、顎をぐいっと掴まれて…陸さんの端正な……だが義父を思い出してしまう顔がゆっくりと近づいて来て、焦点が合わなくなってくる。
「えっ?」
突然のことだった。呆気に取られている間に、俺は陸さんに、口づけされてしまった。一体何故そんなことを!
「んんっ!」
なんで口づけされたのか意味が分からない。衝撃と驚愕で目を見開いたまま固まっていると、その冷たい唇は俺の切れた口から流れ出ていた血を舐めとった。
「あっ……」
「おいっ洋に何するんだ! 離せっ!」
制止する声がロビーに大きく鳴り響いた。しかも、その声は安志のものだけでは、なかった。
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