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第7章
影を踏む 6
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「はい、こちらの書類になります。先生にお渡しください。こちらにサインを」
「ここですね」
「あの……」
「はい?」
「もしかしてモデルさんですか」
突然、受付の女性が頬を染めながら訊ねられ照れてしまう。こんな所でも涼と間違えられているのかもしれない。真剣に見つめられたので思わず苦笑してしまった。
「違いますよ。俺はただの先生の助手です」
「あっごめんなさい。モデルさんみたいに凄く綺麗だったので、つい」
「いえ。あの……ありがとうございます」
もしかしたら涼絡みかもしれないので、頑張って笑顔を浮かべることを心掛けて応えた。最近、涼がモデルになったおかげで、今まで気になっていた周りの視線に俯いているのではなく、こんなふうに素直に応じられるようになってきている。これはいい傾向というのだろうか。
「うわぁ微笑んだ顔も素敵! やっぱりモデルさんみたいに綺麗です」
「あっ……では失礼します」
何はともあれ無事に書類に受け取り出版社を後にしようとエレベーターホールへと向かっていると、今度は見知らぬ男性に親しげに声を掛けられたので驚いてしまった。
「君、ちょっと待って。あぁやっぱり! 早速来てくれて嬉しいよ」
相手は、俺と同じ年位のスーツ姿の男性だった。
「…?」
相手は俺のことをよく知っているようだが、俺の方は全く思い出せない。えっと…誰だったか。
「どうしたの? 今日はこの前より大人っぽい感じだね、早速編集部に来てくれて嬉しいよ。ほらっ遠慮しないで、こっちこっち」
この前って? なんだかよく分からないが強引に腕を掴まれて連れて行かれる。な……なんだ? 見かけは柔和そうな人なのに随分と強引だ。本当に誰だろうか。中学、高校時代の同級生か、それともアメリカで?安志以外に親友と呼べる友人もいなかった俺には、すでに同級生の顔は朧げだ。
「ちょっちょっと待って下さい」
「ほら、ここだよ」
あっという間に編集部の入り口に連れて行かれてしまった。
「おーい、噂の涼くん連れて来たよ」
涼! そうか! 納得した。この男性は俺のこと涼だと思っているのか。それなら早く訂正しないと、そう思うと気ばかり焦ってしまう。
「えーきゃー!! 本当に連れて来てくれたの! 」
「わぁ~実物はもっと大人っぽいんだ」
「それに想像以上に色気があるわ」
すごい勢いで人だかりが出来てしまって、早く訂正しないといけないのに上手くいかない。どんどん人だかりが増してしまい、このままでは本気でまずいと思い、なんとか声を振り絞った。
「あっあの違います。俺は涼じゃありません」
一瞬場がしーんと静まり返ってしまった
「えっ……」
「まさか……だってそっくりよ」
「えっと双子? 」
「あっすいません。俺はたまたま今日この会社に用があって立ち寄っただけで、涼の従兄弟になります」
「従兄弟かぁ納得! でも本当にこんなに似ている従兄弟がいるなんて驚いたわ」
「歳も近いんですか」
「いや俺の方が十歳も年上で」
「嘘ー! 信じられないっ」
そう答えた途端、静まった場はまた一層騒がしくなっていく。早くこの場から去りたくて、俺をここまで連れて来た男性に助けを求めると、俺の意図を汲んでくれたようで目で合図してくれた。
「ごめんね。人違いだったが、みんなも貴重な涼くんの従兄弟に会えてラッキーだったね」
「うん、でも本当に綺麗、あなたもモデルでも通じるわ! 」
「本当に! 」
周りの女性たちが首をブンブンと縦に振って同意していた。
「悪かったよ。勘違いして強引に連れて来てしまって……玄関まで送るよ」
「あっはい」
やっと解放され、玄関まで送ってもらうことに成功してほっとした。
「それにしても君、本当に涼くんに似ているね。Soilが知ったらかなり驚くだろうな」
「あのSoilさんって誰ですか」
「あぁ涼くんにとっては同じモデル事務所の大先輩であって、僕にとっては親友かな」
「そうなんですね、涼がお世話になっているようでありがとうございます。俺は日本での涼の保護者代わりなんです」
「へぇそうか、じゃあまたどこかで会えそうだね」
「はい、そうですね」
「そうだ、君の名前は」
「……洋です」
「洋くんか、名字はなんていうの?」
「崔加です」
「ここですね」
「あの……」
「はい?」
「もしかしてモデルさんですか」
突然、受付の女性が頬を染めながら訊ねられ照れてしまう。こんな所でも涼と間違えられているのかもしれない。真剣に見つめられたので思わず苦笑してしまった。
「違いますよ。俺はただの先生の助手です」
「あっごめんなさい。モデルさんみたいに凄く綺麗だったので、つい」
「いえ。あの……ありがとうございます」
もしかしたら涼絡みかもしれないので、頑張って笑顔を浮かべることを心掛けて応えた。最近、涼がモデルになったおかげで、今まで気になっていた周りの視線に俯いているのではなく、こんなふうに素直に応じられるようになってきている。これはいい傾向というのだろうか。
「うわぁ微笑んだ顔も素敵! やっぱりモデルさんみたいに綺麗です」
「あっ……では失礼します」
何はともあれ無事に書類に受け取り出版社を後にしようとエレベーターホールへと向かっていると、今度は見知らぬ男性に親しげに声を掛けられたので驚いてしまった。
「君、ちょっと待って。あぁやっぱり! 早速来てくれて嬉しいよ」
相手は、俺と同じ年位のスーツ姿の男性だった。
「…?」
相手は俺のことをよく知っているようだが、俺の方は全く思い出せない。えっと…誰だったか。
「どうしたの? 今日はこの前より大人っぽい感じだね、早速編集部に来てくれて嬉しいよ。ほらっ遠慮しないで、こっちこっち」
この前って? なんだかよく分からないが強引に腕を掴まれて連れて行かれる。な……なんだ? 見かけは柔和そうな人なのに随分と強引だ。本当に誰だろうか。中学、高校時代の同級生か、それともアメリカで?安志以外に親友と呼べる友人もいなかった俺には、すでに同級生の顔は朧げだ。
「ちょっちょっと待って下さい」
「ほら、ここだよ」
あっという間に編集部の入り口に連れて行かれてしまった。
「おーい、噂の涼くん連れて来たよ」
涼! そうか! 納得した。この男性は俺のこと涼だと思っているのか。それなら早く訂正しないと、そう思うと気ばかり焦ってしまう。
「えーきゃー!! 本当に連れて来てくれたの! 」
「わぁ~実物はもっと大人っぽいんだ」
「それに想像以上に色気があるわ」
すごい勢いで人だかりが出来てしまって、早く訂正しないといけないのに上手くいかない。どんどん人だかりが増してしまい、このままでは本気でまずいと思い、なんとか声を振り絞った。
「あっあの違います。俺は涼じゃありません」
一瞬場がしーんと静まり返ってしまった
「えっ……」
「まさか……だってそっくりよ」
「えっと双子? 」
「あっすいません。俺はたまたま今日この会社に用があって立ち寄っただけで、涼の従兄弟になります」
「従兄弟かぁ納得! でも本当にこんなに似ている従兄弟がいるなんて驚いたわ」
「歳も近いんですか」
「いや俺の方が十歳も年上で」
「嘘ー! 信じられないっ」
そう答えた途端、静まった場はまた一層騒がしくなっていく。早くこの場から去りたくて、俺をここまで連れて来た男性に助けを求めると、俺の意図を汲んでくれたようで目で合図してくれた。
「ごめんね。人違いだったが、みんなも貴重な涼くんの従兄弟に会えてラッキーだったね」
「うん、でも本当に綺麗、あなたもモデルでも通じるわ! 」
「本当に! 」
周りの女性たちが首をブンブンと縦に振って同意していた。
「悪かったよ。勘違いして強引に連れて来てしまって……玄関まで送るよ」
「あっはい」
やっと解放され、玄関まで送ってもらうことに成功してほっとした。
「それにしても君、本当に涼くんに似ているね。Soilが知ったらかなり驚くだろうな」
「あのSoilさんって誰ですか」
「あぁ涼くんにとっては同じモデル事務所の大先輩であって、僕にとっては親友かな」
「そうなんですね、涼がお世話になっているようでありがとうございます。俺は日本での涼の保護者代わりなんです」
「へぇそうか、じゃあまたどこかで会えそうだね」
「はい、そうですね」
「そうだ、君の名前は」
「……洋です」
「洋くんか、名字はなんていうの?」
「崔加です」
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