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第7章
隠し事 4
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「へぇ本当に涼そっくりだ。だが色気はお前の方が上か」
じっとのぞき込まれるように陸さんに見つめられ、居心地が悪かった。鏡に映る俺は髪色も栗毛色で、うっすらとしたメイクにより血色良く……気分とは裏腹に明るい顔立ちになっていた。俺が見ても10歳の年の差を更に感じさせない自然な仕上がりだった。
それにしても自分でも息を呑む程、涼に似ている。母親同士が双子だからって、こんなに似るものなのか。俺達従兄弟は母方の血筋が色濃く出ている証拠なんだろう。
こんな姿にさせられたんじゃ逃げようがないので、陸さんが何を要求してくるのか……出方を待つしかない。考えられるのは、このまま横にあるスタジオで涼がすべき仕事をすることだが……果たして……
「じゃあSoil、僕は次の仕事があるから行くね。またこんな美人相手ならいつでも頼んでね~楽しかった!」
「あぁありがとう。分かっていると思うが誰にも言うなよ」
「分かってるって! じゃーね、君たちも楽しんで!」
どこまでも軽薄そうな受け答えでメイクをしてくれた男性は姿を消し、控室には俺と陸さんだけ残された。
もう沈黙の時間はいらない。気を遣って丁寧に話すこともない。とにかく、さっさと用事をすませて丈のもとへ戻りたい。だから一刻も早く済ませて欲しい。
「それで俺をこんな恰好にして……一体何をすればいい? 」
「くくっ……何をすると思っている? 」
「涼の代わりにモデルなんて……俺は素人だから、どうせすぐにばれるさ」
「あぁそうそうモデルね。とにかくやるな? 」
「あなたがそれを望んでいるなら」
「ふっ……いい答えだ。どうやら覚悟は出来ているようだな」
ところが俺の想像とは違った行動を陸さんは取った。俺に帽子とサングラスをつけてさせ、強引に地下で車に乗せた。一体どこへ俺を連れて行くつもりだ。油断していた。涼の事務所だから、何をされても人の目もあって安全かと高を括っていたのだ。
「えっちょっと待てよ。ここでじゃないのか」
「はっ? いつだれがそんなこと言った? 」
「くっ……降ろせよ…一体どこへ連れて行くつもりだ? 」
「言うこと聞くっていったのはお前の方だぞ? 大人しくしろ」
「なんで俺が……そんなに俺のことが憎いのか」
答えはすぐに返ってきた。
「あぁ憎いせ。一番必要だった時に俺の家族をぶち壊したんだからな。お前に似ているんだろうな。その女の顔っ」
「……それは……母のことを言っているのか」
「あぁお前の母親は今何してんだ? 親父とどこでイチャイチャと暮らしてるんだかっ。全くいい気なもんだよ」
「……」
なんてことだ! 母がまだ生きていると思っているとは。陸さんの親子には本当に何も知らされていなかったのだということが、ひしひしと伝わって来る。義父は本当に酷い人だ。残酷だ。俺にも陸さんにも……この仕打ちはないだろう。
「着いたぞ。降りろ」
陸さんの運転で都内を走り抜け着いたのは、古びた雑居ビルだった。表示を見ると、どうやら地下に貸しスタジオがあるようだ。行先はそこなのか。
「仕事相手は涼を望んでいたが、涼はあんたと違って俺にとって弟みたいに可愛いから速攻断ったが、あんたならいいよな。これはモデルの仕事には変わりない。あんたが上手くやれば涼の今後の仕事にもつながって行くだろうしな。くくっ。せいぜい頑張れよ」
「涼の仕事……?」
重たいドアの向こうに待っているものは一体なんだ? 俺は甘かった。今日俺がここにいることを知っているのは陸さん、貴方だけだ。一縷の望みは陸さんの良心だが、それは無理だろう。
もしもの時の助けは入らない。
怖い……嫌な予感がする。ここから逃げてしまいたい。
丈、安志。
俺は、よく考えずに浅はかなことをしてしまったのかもしれない。結局また皆を悲しませてしまうのだろうか……
いやそうはさせない! させたくないよ。もううんざりだ。
「さぁ入れよ」
立ちすくんでいると、背中をドンっと押された。
じっとのぞき込まれるように陸さんに見つめられ、居心地が悪かった。鏡に映る俺は髪色も栗毛色で、うっすらとしたメイクにより血色良く……気分とは裏腹に明るい顔立ちになっていた。俺が見ても10歳の年の差を更に感じさせない自然な仕上がりだった。
それにしても自分でも息を呑む程、涼に似ている。母親同士が双子だからって、こんなに似るものなのか。俺達従兄弟は母方の血筋が色濃く出ている証拠なんだろう。
こんな姿にさせられたんじゃ逃げようがないので、陸さんが何を要求してくるのか……出方を待つしかない。考えられるのは、このまま横にあるスタジオで涼がすべき仕事をすることだが……果たして……
「じゃあSoil、僕は次の仕事があるから行くね。またこんな美人相手ならいつでも頼んでね~楽しかった!」
「あぁありがとう。分かっていると思うが誰にも言うなよ」
「分かってるって! じゃーね、君たちも楽しんで!」
どこまでも軽薄そうな受け答えでメイクをしてくれた男性は姿を消し、控室には俺と陸さんだけ残された。
もう沈黙の時間はいらない。気を遣って丁寧に話すこともない。とにかく、さっさと用事をすませて丈のもとへ戻りたい。だから一刻も早く済ませて欲しい。
「それで俺をこんな恰好にして……一体何をすればいい? 」
「くくっ……何をすると思っている? 」
「涼の代わりにモデルなんて……俺は素人だから、どうせすぐにばれるさ」
「あぁそうそうモデルね。とにかくやるな? 」
「あなたがそれを望んでいるなら」
「ふっ……いい答えだ。どうやら覚悟は出来ているようだな」
ところが俺の想像とは違った行動を陸さんは取った。俺に帽子とサングラスをつけてさせ、強引に地下で車に乗せた。一体どこへ俺を連れて行くつもりだ。油断していた。涼の事務所だから、何をされても人の目もあって安全かと高を括っていたのだ。
「えっちょっと待てよ。ここでじゃないのか」
「はっ? いつだれがそんなこと言った? 」
「くっ……降ろせよ…一体どこへ連れて行くつもりだ? 」
「言うこと聞くっていったのはお前の方だぞ? 大人しくしろ」
「なんで俺が……そんなに俺のことが憎いのか」
答えはすぐに返ってきた。
「あぁ憎いせ。一番必要だった時に俺の家族をぶち壊したんだからな。お前に似ているんだろうな。その女の顔っ」
「……それは……母のことを言っているのか」
「あぁお前の母親は今何してんだ? 親父とどこでイチャイチャと暮らしてるんだかっ。全くいい気なもんだよ」
「……」
なんてことだ! 母がまだ生きていると思っているとは。陸さんの親子には本当に何も知らされていなかったのだということが、ひしひしと伝わって来る。義父は本当に酷い人だ。残酷だ。俺にも陸さんにも……この仕打ちはないだろう。
「着いたぞ。降りろ」
陸さんの運転で都内を走り抜け着いたのは、古びた雑居ビルだった。表示を見ると、どうやら地下に貸しスタジオがあるようだ。行先はそこなのか。
「仕事相手は涼を望んでいたが、涼はあんたと違って俺にとって弟みたいに可愛いから速攻断ったが、あんたならいいよな。これはモデルの仕事には変わりない。あんたが上手くやれば涼の今後の仕事にもつながって行くだろうしな。くくっ。せいぜい頑張れよ」
「涼の仕事……?」
重たいドアの向こうに待っているものは一体なんだ? 俺は甘かった。今日俺がここにいることを知っているのは陸さん、貴方だけだ。一縷の望みは陸さんの良心だが、それは無理だろう。
もしもの時の助けは入らない。
怖い……嫌な予感がする。ここから逃げてしまいたい。
丈、安志。
俺は、よく考えずに浅はかなことをしてしまったのかもしれない。結局また皆を悲しませてしまうのだろうか……
いやそうはさせない! させたくないよ。もううんざりだ。
「さぁ入れよ」
立ちすくんでいると、背中をドンっと押された。
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