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第7章
隠し事 11
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「もしもし涼です。はい……昨日は心配かけてすいませんでした。あのSoilさんは今日は仕事入っていますか……えっそうなんですか。分かりました。僕はまだ入院中で、事務所の方にも迷惑かけてしまって」
はぁっと吐かれた涼の溜息の深さで、答えは聞かなくても分かってしまった。
「安志さん、今日Soilさんは午前中事務所に来たけれども午後はオフだって。それで後姿だけど僕とよく似た人と出かけていくのを見たって人がいるそうだ」
「やっぱりな。でもなぜSoilさんなんだ? 」
「分からない。でも何か嫌な予感がする」
「あぁ俺もだ」
「Soilさんと洋兄さんの関係が分からないよ。昨日病院で会ったのが初対面のはずなのに」
確かにそうだ。だけどそうじゃない。俺には何度も経験したから分かるんだ。洋はまた何か悪いことに巻き込まれている。とにかく、まずは洋の行先を知ることが先決だ。
「涼、誰かSoilさんと親しい人知らないか」
「そうだ! あの人なら」
「誰だ? 」
「確かここに」
涼は慌てて自分のリュックの中を漁って、手帳から一枚の名刺を差し出した。
──
ルーチェ編集部 遠野 空
──
「この人……Soilさんとは昔からの親友みたいで」
「分かった、今すぐ電話してくれるか」
****
「はい、ルーチェ編集部の遠野ですが」
「遠野さんですか。あの、僕……月乃 涼です。分かりますか」
「え……涼くん……どうしたの? 急に電話なんて」
何故か遠野さんは。気まずそうな声色だった。やはり何かあるのではと疑いたくなってしまう。
「あの、遠野さんなら何か知っているかもしれないと思って」
「どうしたの? まさかSoilが何かした? 」
「どうしてそれを? 」
「あっ」
確かに手応えを感じた。Soilさんと洋兄さんのつながりを遠野さんは何か知っている。同時にSoilさんが以前僕に呟いた暗い言葉を思い出した。確か……こう言っていた。
『人のため?人のためにそんなことが出来るのか。みんな自分が可愛いだけじゃないのか』
何かあったのだろうか。二人の間に何か僕が知らない過去が……
「遠野さんは知っているんじゃないですか。洋兄さんのこと」
「洋って『サイガヨウ』のこと? あっ……」
「やっぱり……何故知って? 教えて下さい。洋兄さんの行先を知りませんか。嫌な予感がするんです」
「な……何を言って……僕は偶然編集部で涼くんと間違えて話しかけちゃっただけで」
「嘘だ。遠野さん何か知っていますよね。洋兄さんは恨まれるような人じゃないんです。本当に本当に苦労して……やっと……」
洋兄さんの苦労を思い出し、思わず涙声になってしまった。儚げな笑み、アメリカでの俯いた消え入りそうな姿が浮かんで、どんどん溢れて来て何をどう言えばいいのか分からない。
昨日ぶつけた傷がズキンズキンと心臓の鼓動と共に痛みを増してくる。
「うっ……」
「涼、無理すんな、電話かわるぞ」
安志さんが落としそうになった受話器を取ってくれた。
「もしもし電話変わりました。俺は洋の幼馴染の鷹野安志といいます。あなたにとってSoilさんが大事な人というのが分かります。でも俺にとっても洋は同じ立場なんです。本当に親友なら分かっているはずです。何か良くないことが起きているって。それを止めるのも親友の役目なんです。誰かに止めてもらわないと止められない時ってあるから。だから教えて下さい。なんでもいい。行先の可能性だけでも」
安志さんは一か八かの賭けに出ている。本当に安志さんは洋兄さんの過去をすべて知っているんだ。だからこんなにも必死なんだ。
電話口で必死に訴える安志さんのことを、ただただ祈るような気持ちで見つめた。
どうか……遠野さん、素直に話して欲しい。安志さんの願いが叶えてあげて欲しい。
「……Soilもずっと苦しんでいたんだ、だから僕からは彼を裏切るようなことは出来ない」
「暴走は……俺達で止めましょう。二人の行先教えて下さい」
「……僕が止める?」
「そうです! 親友なら、間違いは止めないと駄目だ!」
はぁっと吐かれた涼の溜息の深さで、答えは聞かなくても分かってしまった。
「安志さん、今日Soilさんは午前中事務所に来たけれども午後はオフだって。それで後姿だけど僕とよく似た人と出かけていくのを見たって人がいるそうだ」
「やっぱりな。でもなぜSoilさんなんだ? 」
「分からない。でも何か嫌な予感がする」
「あぁ俺もだ」
「Soilさんと洋兄さんの関係が分からないよ。昨日病院で会ったのが初対面のはずなのに」
確かにそうだ。だけどそうじゃない。俺には何度も経験したから分かるんだ。洋はまた何か悪いことに巻き込まれている。とにかく、まずは洋の行先を知ることが先決だ。
「涼、誰かSoilさんと親しい人知らないか」
「そうだ! あの人なら」
「誰だ? 」
「確かここに」
涼は慌てて自分のリュックの中を漁って、手帳から一枚の名刺を差し出した。
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「この人……Soilさんとは昔からの親友みたいで」
「分かった、今すぐ電話してくれるか」
****
「はい、ルーチェ編集部の遠野ですが」
「遠野さんですか。あの、僕……月乃 涼です。分かりますか」
「え……涼くん……どうしたの? 急に電話なんて」
何故か遠野さんは。気まずそうな声色だった。やはり何かあるのではと疑いたくなってしまう。
「あの、遠野さんなら何か知っているかもしれないと思って」
「どうしたの? まさかSoilが何かした? 」
「どうしてそれを? 」
「あっ」
確かに手応えを感じた。Soilさんと洋兄さんのつながりを遠野さんは何か知っている。同時にSoilさんが以前僕に呟いた暗い言葉を思い出した。確か……こう言っていた。
『人のため?人のためにそんなことが出来るのか。みんな自分が可愛いだけじゃないのか』
何かあったのだろうか。二人の間に何か僕が知らない過去が……
「遠野さんは知っているんじゃないですか。洋兄さんのこと」
「洋って『サイガヨウ』のこと? あっ……」
「やっぱり……何故知って? 教えて下さい。洋兄さんの行先を知りませんか。嫌な予感がするんです」
「な……何を言って……僕は偶然編集部で涼くんと間違えて話しかけちゃっただけで」
「嘘だ。遠野さん何か知っていますよね。洋兄さんは恨まれるような人じゃないんです。本当に本当に苦労して……やっと……」
洋兄さんの苦労を思い出し、思わず涙声になってしまった。儚げな笑み、アメリカでの俯いた消え入りそうな姿が浮かんで、どんどん溢れて来て何をどう言えばいいのか分からない。
昨日ぶつけた傷がズキンズキンと心臓の鼓動と共に痛みを増してくる。
「うっ……」
「涼、無理すんな、電話かわるぞ」
安志さんが落としそうになった受話器を取ってくれた。
「もしもし電話変わりました。俺は洋の幼馴染の鷹野安志といいます。あなたにとってSoilさんが大事な人というのが分かります。でも俺にとっても洋は同じ立場なんです。本当に親友なら分かっているはずです。何か良くないことが起きているって。それを止めるのも親友の役目なんです。誰かに止めてもらわないと止められない時ってあるから。だから教えて下さい。なんでもいい。行先の可能性だけでも」
安志さんは一か八かの賭けに出ている。本当に安志さんは洋兄さんの過去をすべて知っているんだ。だからこんなにも必死なんだ。
電話口で必死に訴える安志さんのことを、ただただ祈るような気持ちで見つめた。
どうか……遠野さん、素直に話して欲しい。安志さんの願いが叶えてあげて欲しい。
「……Soilもずっと苦しんでいたんだ、だから僕からは彼を裏切るようなことは出来ない」
「暴走は……俺達で止めましょう。二人の行先教えて下さい」
「……僕が止める?」
「そうです! 親友なら、間違いは止めないと駄目だ!」
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