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第7章
影を踏む 3
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「これでよし。思ったより傷が浅くて良かったな。このシャツはもう捨てるぞ」
「ありがとうございました」
「ほら、これ貸してやるから着替えろ」
腕を消毒し薬を塗って包帯を巻いてもらった。傷は縫う程ではないが、かすったにしては少しだけ深かった。確かに着ていたシャツは振りかざされたカッターによって袖の部分がざっくりと切れて血もこびりついていたので、もう着られるものじゃなかった。
安志さんと一緒に選んだものだったので一瞬躊躇したが、こんなもの持ち帰っても心配させるだけだと思い、Soilさんのところで処分してもらうことにした。
「じゃあお言葉に甘えてお借りします」
「ふっ」
「何か」
「いや、礼儀正しいんだなって思ってさ。お前まだ十八歳だろ? まだガキなのにしっかりしてんな」
「えっそうですか」
「あぁ事務所でお前の両親も見たが、きっと大事に育てられたのだろうな」
何故かSoilさんの眼は、少し寂しそうだった。
その理由は分からないが、こうやってカメラの前に立っている姿ではなく素の姿を見せてくれると、意外な一面がどんどん見えてくるものだ。カメラの前では自信満々で男らしさが溢れ出るようなカリスマ性溢れる雰囲気なのに、素のSoilさんは少しだけ寂しそうな人だった。
なんでこんな風に思うのか、分からない。
その時インターホンが鳴った。
「来たな。待ってろ」
果たして玄関にSoilさんが迎えに行く相手は誰だろう。女性か男性か友人か恋人か……想像だけが勢いをつけていく。
早く確認したくてそっと廊下に出てみると、玄関で立ち話しをしている声が聞こえた。相手の姿はちょうどSoilさんの影になっていてよく見えないが男性だった。Soilさんの話し方がいつもよりリラックスして柔らかく聞こえたので、気を許している友人のようだと思った。
「急にどうした? 後輩って? 」
「あぁちょっと訳アリで、手当してやりたくて連れて来た」
「何かあったのか」
「まぁモデル同士の嫉妬絡みでな。俺もまぁいろいろ経験したからな」
「でもお前が人助けなんて珍しいな。いつもそんなことあっても知らん顔して通り過ぎるくせに……」
「五月蠅いな、たまにはいいだろ。可愛いがっている事務所の後輩だからついな」
「へぇお前にもそんな相手が出来たのか。それは会うのが楽しみだ」
「ったく、茶化すなよ」
えっ……可愛い後輩って僕のこと? Soilさんにそう言ってもらえるなんて嬉しいけれども緊張する。こんな風にSoilさんのプライベートな空間を見せてもらえただけでも興奮しているのに個人的な友人まで紹介してもらえるなんて。
お洒落な六本木の高層マンション。真っ白な床に真っ白な壁に、こげ茶色のモダンな家具が置かれているハイセンスな部屋を改めて見回した。
「涼、待たせたな。こいつは俺の昔からの友人だ」
「はじめまして遠野(トオノ)です。君が可愛い後輩くん?」
「あっはじめまして、僕は月乃 涼(つきの りょう)っていいます。Soilさんと同じ事務所で、今日は危ない所を助けてもらって」
現れたのはスーツにネクタイ、眼鏡をかけた地味目な会社員といった服装で、Soilさんの友人だからモデル仲間の華やかな人物を想像していたので少し意外だった。でも柔らかい笑顔が、とても感じが良かった。
じっと僕の包帯を巻いた腕を見つめて、自分のことのように痛そうな顔をした。
「そうか。その腕……痛そうだね。大変だったね。僕はこういう仕事をしているから、またどこかで関わることになるかもしれないね」
「あっはい! ありがとうございます」
差し出された名刺には、ファッション雑誌の編集部の名前が書かれていた。
「ありがとうございました」
「ほら、これ貸してやるから着替えろ」
腕を消毒し薬を塗って包帯を巻いてもらった。傷は縫う程ではないが、かすったにしては少しだけ深かった。確かに着ていたシャツは振りかざされたカッターによって袖の部分がざっくりと切れて血もこびりついていたので、もう着られるものじゃなかった。
安志さんと一緒に選んだものだったので一瞬躊躇したが、こんなもの持ち帰っても心配させるだけだと思い、Soilさんのところで処分してもらうことにした。
「じゃあお言葉に甘えてお借りします」
「ふっ」
「何か」
「いや、礼儀正しいんだなって思ってさ。お前まだ十八歳だろ? まだガキなのにしっかりしてんな」
「えっそうですか」
「あぁ事務所でお前の両親も見たが、きっと大事に育てられたのだろうな」
何故かSoilさんの眼は、少し寂しそうだった。
その理由は分からないが、こうやってカメラの前に立っている姿ではなく素の姿を見せてくれると、意外な一面がどんどん見えてくるものだ。カメラの前では自信満々で男らしさが溢れ出るようなカリスマ性溢れる雰囲気なのに、素のSoilさんは少しだけ寂しそうな人だった。
なんでこんな風に思うのか、分からない。
その時インターホンが鳴った。
「来たな。待ってろ」
果たして玄関にSoilさんが迎えに行く相手は誰だろう。女性か男性か友人か恋人か……想像だけが勢いをつけていく。
早く確認したくてそっと廊下に出てみると、玄関で立ち話しをしている声が聞こえた。相手の姿はちょうどSoilさんの影になっていてよく見えないが男性だった。Soilさんの話し方がいつもよりリラックスして柔らかく聞こえたので、気を許している友人のようだと思った。
「急にどうした? 後輩って? 」
「あぁちょっと訳アリで、手当してやりたくて連れて来た」
「何かあったのか」
「まぁモデル同士の嫉妬絡みでな。俺もまぁいろいろ経験したからな」
「でもお前が人助けなんて珍しいな。いつもそんなことあっても知らん顔して通り過ぎるくせに……」
「五月蠅いな、たまにはいいだろ。可愛いがっている事務所の後輩だからついな」
「へぇお前にもそんな相手が出来たのか。それは会うのが楽しみだ」
「ったく、茶化すなよ」
えっ……可愛い後輩って僕のこと? Soilさんにそう言ってもらえるなんて嬉しいけれども緊張する。こんな風にSoilさんのプライベートな空間を見せてもらえただけでも興奮しているのに個人的な友人まで紹介してもらえるなんて。
お洒落な六本木の高層マンション。真っ白な床に真っ白な壁に、こげ茶色のモダンな家具が置かれているハイセンスな部屋を改めて見回した。
「涼、待たせたな。こいつは俺の昔からの友人だ」
「はじめまして遠野(トオノ)です。君が可愛い後輩くん?」
「あっはじめまして、僕は月乃 涼(つきの りょう)っていいます。Soilさんと同じ事務所で、今日は危ない所を助けてもらって」
現れたのはスーツにネクタイ、眼鏡をかけた地味目な会社員といった服装で、Soilさんの友人だからモデル仲間の華やかな人物を想像していたので少し意外だった。でも柔らかい笑顔が、とても感じが良かった。
じっと僕の包帯を巻いた腕を見つめて、自分のことのように痛そうな顔をした。
「そうか。その腕……痛そうだね。大変だったね。僕はこういう仕事をしているから、またどこかで関わることになるかもしれないね」
「あっはい! ありがとうございます」
差し出された名刺には、ファッション雑誌の編集部の名前が書かれていた。
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