重なる月

志生帆 海

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第7章 

戸惑い 5

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 講義終了のチャイムが鳴った途端に、僕はノートや教科書を鞄に放り込んで帰り支度を始めた。

「なぁ月乃、この後暇か。飯でも食いに行こうぜ」

 隣に座っていた山岡が気軽に誘ってくれるが、今日はどうしても駄目なんだ。

「悪い、約束あって」
「なんだよ~相変わらず付き合い悪いな。もしかしてデートとか?」
「そんなんじゃないけど……」
「ったく、秘密主義だな~」

 秘密。その言葉にぎくりとしてしまう。確かにそうかもしれない。僕には誰にも言えない秘密が最近増えている。

 洋兄さんもこんな風に秘密を抱えているのかな。丈さんの家に行くって話していたれども、あれからどうしたかな。洋兄さんの緊張ぶりがすごかったから心配だ。何度も何度も着替えて鏡を見て……挨拶に行くのにおかしくないかって何度も聞いて来て、可愛い位だった。

「おいっ聞いているのか」
「あっごめん。明日は空いているから付き合うよ」
「おっそうか。じゃあそうしよう」

 やっと山岡が解放してくれたので、ほっとした。

 図書館に寄ったりして時間調整してから横浜まで来た。まだ待ち合わせまで少し時間があったのでショッピングモールをぶらぶらと歩いてみた。それにしても、さっきからなんとなく通りすがる人の視線を感じるのは気のせいだろうか。チラチラっと見ては何か囁きあっているので決まりが悪い。

 僕……どこか変な恰好をしているのか。それとも何か顔についている?
 心配になって店内の鏡をじっと見つめていると、店員さんに声を掛けられた。

「あの……お客様もしかして」
「えっ?」
「昨日発売の ※Luce(ルーチェ)という雑誌に載っていましたよね」

※ルーチェ…イタリア語で光の意味

「えっ? なんで……」
「わぁやっぱり!!そっくりだと思いました。凄く素敵で話題になっていて。実物はもっと綺麗なんですね! あの~新人モデルさんなんですよね。私、応援しています!」
「あっありがとうございます…」

 ドギマギしてしまった。雑誌の威力ってすごい。それについ勢いに押されて、お礼を言ってしまった。人違いだとでも答えればよかったのに失敗した。

 途端に店内にいた人が一斉に振り向いたような気がして、ギクシャクとその場から去り、マフラーを深く巻き顔を埋めて外に出た。
 
 ふぅ……外の方が気持ちがいい。

 ある程度覚悟していたけれども、この先大丈夫かと不安が過る。

 そうだ、待ち合わせ場所決めていなかった。ファッションビルの中は視線が気になるので外がいい。そう思って安志さん宛にメールをした。

(安志さん、待ち合わせ場所はグランモール公園のケヤキ並木の前にしよう。19時に待っているね)
(了解! 仕事頑張って終わらせて行くよ、外は寒いから中でもいいのに……風邪ひくなよ)

 すぐに返事が来た。安志さんらしい温かい言葉にほっとした。いつも僕のこと心配してくれ、本当に優しくて頼もしい人なんだ。

 コートのボタンをしっかり留めて、マフラーに顔を埋めながら、グランモール公園のケヤキ並木の前に来ると、ブルー、シャンパンゴールド、ホワイトの3 色のイルミネーションが、公園を色鮮やかに照らしていた。

 そこを歩くと、まるで冬の星空の光に包まれながら散歩を楽しんでるようだ。次第に行き交う人達が仲良さそうに手を繋いだり肩を組んだりしているのが、羨ましくなってくる。

 こんな時は無性に、僕は……安志さんが恋しくなって来ていると実感してしまう。でももう19時だからもう少しで会える。そう思うと気分が高揚してくる!

 暫くそんな光景をボンヤリと見ているとみ、背後からポンッと肩を叩かれた。

「安志さん?」

 笑顔で振り向くと……

「えっ安志さんって誰? 」
「えっ? なんで」

 そこにはさっき大学で別れたはずの山岡が立っていた。少し困ったように不思議そうな顔でじっと見つめられて、返答に窮してしまった。


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