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第7章
隠し事 9
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どうしたものかと迷っていると、再びスマホに着信があった。表示を見ると相手は安志くんだった。いいタイミングだ。やはり洋に何かあったのではないか……その予感が的中しそうだ。
「もしもし」
「あっ丈さん、俺、安志です。お仕事中すいません、今大丈夫ですか」
はきはきとした律儀な挨拶が彼らしい。
「あぁどうした? 」
「あの、洋って今日何処にいるか知っていますか。さっきから携帯が繋がらなくて、気になってしまって」
「……それが」
どう説明すべきか言い淀んでいると、電話の向こうの安志くんが、はっと息を呑んだのが分かった。
「あいつ……もしかしてまた! 」
「何か思い当たるのか。洋は涼くんのことで急に呼び出されて出かけたらしいのだが」
「えっ……涼のことで? 涼からの電話ではなく、他の誰かからですか」
「そうかもしれないな。詳しいことが分からないので、今から涼くんの病院に電話してみようと思っていたところだ。それにしても涼くん大変だったな。具合はどうなんだ? 」
「あっ俺、実は今、涼の病院の目の前なんです。今日は涼を見舞いたくて仕事半休とったんで、とにかく確認してまた連絡します」
「あぁそうしてくれ。洋の行先で思い当たるところがあったら教えてくれ」
「了解です!」
****
丈さんとの電話を終えて、髪の毛を思わずぐしゃっと掻きむしってしまった。昨夜のことだ。病院のベンチに放心したように座っていた洋の姿を思い出し、俺は猛烈に後悔した。
くそっ……アイツやっぱり!
やっぱりあの時の嫌な予感が的中したんだ。昨日の洋の様子、あんなに変だったのに。涼のことで動揺しただけではないような気がしていたのに……洋の押し殺した感情に、また俺は気づいてやれなかったのか。
そう思うと後悔の気持ちがどろりと躰に流れて来るようだ。
とりあえず涼に確認してみよう。何か掴めるかも!
****
病室に入ると、涼はベッドで眠っていた。長い睫毛が影を作り、頬や額の傷はまだ痛々しいが、頬には健康的な赤みが幾分戻って来ていた。まるでそこだけおとぎ話の世界の主人公のようだ。涼は目を閉じていても輝いていて、眩しかった。
その反面、今は幼い頃から影を背負って生きて来た洋のことを、嫌でも思い出してしまう。あの日、道で倒れてしまった洋を俺の家に連れて帰り介抱したことを思い出す。あの時の洋は本当に傷心して痩せていて消えそうで……痛々しくて見ていられなかった。
その後、洋は立ち直り、今は丈さんと深い関係を築き上げ、丈さんを守りたいとも思っているはずだ。あの頃に比べて洋はずっと大人になった。洋は強くなった。だからきっと大丈夫だ。そう思うが、俺の目で確かめずにはいられない。
涼なら何かを知っているのだろうか。この病院に着いてから洋の様子が変わったようだったし……布団の中から涼の手を探り、きゅっと握って耳元で呼びかけてみた。
「涼……」
「う……んっ…」
「涼、起きれるか?」
「ん……あ……や……めろっ」
「涼?」
「いやだ…近寄るなっ!」
「おいっ」
さっきまで幸せそうに眠っていた涼が、突然痛そうな嫌がるような表情を浮かべた。何か嫌な夢を見ているのか。涼がこういう表情を浮かべると、ますますあの日の洋を思い出し心が凍るようだ。とにかく早く目を覚ましてやりたくて、必死に肩を揺さぶった。
「涼、それは悪い夢だ! だから目を覚ませっ!」
「もしもし」
「あっ丈さん、俺、安志です。お仕事中すいません、今大丈夫ですか」
はきはきとした律儀な挨拶が彼らしい。
「あぁどうした? 」
「あの、洋って今日何処にいるか知っていますか。さっきから携帯が繋がらなくて、気になってしまって」
「……それが」
どう説明すべきか言い淀んでいると、電話の向こうの安志くんが、はっと息を呑んだのが分かった。
「あいつ……もしかしてまた! 」
「何か思い当たるのか。洋は涼くんのことで急に呼び出されて出かけたらしいのだが」
「えっ……涼のことで? 涼からの電話ではなく、他の誰かからですか」
「そうかもしれないな。詳しいことが分からないので、今から涼くんの病院に電話してみようと思っていたところだ。それにしても涼くん大変だったな。具合はどうなんだ? 」
「あっ俺、実は今、涼の病院の目の前なんです。今日は涼を見舞いたくて仕事半休とったんで、とにかく確認してまた連絡します」
「あぁそうしてくれ。洋の行先で思い当たるところがあったら教えてくれ」
「了解です!」
****
丈さんとの電話を終えて、髪の毛を思わずぐしゃっと掻きむしってしまった。昨夜のことだ。病院のベンチに放心したように座っていた洋の姿を思い出し、俺は猛烈に後悔した。
くそっ……アイツやっぱり!
やっぱりあの時の嫌な予感が的中したんだ。昨日の洋の様子、あんなに変だったのに。涼のことで動揺しただけではないような気がしていたのに……洋の押し殺した感情に、また俺は気づいてやれなかったのか。
そう思うと後悔の気持ちがどろりと躰に流れて来るようだ。
とりあえず涼に確認してみよう。何か掴めるかも!
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病室に入ると、涼はベッドで眠っていた。長い睫毛が影を作り、頬や額の傷はまだ痛々しいが、頬には健康的な赤みが幾分戻って来ていた。まるでそこだけおとぎ話の世界の主人公のようだ。涼は目を閉じていても輝いていて、眩しかった。
その反面、今は幼い頃から影を背負って生きて来た洋のことを、嫌でも思い出してしまう。あの日、道で倒れてしまった洋を俺の家に連れて帰り介抱したことを思い出す。あの時の洋は本当に傷心して痩せていて消えそうで……痛々しくて見ていられなかった。
その後、洋は立ち直り、今は丈さんと深い関係を築き上げ、丈さんを守りたいとも思っているはずだ。あの頃に比べて洋はずっと大人になった。洋は強くなった。だからきっと大丈夫だ。そう思うが、俺の目で確かめずにはいられない。
涼なら何かを知っているのだろうか。この病院に着いてから洋の様子が変わったようだったし……布団の中から涼の手を探り、きゅっと握って耳元で呼びかけてみた。
「涼……」
「う……んっ…」
「涼、起きれるか?」
「ん……あ……や……めろっ」
「涼?」
「いやだ…近寄るなっ!」
「おいっ」
さっきまで幸せそうに眠っていた涼が、突然痛そうな嫌がるような表情を浮かべた。何か嫌な夢を見ているのか。涼がこういう表情を浮かべると、ますますあの日の洋を思い出し心が凍るようだ。とにかく早く目を覚ましてやりたくて、必死に肩を揺さぶった。
「涼、それは悪い夢だ! だから目を覚ませっ!」
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