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第7章
アクシデント 11
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腕時計をちらっと見てから、洋は立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ俺は帰るよ」
「あっ送るよ。洋」
「いや、大丈夫だ。安志はもう少し涼の傍にいてやってくれ」
「洋兄さん、僕なら大丈夫だよ。もう遅いし安志さん送って行ってあげて」
洋は明るく笑って、無言で首を振った。
「涼ありがとう。でも今はお願いだから俺の言うこと聞いて……なっ。涼は今日大怪我をしたんだよ。安志に付き添ってもらうといい」
結局、洋は一人で帰って行った。廊下の闇に消えて行く後ろ姿がいつもにまして頼りない気がして、つい前のように追いかけてしまいたくなった。
本当に大丈夫か。無理して笑っていないか……
そう聞いてやりたい。だがその役目はもう俺じゃない。
電話口で心底心配そうな声を出していた丈さんに、ここは任せよう。
****
あの時、洋の笑顔が思ったよりも明るかったので、すっかり安心してしまった。
洋が抱えていた心の闇に気が付かずに帰してしまった。
後から考えたら……洋はこの時ひどく狼狽して悩んでいたに違いないのに。
全く俺はいつまで経っても学ばない。同じ過ちを何度も繰り返してばかりだ。
****
「洋兄さん、本当に大丈夫かな。僕、洋兄さんに何かあったら生きていけないよ」
涼が不安げに呟いた。
「そっか……涼も洋と全く同じこと言うんだな。でも少しは俺にも心配させてくれ」
「でも」
「でも、じゃないだろう。涼はこんなに傷だらけで意識もさっきまで失っていて、今、病院のベッドにいるんだぞ。洋の言う通り、自分のこと優先してもいい時だ」
「安志さん……ごめんね。でもなんだか洋兄さんが少し無理をしているような気がして。僕がこんな怪我して急に病院に呼び出されて動揺しているのは分かるけど……でも……あっ…痛っ」
そう言いながら涼は痛そうに表情を歪めて、こめかみに手をあてた。
「あっ涼、無理すんな。頭を結構強く打ったみたいだぞ。ほら、もう横になれよ」
「うん、安志さん……傍にいてくれてありがとう。流石にちょっと頭も痛いし、身体中ズキズキしてきた」
「ナースコールしようか。痛み止めもらうか」
「いや……大丈夫だ。安志さんがいてくれるのが一番の薬だよ、手を握って欲しい」
「あぁ」
涼の傷ついた手を、包みこむように握ってやった。
涼の手は温かく、生きている温もりをしっかりと感じられた。
「安志さんの手は温かいね」
「早く良くなれ。でも少し休め。日本に来てから涼は忙しすぎたんだ」
「そうかもしれないね。いろんなことがあったから。でも幸せだ、安志さんと同じ日本で過ごす毎日が……今日もいてくれて嬉しい。本当はちょっと怖かった。一人で入院なんて」
「あぁ分かっている」
ベッドで横たわって、俺を見上げてくる涼はいつもより幼く見えた。
涼はまだ18歳だ。親元を離れ一人暮らしも初めてだし、今日はこんなことになってしまって不安になるのも無理がない。
「眠るまで、ここにいてやるからな」
涼の額に……包帯を避けてキスをした。
早く良くなれ、あんまり心配かけるなよ。
そう願いを込めて…そのキスにありったけの心を詰め込んで……
「おやすみ、涼。本当に無事で良かった」
「ん……おやすみ……なさい」
「じゃあ、そろそろ俺は帰るよ」
「あっ送るよ。洋」
「いや、大丈夫だ。安志はもう少し涼の傍にいてやってくれ」
「洋兄さん、僕なら大丈夫だよ。もう遅いし安志さん送って行ってあげて」
洋は明るく笑って、無言で首を振った。
「涼ありがとう。でも今はお願いだから俺の言うこと聞いて……なっ。涼は今日大怪我をしたんだよ。安志に付き添ってもらうといい」
結局、洋は一人で帰って行った。廊下の闇に消えて行く後ろ姿がいつもにまして頼りない気がして、つい前のように追いかけてしまいたくなった。
本当に大丈夫か。無理して笑っていないか……
そう聞いてやりたい。だがその役目はもう俺じゃない。
電話口で心底心配そうな声を出していた丈さんに、ここは任せよう。
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あの時、洋の笑顔が思ったよりも明るかったので、すっかり安心してしまった。
洋が抱えていた心の闇に気が付かずに帰してしまった。
後から考えたら……洋はこの時ひどく狼狽して悩んでいたに違いないのに。
全く俺はいつまで経っても学ばない。同じ過ちを何度も繰り返してばかりだ。
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「洋兄さん、本当に大丈夫かな。僕、洋兄さんに何かあったら生きていけないよ」
涼が不安げに呟いた。
「そっか……涼も洋と全く同じこと言うんだな。でも少しは俺にも心配させてくれ」
「でも」
「でも、じゃないだろう。涼はこんなに傷だらけで意識もさっきまで失っていて、今、病院のベッドにいるんだぞ。洋の言う通り、自分のこと優先してもいい時だ」
「安志さん……ごめんね。でもなんだか洋兄さんが少し無理をしているような気がして。僕がこんな怪我して急に病院に呼び出されて動揺しているのは分かるけど……でも……あっ…痛っ」
そう言いながら涼は痛そうに表情を歪めて、こめかみに手をあてた。
「あっ涼、無理すんな。頭を結構強く打ったみたいだぞ。ほら、もう横になれよ」
「うん、安志さん……傍にいてくれてありがとう。流石にちょっと頭も痛いし、身体中ズキズキしてきた」
「ナースコールしようか。痛み止めもらうか」
「いや……大丈夫だ。安志さんがいてくれるのが一番の薬だよ、手を握って欲しい」
「あぁ」
涼の傷ついた手を、包みこむように握ってやった。
涼の手は温かく、生きている温もりをしっかりと感じられた。
「安志さんの手は温かいね」
「早く良くなれ。でも少し休め。日本に来てから涼は忙しすぎたんだ」
「そうかもしれないね。いろんなことがあったから。でも幸せだ、安志さんと同じ日本で過ごす毎日が……今日もいてくれて嬉しい。本当はちょっと怖かった。一人で入院なんて」
「あぁ分かっている」
ベッドで横たわって、俺を見上げてくる涼はいつもより幼く見えた。
涼はまだ18歳だ。親元を離れ一人暮らしも初めてだし、今日はこんなことになってしまって不安になるのも無理がない。
「眠るまで、ここにいてやるからな」
涼の額に……包帯を避けてキスをした。
早く良くなれ、あんまり心配かけるなよ。
そう願いを込めて…そのキスにありったけの心を詰め込んで……
「おやすみ、涼。本当に無事で良かった」
「ん……おやすみ……なさい」
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