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第7章
影を踏む 4
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「わぁ凄く美味しそうだ! ありがとうございます。いただきます」
遠野さんが作ってくれたパスタを夕食にご馳走になった。Soilさんの家のキッチンで遠野さんが手際よくパスタを作っている姿は、この家によく来ていることを物語っていた。
「おい空、俺の分は?」
「おいおい、焦るなよ。まずはお子様が先だろう?」
「それもそうだな。涼はまだ十代だもんな。育ち盛りで腹空かせているよな」
「お子様って……僕は十代っと言っても、もう大学生ですよ」
ワイングラスを持って戻ってきたSoilさんは意外なほどフランクだった。僕はすっかりお子様扱いたが、カウンター越しに二人の楽しそうな様子を見ているのがとても興味深かった。
二人は本当に親しいようだ。随分前からの知り合い、もしかしたら幼馴染だろうか。
そんな様子に安志さんと洋兄さんの関係を思い出してしまった。
あっまずい。安志さんから今日帰ったら連絡欲しいってメールが来ていたのに、まだ返信していなかった。いらぬ心配をかけていないか急に不安になって来た。
「あの……僕そろそろ帰らないと」
「そうだね。ご家族の人が心配するよね。じゃあ僕が車で送ってあげるよ。Soilはもう酒を飲んでしまったから」
「えっそんな悪いです」
「いいから。空なら安心だからそうしろ」
Soilさんから強く言われてしまったら断れない。
****
遠野さんは優しい品が良い顔をした大人っぽい落ち着いた雰囲気だ。きっと仕事もそつなくこなすんだろうな。そんな彼には品の良いダークグレーのスーツがよく似合っていた。
「今日は良かったよ。僕は涼くんに一度会ってみたかったんだ」
「えっ僕にですか」
「あぁSoilは外では結構とっつきにくいだろう? ツンとして人を寄せ付けないところがあるのに、涼くんへの態度は全然違ったから意外だったよ。会うと必ず話に出てくるし」
「そうなんですか」
「あいつ君のこと、もしかしたら弟みたいに思っているのかも」
「弟ですか」
「うん、きっと本当は君みたいに素直で可愛い弟が欲しかったのかもしれないな。僕もSoilも」
「えっ? 」
「あっいやなんでもないよ。それより僕は君のこと実は最初から知っていたんだ。なんといっても君が最初に登場したLuce(ルーチェ)という雑誌はうちの編集部だからね」
「あっ!」
あの水族館でのピンチヒッターでモデルをした時の雑誌を作っている出版社だったのか。
「評判だったよ。綺麗すぎる君のこと、その後Soilの事務所に入ったって聞いて驚いた」
「そうなんですね、ありがとうございます」
「ふふっSoilが話していた通りだ。君は本当に礼儀正しいね。今度編集部に良かったら遊びに来てくれないか。みんな生で会いたがっていたよ」
「そんな僕なんかでよければ……あっここで大丈夫です。送ってくださってありがとうございました」
Soilさんにも遠野さんにも、周りの人からよく礼儀正しいとか育ちが良いと言われることが意外だった。僕はそうするように当たり前のように両親から学んで来ただけなのに。でも、そう感じてもらえるのは、大切な両親のことを褒めてもらっているようで嬉しかった。
「ありがとうございました」
「うん、また会おう。本当に待っているよ。」
走り去っていく車を見送って一人エレベーターに乗って一息ついた。
ふぅ……やっと一人になれた。
まだ興奮が冷めやらない…心臓がバクバクいっている。
今日は一度にいろんなことがありすぎたせいだ。
ロッカーで向けられたカッターナイフのことを思い出すと足がカタカタと今頃になって震えてしまった。あんな剥き出しの敵意に僕は慣れていないから、強がっていたけど本当は震える程怖かったんだ。
でもSoilさんに助けてもらいプライベートな友人まで紹介してもらって、ありがたいことばかりだった。
なんだか最近……僕は僕のままなのに周りがどんどん変化していって怖い。
こんな時は無性に安志さんに会いたくなる。
安志さんの揺るがないぶれない姿に僕はいつもほっとできるから。早く部屋に入って、安志さんに電話をかけよう。会えないのならせめて声だけでも聞きたい。
そう逸る気持ちで部屋へ向かう廊下を歩いていると、後ろからポンと肩を叩かれた。
遠野さんが作ってくれたパスタを夕食にご馳走になった。Soilさんの家のキッチンで遠野さんが手際よくパスタを作っている姿は、この家によく来ていることを物語っていた。
「おい空、俺の分は?」
「おいおい、焦るなよ。まずはお子様が先だろう?」
「それもそうだな。涼はまだ十代だもんな。育ち盛りで腹空かせているよな」
「お子様って……僕は十代っと言っても、もう大学生ですよ」
ワイングラスを持って戻ってきたSoilさんは意外なほどフランクだった。僕はすっかりお子様扱いたが、カウンター越しに二人の楽しそうな様子を見ているのがとても興味深かった。
二人は本当に親しいようだ。随分前からの知り合い、もしかしたら幼馴染だろうか。
そんな様子に安志さんと洋兄さんの関係を思い出してしまった。
あっまずい。安志さんから今日帰ったら連絡欲しいってメールが来ていたのに、まだ返信していなかった。いらぬ心配をかけていないか急に不安になって来た。
「あの……僕そろそろ帰らないと」
「そうだね。ご家族の人が心配するよね。じゃあ僕が車で送ってあげるよ。Soilはもう酒を飲んでしまったから」
「えっそんな悪いです」
「いいから。空なら安心だからそうしろ」
Soilさんから強く言われてしまったら断れない。
****
遠野さんは優しい品が良い顔をした大人っぽい落ち着いた雰囲気だ。きっと仕事もそつなくこなすんだろうな。そんな彼には品の良いダークグレーのスーツがよく似合っていた。
「今日は良かったよ。僕は涼くんに一度会ってみたかったんだ」
「えっ僕にですか」
「あぁSoilは外では結構とっつきにくいだろう? ツンとして人を寄せ付けないところがあるのに、涼くんへの態度は全然違ったから意外だったよ。会うと必ず話に出てくるし」
「そうなんですか」
「あいつ君のこと、もしかしたら弟みたいに思っているのかも」
「弟ですか」
「うん、きっと本当は君みたいに素直で可愛い弟が欲しかったのかもしれないな。僕もSoilも」
「えっ? 」
「あっいやなんでもないよ。それより僕は君のこと実は最初から知っていたんだ。なんといっても君が最初に登場したLuce(ルーチェ)という雑誌はうちの編集部だからね」
「あっ!」
あの水族館でのピンチヒッターでモデルをした時の雑誌を作っている出版社だったのか。
「評判だったよ。綺麗すぎる君のこと、その後Soilの事務所に入ったって聞いて驚いた」
「そうなんですね、ありがとうございます」
「ふふっSoilが話していた通りだ。君は本当に礼儀正しいね。今度編集部に良かったら遊びに来てくれないか。みんな生で会いたがっていたよ」
「そんな僕なんかでよければ……あっここで大丈夫です。送ってくださってありがとうございました」
Soilさんにも遠野さんにも、周りの人からよく礼儀正しいとか育ちが良いと言われることが意外だった。僕はそうするように当たり前のように両親から学んで来ただけなのに。でも、そう感じてもらえるのは、大切な両親のことを褒めてもらっているようで嬉しかった。
「ありがとうございました」
「うん、また会おう。本当に待っているよ。」
走り去っていく車を見送って一人エレベーターに乗って一息ついた。
ふぅ……やっと一人になれた。
まだ興奮が冷めやらない…心臓がバクバクいっている。
今日は一度にいろんなことがありすぎたせいだ。
ロッカーで向けられたカッターナイフのことを思い出すと足がカタカタと今頃になって震えてしまった。あんな剥き出しの敵意に僕は慣れていないから、強がっていたけど本当は震える程怖かったんだ。
でもSoilさんに助けてもらいプライベートな友人まで紹介してもらって、ありがたいことばかりだった。
なんだか最近……僕は僕のままなのに周りがどんどん変化していって怖い。
こんな時は無性に安志さんに会いたくなる。
安志さんの揺るがないぶれない姿に僕はいつもほっとできるから。早く部屋に入って、安志さんに電話をかけよう。会えないのならせめて声だけでも聞きたい。
そう逸る気持ちで部屋へ向かう廊下を歩いていると、後ろからポンと肩を叩かれた。
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