重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
395 / 1,657
第7章 

影を踏む 7

しおりを挟む
「……サイガ……珍しい名字だね。どんな漢字? サイは西(にし)?」
「いえ、サイはチェとも読む韓国とかで多い漢字で、やまかんむりです」
「なるほど、もしかして、こう?」

 そう言いながら、その男性はスーツの胸元からペンを取り出し、手帳のメモに『崔加』と書いた。

「あぁそうです! 」
「そうか……そうなんだね。とても珍しい名字だね」

 何故だかその男性は暗い表情を浮かべたが、その理由がその時は理解できなかった。

「失礼だけど君はいま何歳だったかな? ずっと東京に住んでいた? 」

 不躾に歳まで尋ねられて困惑してしまう。俺はまた何かしたのだろうか。こんな初対面の人に、そもそもこの人の名前すら知らないのに。不審に思ったことが伝わったのか、その人はあぁと納得した感じで、名刺を差し出して来た。

「安心して。僕はこういう者だよ」

……
ルーチェ 編集部
遠野 空 (とおの そら)
……

 名刺には、そう書かれていた。

「遠野 空さんですか。あの涼が最初に載った雑誌の編集者の方だったのですね。涼のことではお世話になっています」
「ん、そうだね。君は確かさっき涼くんより十歳年上って言ったよね。じゃあ今二十八歳かな? 」
「えっそうですけど」
「そうか。あっいやなんでもない。じゃあ気を付けて」
  
 なんだか腑に落ちない感じで、心がざわついた。でも遠野さんという人との話はそこで終わったし、俺の素性もそれ以上は聞いてこなかった。なのに得体の知れない不安な気持ちは、なかなか収まらなかった。




****

「もしもし、陸?」
「空か。こんな時間にどうした?」
「……見つけたかもしれない」
「一体、誰を?」
「探していたアイツだよ」
「なんだって!?」
「今日偶然会ったんだ。崔加(さいが)って名字で二十八歳の男性。珍しい漢字だし、なんだかピンと来た」
「本当か」
「あぁ、でも……」



しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

処理中です...