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第7章
隠し事 12
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「分かりました……Soilの行先を教えます」
電話の向こうにいる遠野 空と名乗る人物は、決心したようにしっかりとした口調になった。
「どこだ? 」
「おそらく都内の貸しスタジオに……そこで……」
「そこで何をするつもりだ? なんで洋なんだよっ」
「それは……Soilなりの事情があって……あぁでもやっぱり止めないと、僕も今から行きます。場所は港区の……」
「分かった。ありがとう! 教えてくれて」
「安志さん、何か分かった? 」
通話を終えると涼が心配そうに手を添えて来た。ふと見下ろすと涼の綺麗な手の甲に擦傷が出来ていて痛々しかった。そっと触れると痛そうに顔を歪めてしまった。
「つっ……」
これ……Soilさんを庇って傷ついたのか。Soilさんは庇ってもらった人なのに、涼がそこまでして大事に考えた人なのに……何故、従兄弟の洋を傷つけようとしているんだ? 涼のそっくりな洋の顔を見たらそんなこと出来るはずがないのに。
全く分からない。でもきっと何か洋と関係があるに違いない。
洋……お前って奴は、なんで昨日のうちに俺に明かさなかったんだよ。せめて丈さんには話さないと駄目だ。心配なこと一人で抱えるなって、あれだけ言ったじゃないか。本当にお前は馬鹿だよ。
いつもいつだって……生きるのが下手だ。
いや……違う。馬鹿なのは俺の方だ。洋が自分から言えないってこと知っていて、また気が付いてやれなかったのだから。
洋には今守りたいものが沢山あるんだ。それが分かっていながら……そしてその守りたいものの中に俺も入れてもらっているということも知っていたくせに。
「くそっ!」
「安志さん大丈夫? そのスタジオに、ふたりががいるの? でも何故Soilさんがそんなことを? どうして洋兄さんなんだろう。昨日会っただけの関係なのに」
涼の言葉にはっとした。恐らく二人は昨日会っただけの関係じゃない。だからだと確信した。だが怪我をしている涼にはこれ以上の心配を今はかけたくない。
「あぁそうだよな。すぐに行ってくるよ。涼ごめんな。見舞いに来たのに、こんな騒ぎになって」
「大丈夫だよ。それより僕が洋兄さんを巻き込んでしまったみたいで心配だ」
心から心配そうに綺麗な顔に影を落としてしまった涼の頬を優しく撫でてから、日に透けて明るく輝く栗色の髪の毛をくしゃっと撫でてやった。
「涼は大人しく待っていろ」
「うん、洋兄さんのこと……どうかお願いします」
****
丈さんに移動のタクシーの中から電話をした。今から駆けつける場所も告げた。とりあえず俺の方が早く現場に行けるから、行くのみだ。
「お客さん、着きましたよ」
都心にあるには少し古びた雑居ビルの前で降りて、案内板を確認すると確かに地下に『貸しスタジオ S』と表示があった。
「……ここか」
どうか間に合いますように。まだ何事も起こっていませんように。そう思う一方で、いつか見た、洋のスマホに大量に送り付けられてきていた禍々しい写真を思い出して身震いしてしまう。ソウルで重役に襲われそうになって身動きが取れなかった洋の震える姿も。
エレベーターは上の階に停止していたので、急いで地下へ降りるために非常口のドアへ向かうと、階下から足音が上がって来るのが分かった。
「待って、離してくれ!」
「五月蠅いっ! 黙ってついて来いっ!」
この声は洋だ! やっぱり何かされたのか。
「洋っ!」
夢中でドアを蹴とばすように開くと、シャツを全開にされ上半身の肌が露わになって……しかもジーンズのボタンも外されて下着が半分見えてしまっている洋が、背が高くエキゾチックで迫力のある男に手首を掴まれていた。
「なっ!」
逆上してしまうというのはこのことか。
頭にかっと血が上って行くのを感じた。
電話の向こうにいる遠野 空と名乗る人物は、決心したようにしっかりとした口調になった。
「どこだ? 」
「おそらく都内の貸しスタジオに……そこで……」
「そこで何をするつもりだ? なんで洋なんだよっ」
「それは……Soilなりの事情があって……あぁでもやっぱり止めないと、僕も今から行きます。場所は港区の……」
「分かった。ありがとう! 教えてくれて」
「安志さん、何か分かった? 」
通話を終えると涼が心配そうに手を添えて来た。ふと見下ろすと涼の綺麗な手の甲に擦傷が出来ていて痛々しかった。そっと触れると痛そうに顔を歪めてしまった。
「つっ……」
これ……Soilさんを庇って傷ついたのか。Soilさんは庇ってもらった人なのに、涼がそこまでして大事に考えた人なのに……何故、従兄弟の洋を傷つけようとしているんだ? 涼のそっくりな洋の顔を見たらそんなこと出来るはずがないのに。
全く分からない。でもきっと何か洋と関係があるに違いない。
洋……お前って奴は、なんで昨日のうちに俺に明かさなかったんだよ。せめて丈さんには話さないと駄目だ。心配なこと一人で抱えるなって、あれだけ言ったじゃないか。本当にお前は馬鹿だよ。
いつもいつだって……生きるのが下手だ。
いや……違う。馬鹿なのは俺の方だ。洋が自分から言えないってこと知っていて、また気が付いてやれなかったのだから。
洋には今守りたいものが沢山あるんだ。それが分かっていながら……そしてその守りたいものの中に俺も入れてもらっているということも知っていたくせに。
「くそっ!」
「安志さん大丈夫? そのスタジオに、ふたりががいるの? でも何故Soilさんがそんなことを? どうして洋兄さんなんだろう。昨日会っただけの関係なのに」
涼の言葉にはっとした。恐らく二人は昨日会っただけの関係じゃない。だからだと確信した。だが怪我をしている涼にはこれ以上の心配を今はかけたくない。
「あぁそうだよな。すぐに行ってくるよ。涼ごめんな。見舞いに来たのに、こんな騒ぎになって」
「大丈夫だよ。それより僕が洋兄さんを巻き込んでしまったみたいで心配だ」
心から心配そうに綺麗な顔に影を落としてしまった涼の頬を優しく撫でてから、日に透けて明るく輝く栗色の髪の毛をくしゃっと撫でてやった。
「涼は大人しく待っていろ」
「うん、洋兄さんのこと……どうかお願いします」
****
丈さんに移動のタクシーの中から電話をした。今から駆けつける場所も告げた。とりあえず俺の方が早く現場に行けるから、行くのみだ。
「お客さん、着きましたよ」
都心にあるには少し古びた雑居ビルの前で降りて、案内板を確認すると確かに地下に『貸しスタジオ S』と表示があった。
「……ここか」
どうか間に合いますように。まだ何事も起こっていませんように。そう思う一方で、いつか見た、洋のスマホに大量に送り付けられてきていた禍々しい写真を思い出して身震いしてしまう。ソウルで重役に襲われそうになって身動きが取れなかった洋の震える姿も。
エレベーターは上の階に停止していたので、急いで地下へ降りるために非常口のドアへ向かうと、階下から足音が上がって来るのが分かった。
「待って、離してくれ!」
「五月蠅いっ! 黙ってついて来いっ!」
この声は洋だ! やっぱり何かされたのか。
「洋っ!」
夢中でドアを蹴とばすように開くと、シャツを全開にされ上半身の肌が露わになって……しかもジーンズのボタンも外されて下着が半分見えてしまっている洋が、背が高くエキゾチックで迫力のある男に手首を掴まれていた。
「なっ!」
逆上してしまうというのはこのことか。
頭にかっと血が上って行くのを感じた。
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