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第7章
戸惑い 2
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魅惑的で艶めいたSoilさんの端正な顔がじりじりと近づいてくる。そして一歩退いた俺の両肩をSoilさんの男らしい長い指先がぎゅっと掴んできた。
何……うわぁっ、近い!
ま……まさか、キスされるのか……
近すぎるSoilさんの顔をまともに見ることが出来なくて、慌てて目をぎゅっと瞑ったら、頭上でクスッと笑い声が聴こえた。
「えっ」
視線を上にあげると、Soilさんがその端正な顔を大きく崩して笑っていた。
「くくっ涼って揶揄い甲斐があるな。目を瞑ったりして可愛い」
「なっ」
「もしかして、キスして欲しかったのか」
途端にポンッと火が付いたように羞恥で顔が染まる。
「ちっ違う!」
「涼は帰国子女だから、この位日常茶飯事だろ」
油断した隙にSoilさんの指先が俺の前髪に触れたかと思うと髪を掻き分けられ額にキスを落とされた。
チュっと音が立つような軽いキスだった。
「なっな……なんで!?」
「だから挨拶だよ。涼は凄く好みの顔だが、まだまだお子様だなぁ」
「もう子供じゃないっ」
ついムキになって言い返してしまった。
「だってまだ十代だろ?」
「それはそうだけど……もう十八歳だし、Soilさんだって大して変わらないですよね」
Soilさんはそういえば何歳だろう?落ち着いた男らしさを醸し出しているが凄く若々しい部分もあるし、実は年齢不詳だった。
「俺? 俺はもう二十七歳だよ」
「えっそんなに上? 」
「ははっ見えないか」
ブンブンと頭を縦に振ってしまった。意外だな。二十三~四歳かと思っていたのに、十歳近くも上だなんて。あっ……ということは……安志さんと同い年なんだ。そう思うと少し親近感が沸いた。
「さぁもう帰れよ。お子様は。狼に襲われないように夜道に気をつけろよ」
「大丈夫です! 僕こう見えても強いですからっ」
揶揄われてばかりで、なんだかむっとくる。
僕はバタンとスタジオのドアを閉めて帰宅した。
まったく安志さんはもっと優しくて温かいのに。あんな風に僕のことを揶揄ったりしないのに……夜風が額を撫でると、ふとSoilさんからおでこにされたキスを思い出してしまった。
気にしなくてもいい。あれは冗談だろう。確かに向こうにいる時そういうスキンシップもたまにあったし。それに安志さんが知ったら嫌な気分になるから忘れよう。
今日は明日帰国する両親とレストランで食事をするため、安志さんに会えないのが少し寂しい。昨日も会えなかったし……僕は駄目だな。一日だって会えない日があると、こんな風にじめっとした気分なってしまう。
でもスマホに、安志さんの表示を見つけてほっとした。
『涼、お疲れ様。昨日今日と俺も仕事が立て込んでいて残業だ。涼もご両親とゆっくり過ごしてくれ。また明日な』
『安志さん、無事に契約が終わったよ。今日は両親と食事に行ってくる。明日は大学だけだから、その後すごく会いたい』
すごく会いたい。その気持ちを込めて送信ボタンを押した。
届くかな、僕の気持ち。
****
「涼、私達明日には帰国するけれども、本当に大丈夫なの」
「もう母さんは心配性だな。うん、洋兄さんも近くにいるし大丈夫」
「そうね。こちらに他に頼れる親戚がいないから洋くんが頼りよね。でも洋くん涼よりずっと華奢だし……大丈夫かしら。ずっと一人で暮らしているのよね」
「あっ洋兄さんのことなら、心配しないでいいよ。ちゃんと付き合っている人もいるし」
「まぁそうなの? そうよね。もう洋くんも年頃だものね。どんな人かしらお相手は」
「さぁ詳しくは聞いていないよ」
うっかり口が滑ったが、これ以上勝手なことは言えない。洋兄さんと丈さんに迷惑がかかるようなことがないようにしないと。
「そういえば涼はどうなの? 彼女とか出来たの? 」
「えっ!」
いきなりふられると思っていなくて、妙に上擦った大きな声が出てしまった。
「あらそんなに驚いて、さては」
「違うよ! まだ大学だって始まったばかりだし」
安志さんごめん。僕まだ両親に話すほどの勇気がなくて……ただでさえモデルを始めることで心配をかけているから。後ろめたい気分で手をぎゅっと握りしめて俯いていると、母さんは勝手なことばかり言ってくる。
「そう? そういえばあなた高校でも結局ステディな彼女が出来なかったわね。おかしいわね。こんなに可愛いのに全然モテないのかしら? 」
「母さん!」
「ふふっ、いい人が出来たらちゃんと紹介してね。楽しみにしているわ」
「うん必ず」
今度はちゃんと話そう。
今じゃないけれども、必ず話すよ。
安志さんの温かい素朴な笑顔を思い出すと、熱いものが込み上げてくる。
何……うわぁっ、近い!
ま……まさか、キスされるのか……
近すぎるSoilさんの顔をまともに見ることが出来なくて、慌てて目をぎゅっと瞑ったら、頭上でクスッと笑い声が聴こえた。
「えっ」
視線を上にあげると、Soilさんがその端正な顔を大きく崩して笑っていた。
「くくっ涼って揶揄い甲斐があるな。目を瞑ったりして可愛い」
「なっ」
「もしかして、キスして欲しかったのか」
途端にポンッと火が付いたように羞恥で顔が染まる。
「ちっ違う!」
「涼は帰国子女だから、この位日常茶飯事だろ」
油断した隙にSoilさんの指先が俺の前髪に触れたかと思うと髪を掻き分けられ額にキスを落とされた。
チュっと音が立つような軽いキスだった。
「なっな……なんで!?」
「だから挨拶だよ。涼は凄く好みの顔だが、まだまだお子様だなぁ」
「もう子供じゃないっ」
ついムキになって言い返してしまった。
「だってまだ十代だろ?」
「それはそうだけど……もう十八歳だし、Soilさんだって大して変わらないですよね」
Soilさんはそういえば何歳だろう?落ち着いた男らしさを醸し出しているが凄く若々しい部分もあるし、実は年齢不詳だった。
「俺? 俺はもう二十七歳だよ」
「えっそんなに上? 」
「ははっ見えないか」
ブンブンと頭を縦に振ってしまった。意外だな。二十三~四歳かと思っていたのに、十歳近くも上だなんて。あっ……ということは……安志さんと同い年なんだ。そう思うと少し親近感が沸いた。
「さぁもう帰れよ。お子様は。狼に襲われないように夜道に気をつけろよ」
「大丈夫です! 僕こう見えても強いですからっ」
揶揄われてばかりで、なんだかむっとくる。
僕はバタンとスタジオのドアを閉めて帰宅した。
まったく安志さんはもっと優しくて温かいのに。あんな風に僕のことを揶揄ったりしないのに……夜風が額を撫でると、ふとSoilさんからおでこにされたキスを思い出してしまった。
気にしなくてもいい。あれは冗談だろう。確かに向こうにいる時そういうスキンシップもたまにあったし。それに安志さんが知ったら嫌な気分になるから忘れよう。
今日は明日帰国する両親とレストランで食事をするため、安志さんに会えないのが少し寂しい。昨日も会えなかったし……僕は駄目だな。一日だって会えない日があると、こんな風にじめっとした気分なってしまう。
でもスマホに、安志さんの表示を見つけてほっとした。
『涼、お疲れ様。昨日今日と俺も仕事が立て込んでいて残業だ。涼もご両親とゆっくり過ごしてくれ。また明日な』
『安志さん、無事に契約が終わったよ。今日は両親と食事に行ってくる。明日は大学だけだから、その後すごく会いたい』
すごく会いたい。その気持ちを込めて送信ボタンを押した。
届くかな、僕の気持ち。
****
「涼、私達明日には帰国するけれども、本当に大丈夫なの」
「もう母さんは心配性だな。うん、洋兄さんも近くにいるし大丈夫」
「そうね。こちらに他に頼れる親戚がいないから洋くんが頼りよね。でも洋くん涼よりずっと華奢だし……大丈夫かしら。ずっと一人で暮らしているのよね」
「あっ洋兄さんのことなら、心配しないでいいよ。ちゃんと付き合っている人もいるし」
「まぁそうなの? そうよね。もう洋くんも年頃だものね。どんな人かしらお相手は」
「さぁ詳しくは聞いていないよ」
うっかり口が滑ったが、これ以上勝手なことは言えない。洋兄さんと丈さんに迷惑がかかるようなことがないようにしないと。
「そういえば涼はどうなの? 彼女とか出来たの? 」
「えっ!」
いきなりふられると思っていなくて、妙に上擦った大きな声が出てしまった。
「あらそんなに驚いて、さては」
「違うよ! まだ大学だって始まったばかりだし」
安志さんごめん。僕まだ両親に話すほどの勇気がなくて……ただでさえモデルを始めることで心配をかけているから。後ろめたい気分で手をぎゅっと握りしめて俯いていると、母さんは勝手なことばかり言ってくる。
「そう? そういえばあなた高校でも結局ステディな彼女が出来なかったわね。おかしいわね。こんなに可愛いのに全然モテないのかしら? 」
「母さん!」
「ふふっ、いい人が出来たらちゃんと紹介してね。楽しみにしているわ」
「うん必ず」
今度はちゃんと話そう。
今じゃないけれども、必ず話すよ。
安志さんの温かい素朴な笑顔を思い出すと、熱いものが込み上げてくる。
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