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第7章
鏡の世界 1
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電話の向こうの洋の声は明るかった。
「洋どうだった? 今どこだ? 」
「んっ……まだ丈の家。しばらくここに滞在することになったから、それを伝えておこうと思って。住所とかは後でメールするから」
「大丈夫か」
「あぁ丈がちゃんと紹介してくれて」
「そうか、ほっとしたよ。良かったな」
「安志ありがとう。それだけだったんだ。悪かったな。夜遅くにごめん」
「あっ洋」
「何? 」
「いや……また今度でいい」
「そう? じゃあお休み」
洋からの電話は用件のみだったが、ほっとした。実は帰国してすぐに丈さんの実家へ行くというので少し心配していた。しかも丈さんにはお兄さんが二人いて実家は寺だなんて聞いたから。特殊な環境で洋のこときちんと受け入れてもらえるのか不安だった。
でも杞憂に終わったみたいだな。洋が幸せそうな声で電話をくれたことが、何より嬉しい。洋もきっと今日はすごく気疲れしているだろうから、涼のモデルのことや雑誌掲載のこと話しすのは、やめておいた。
「安志さん、洋兄さん、なんて?」
隣で耳をそばたてていた涼が、乱れた衣類を整えながら聞いてきた。
「あぁしばらく鎌倉の丈さんの実家に滞在するそうだよ」
「わぁ……もしかして丈さんカミングアウトしたのかな。男らしいな」
「さぁそこまではまだ分からないが、洋はとても明るい声だったよ」
「そうなんだね。洋兄さん居心地がいいんだね。きっと」
「あぁそうだな」
「僕は洋兄さんが幸せにしてくれていると凄く嬉しいよ。あぁ僕も鎌倉に行ってみたいな」
「もう少し落ち着いたらな」
「じゃあ安志さん僕もうそろそろ帰るね」
「車で送ってやるよ」
今日はここまでだ。涼との時間が名残惜しいが、しょうがない。この先時間はいくらでもある。そう信じているから。
****
心配してくれていた安志に連絡をしたが、思い付きで電話をかけてから改めて時計を見て後悔した。安志はもしかして涼と過ごしていたのかも。また邪魔してしまったのではと心配になった。
「洋、もう起きていたのか? 安志くんにちゃんと電話したのか」
「あっ丈」
鎌倉の月影寺という丈の実家に着くなり、丈のお父さんとお兄さんである翠さんと流さんに紹介されて、その紹介が友人としてでなくパートーナーとしてだったので、俺はもうキャパオーバーで眩暈がして。
はぁ…情けない。
どうやってこの部屋にやってきたのか覚えていない。ふと先ほど目覚めると離れらしき和室の布団に寝かされていた。
足元が心もとなくて確かめると、いつの間にか浴衣に着替えさせられていて。俺……ちゃんと歩いて、自分で着替えられたのかも危うい。丈はさっきの洋服のままだった。
「丈? 」
「洋、浴衣も似合うな」
「あっこれ……もしかして丈が着替えさせてくれたのか」
「いや、私は浴衣のことはよく分からないから、流兄さんが着せてくれたよ」
「えっ! 」
流さんが……はっ恥ずかしい。しかも俺、何一つ覚えていないし!
「何も覚えていない……」
「あぁ洋はまた貧血起こして意識なかったからな」
「なっなんで」
「んっ? あぁ恥ずかしがることない。身内じゃないか。私もちゃんとすぐ横で見ていたし」
「いやっ……あーでも」
動揺してしどろもどろになっていると、丈に背後からぎゅっと抱きしめられた。途端に俺の薄い背中に丈の厚い胸板がぶつかって、ドキッとした。
「丈……?」
こうやって丈の頼もしい躰に抱きしめられると、すごくほっとできる。俺の動揺と緊張が和らいでいくのを見計らって、丈が耳元で低く男らしい艶めいた声で囁いた。
「洋の浴衣姿……凄く色っぽいな」
「洋どうだった? 今どこだ? 」
「んっ……まだ丈の家。しばらくここに滞在することになったから、それを伝えておこうと思って。住所とかは後でメールするから」
「大丈夫か」
「あぁ丈がちゃんと紹介してくれて」
「そうか、ほっとしたよ。良かったな」
「安志ありがとう。それだけだったんだ。悪かったな。夜遅くにごめん」
「あっ洋」
「何? 」
「いや……また今度でいい」
「そう? じゃあお休み」
洋からの電話は用件のみだったが、ほっとした。実は帰国してすぐに丈さんの実家へ行くというので少し心配していた。しかも丈さんにはお兄さんが二人いて実家は寺だなんて聞いたから。特殊な環境で洋のこときちんと受け入れてもらえるのか不安だった。
でも杞憂に終わったみたいだな。洋が幸せそうな声で電話をくれたことが、何より嬉しい。洋もきっと今日はすごく気疲れしているだろうから、涼のモデルのことや雑誌掲載のこと話しすのは、やめておいた。
「安志さん、洋兄さん、なんて?」
隣で耳をそばたてていた涼が、乱れた衣類を整えながら聞いてきた。
「あぁしばらく鎌倉の丈さんの実家に滞在するそうだよ」
「わぁ……もしかして丈さんカミングアウトしたのかな。男らしいな」
「さぁそこまではまだ分からないが、洋はとても明るい声だったよ」
「そうなんだね。洋兄さん居心地がいいんだね。きっと」
「あぁそうだな」
「僕は洋兄さんが幸せにしてくれていると凄く嬉しいよ。あぁ僕も鎌倉に行ってみたいな」
「もう少し落ち着いたらな」
「じゃあ安志さん僕もうそろそろ帰るね」
「車で送ってやるよ」
今日はここまでだ。涼との時間が名残惜しいが、しょうがない。この先時間はいくらでもある。そう信じているから。
****
心配してくれていた安志に連絡をしたが、思い付きで電話をかけてから改めて時計を見て後悔した。安志はもしかして涼と過ごしていたのかも。また邪魔してしまったのではと心配になった。
「洋、もう起きていたのか? 安志くんにちゃんと電話したのか」
「あっ丈」
鎌倉の月影寺という丈の実家に着くなり、丈のお父さんとお兄さんである翠さんと流さんに紹介されて、その紹介が友人としてでなくパートーナーとしてだったので、俺はもうキャパオーバーで眩暈がして。
はぁ…情けない。
どうやってこの部屋にやってきたのか覚えていない。ふと先ほど目覚めると離れらしき和室の布団に寝かされていた。
足元が心もとなくて確かめると、いつの間にか浴衣に着替えさせられていて。俺……ちゃんと歩いて、自分で着替えられたのかも危うい。丈はさっきの洋服のままだった。
「丈? 」
「洋、浴衣も似合うな」
「あっこれ……もしかして丈が着替えさせてくれたのか」
「いや、私は浴衣のことはよく分からないから、流兄さんが着せてくれたよ」
「えっ! 」
流さんが……はっ恥ずかしい。しかも俺、何一つ覚えていないし!
「何も覚えていない……」
「あぁ洋はまた貧血起こして意識なかったからな」
「なっなんで」
「んっ? あぁ恥ずかしがることない。身内じゃないか。私もちゃんとすぐ横で見ていたし」
「いやっ……あーでも」
動揺してしどろもどろになっていると、丈に背後からぎゅっと抱きしめられた。途端に俺の薄い背中に丈の厚い胸板がぶつかって、ドキッとした。
「丈……?」
こうやって丈の頼もしい躰に抱きしめられると、すごくほっとできる。俺の動揺と緊張が和らいでいくのを見計らって、丈が耳元で低く男らしい艶めいた声で囁いた。
「洋の浴衣姿……凄く色っぽいな」
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