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第7章
隠し事 7
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「だからあの子は誰だよ? 教えろよ~しかし涼くんと他人にしては似すぎているよな」
「お前っ誰にも言うなよ」
「おっSoilがそんなマジなんて珍しいな。まぁラッキーだったけどな。で、あの子の本当の名前は?」
「……」
「はぁだんまりか…何があって涼くんの身代わりにして虐めようと思ったのか知らないが、この子は滅多にない逸材だぞ。Soilも分かったんだろ? その顔が物語ってるぞ」
「くそっ」
撮影が終わったと告げられたのに、まだ呆然としていた。体の中が熱い。まるでこれは……懐かしい人と会えた喜びによる感極まった興奮状態のようだった。
あの日確かに俺のもとにやってきた平安時代の貴族の洋月。そして可愛い王様から何度も何度も昔話のように話された近衛隊長のヨウ。急に彼らの思考が頭の中を占めて、それからは夢中だった。隣で共に息をあわせて舞う丈の中将の艶やかな姿。真剣を持って踊る剣の舞の緊張の中、一心に見つめた相手のジョウ。
君たちも世間の様々な思惑の目に晒されながらも、必死に二人の愛を育みながら生きていたんだな。俺も……俺も負けないよ。だって俺には愛する丈や沢山の守りたい人がいるから。本心からそう思った。
「君、大丈夫?すごい汗だね。ほら、これ使って」
もう一度カメラマンの人に声をかけられ、タオルを手渡された。
「あっ……ありがとうございます」
本当だ。こんなに汗をかくのは久しぶりだ。えっと……いつの間に……俺、自分からこんなに脱いだのか? 正気に戻ると自分の姿に唖然としてしまった。ジーンズのウエストのボタンを外し下着が丸見えだし、シャツは全開で、汗ばんで肌が透けるほどだった。
でもおかげで思い出したよ。本当は俺だって躰を動かしたりするのが好きだった。だが高校時代にあまりに嫌なことが続いて、人前に立つのが怖くなってしまっていた。
最初は戸惑った撮影だったが、途中から洋月やヨウが乗り移ったかのように夢中になれた。
「結局完全なセミヌードとまではいかなかったけど、エロく煽った甲斐あったみたいだね。途中から凄く良かったよ。なんていうか壮絶に色っぽくて、凛とした男らしさが出ていてカッコ良かった!」
「……男らしい?」
滅多に言われない言葉だったので、思わず聞き返してしまった。
「うん。君ってさぁ外見は女性以上に美人だけど、決してなよなよしていなくて、凛とした研ぎ澄まされた男らしさも持っているよね。俺はさ、いろんな人を撮っているから分かるよ」
「……ありがとうございます」
まさかそんな風に言ってもらえると思っていなくて…驚いてしまった。
「でも君は涼くんじゃないよね? 誰?」
「あっ……」
すっかりばれていたことに拍子抜けし、慌てて陸さんのことを見るとプイっとそっぽを向かれてしまった。
「あの……事情があって……騙すつもりじゃ……」
「いいんだよ。君が涼くんじゃなくても。今日の写真は俺の趣味で世に出すようなものじゃないけど、これを埋もれさすなんてもったいない。ねぇ君もデビューを考えてみない? 」
「えっ? 」
驚いた! そんな展開になると思っていなくて返答に困っていると、陸さんに再び強引に腕を掴まれ引っ張られた。
「あっ! 痛っ」
「もう帰るぞ。一時間過ぎた」
「おいおいSoil、乱暴にするなよ。君、待って、これ俺の名刺。その気になったら連絡して!」
「もう行くぞ。早く荷物をまとめろ」
「えっちょっと待って」
服を整える暇もなく、慌てて着て来たジャケットやセーターを手に持った。
****
「ほら早くしろよっ」
苦々しい表情を浮かべたままのSoilさんに、腕を掴まれたまま地上に出ると、外の光が妙に白々しく目眩しかった。だがその光を浴びたことにより、危機を脱し生きている心地がした。
良かった。無事に戻って来れた。何もなかった。自分でなんとか乗り越えられた。そのことにほっと安堵していると、突然聞き慣れた声が突き刺さるように雑居ビルのロビーに響いた。
「洋……その姿なんだよっ」
ロビーで、俺達を待ち構えていたのは。
「お前っ誰にも言うなよ」
「おっSoilがそんなマジなんて珍しいな。まぁラッキーだったけどな。で、あの子の本当の名前は?」
「……」
「はぁだんまりか…何があって涼くんの身代わりにして虐めようと思ったのか知らないが、この子は滅多にない逸材だぞ。Soilも分かったんだろ? その顔が物語ってるぞ」
「くそっ」
撮影が終わったと告げられたのに、まだ呆然としていた。体の中が熱い。まるでこれは……懐かしい人と会えた喜びによる感極まった興奮状態のようだった。
あの日確かに俺のもとにやってきた平安時代の貴族の洋月。そして可愛い王様から何度も何度も昔話のように話された近衛隊長のヨウ。急に彼らの思考が頭の中を占めて、それからは夢中だった。隣で共に息をあわせて舞う丈の中将の艶やかな姿。真剣を持って踊る剣の舞の緊張の中、一心に見つめた相手のジョウ。
君たちも世間の様々な思惑の目に晒されながらも、必死に二人の愛を育みながら生きていたんだな。俺も……俺も負けないよ。だって俺には愛する丈や沢山の守りたい人がいるから。本心からそう思った。
「君、大丈夫?すごい汗だね。ほら、これ使って」
もう一度カメラマンの人に声をかけられ、タオルを手渡された。
「あっ……ありがとうございます」
本当だ。こんなに汗をかくのは久しぶりだ。えっと……いつの間に……俺、自分からこんなに脱いだのか? 正気に戻ると自分の姿に唖然としてしまった。ジーンズのウエストのボタンを外し下着が丸見えだし、シャツは全開で、汗ばんで肌が透けるほどだった。
でもおかげで思い出したよ。本当は俺だって躰を動かしたりするのが好きだった。だが高校時代にあまりに嫌なことが続いて、人前に立つのが怖くなってしまっていた。
最初は戸惑った撮影だったが、途中から洋月やヨウが乗り移ったかのように夢中になれた。
「結局完全なセミヌードとまではいかなかったけど、エロく煽った甲斐あったみたいだね。途中から凄く良かったよ。なんていうか壮絶に色っぽくて、凛とした男らしさが出ていてカッコ良かった!」
「……男らしい?」
滅多に言われない言葉だったので、思わず聞き返してしまった。
「うん。君ってさぁ外見は女性以上に美人だけど、決してなよなよしていなくて、凛とした研ぎ澄まされた男らしさも持っているよね。俺はさ、いろんな人を撮っているから分かるよ」
「……ありがとうございます」
まさかそんな風に言ってもらえると思っていなくて…驚いてしまった。
「でも君は涼くんじゃないよね? 誰?」
「あっ……」
すっかりばれていたことに拍子抜けし、慌てて陸さんのことを見るとプイっとそっぽを向かれてしまった。
「あの……事情があって……騙すつもりじゃ……」
「いいんだよ。君が涼くんじゃなくても。今日の写真は俺の趣味で世に出すようなものじゃないけど、これを埋もれさすなんてもったいない。ねぇ君もデビューを考えてみない? 」
「えっ? 」
驚いた! そんな展開になると思っていなくて返答に困っていると、陸さんに再び強引に腕を掴まれ引っ張られた。
「あっ! 痛っ」
「もう帰るぞ。一時間過ぎた」
「おいおいSoil、乱暴にするなよ。君、待って、これ俺の名刺。その気になったら連絡して!」
「もう行くぞ。早く荷物をまとめろ」
「えっちょっと待って」
服を整える暇もなく、慌てて着て来たジャケットやセーターを手に持った。
****
「ほら早くしろよっ」
苦々しい表情を浮かべたままのSoilさんに、腕を掴まれたまま地上に出ると、外の光が妙に白々しく目眩しかった。だがその光を浴びたことにより、危機を脱し生きている心地がした。
良かった。無事に戻って来れた。何もなかった。自分でなんとか乗り越えられた。そのことにほっと安堵していると、突然聞き慣れた声が突き刺さるように雑居ビルのロビーに響いた。
「洋……その姿なんだよっ」
ロビーで、俺達を待ち構えていたのは。
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