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第7章
来訪 3
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「洋兄さん、ごめんっ。僕が昨日話しそびれていて、ちゃんと報告させて」
涼の両親とお互いのことを喋っていると、明日モデル事務所に契約を交わしに行くことが分かった。モデルってなんのことか分からなくて怪訝な浮かべると、涼が一冊のファッション誌を、ためらいがちに机の上に置いた。
「これは?」
「んっ、ここを見て……」
付箋がついているページを開いて見て驚いた。そこには太陽の光を思いっきり浴びながら、カジュアルな服装でバスケをしている少年がページ全体に大きく載っていた。
まるで背中に羽が生えているかのように軽やかにジャンプしていて、シャツの裾がふわっと捲れあがっているので躍動感がある。スタイルの良さが引き立つ細身のジーンズが、その少年を豹のようにしなやかに見せていた。その顔はどうみても俺にそっくりで、でももっと明るく快活で……少年は涼だった。
「えっこれって涼だよな。いつの間に? 」
「えっと……実は前に水族館に行ったとき、急にモデルが急病で急遽代役を頼まれて……それが縁で」
恥ずかしそうに頬を染めた涼が次のページを捲ると、今度は可愛い女の子と涼が水族館でイルカのショーを見ている写真が載っていた。デート特集なんだろうか、これって。
「わぁ。凄いな。本当にモデルなのか」
「洋兄さんにそう言われるとすごく恥ずかしい。ありがとう。この雑誌は明後日発売になるよ」
「そうなんだ。はぁ……驚いたよ」
そもそも涼のモデルデビューの話なんて俺はまだ聞いてなかったので、驚いてしまった。
そんな俺たちの様子を、叔父も伯母もニコニコと微笑みながら見守ってくれていた。
「二人並ぶと本当に双子みたいね」
「そうだな、洋くんは涼より十歳も年上には見えないな、随分と若く見える」
「えっ俺はもうすぐ三十ですよ。もう二十七歳ですから」
「全然見えないわ。あっそうだ、それでね、洋くんに頼みがあるの」
伯母が思い出したように改まった声を出した。
「なんでしょうか」
「あのね、私たちはニューヨークを拠点に暮らしているので、日本にそう頻繁には帰国できないのよ。それで、うちの涼のことなんだけどね。モデルになることは、最初は猛反対したのよ。でも自分に自信が持ちたいって熱心に電話で説得されて……」
「凄く心配な気持ちわかります」
こんな可愛い涼がモデルなんて、不特定多数の人に見られることをして大丈夫だろうか。安志はきっとやきもきしているんだろうな。
「こんなこと急に頼んでもいいのかしら。やっぱり今更……虫が良すぎるわよね」
「伯母さん、あの……俺で役に立てることがあったら遠慮なく言ってください」
本心だ。俺にとって母方の伯母。母の双子の姉になる人。母にそっくりなその人の頼みを聞けないはずないじゃないか。俺だって何か役に立ちたい。
「そう言ってもらえると助かるわ。あのね洋くん、おこがましいお願いになるのだけれども涼の日本での保護者代わりになってもらえないかしら。何かあった時の緊急連絡先は、あなたの名前を書いてもいいかしら?」
「洋くん、私からも頼むよ。あの子はまだ未成年だし、まだまだ子供なんだ。君なら是非お願いしたい」
そんなこと……叔父と伯母から提案されたことは夢のようだった。俺にはもう肉親と呼べる人はいないとずっと思っていたから。涼に会えただけでも奇跡的なのに、こんな風に頼ってもらえるなんて本当に嬉しかった。心が温まるとはこのことを言うのだ。躰が心底からぽかぽかとしてきた。
「あっはい。俺でよければ、ぜひやらせて下さい。その……嬉しいです。俺なんかを頼りにしてもらえて」
「洋くんだからよ。ずっと一人で頑張って生きて来た洋くんになら、任せられるわ。ありがとう。頼りにしてるわ」
伯母がふわっと俺を抱きしめてくれたので、ものすごく恥ずかしい気分になった。
「母さん~それ駄目だって。もうっアメリカかぶれしてんだ。洋兄さんが照れちゃって真っ赤だよ。それとも母さん若くて綺麗な洋兄さんのことを気に入っちゃった? 」
「こらっ涼っ、あなたたち同じ顔して何言っているの? いらっしゃい。涼もハグしてあげるわっ」
そう言いながら、伯母はもう片方の手で涼を引き寄せた。泣いてしまいそうだ。こんな温もり……もうすっかり忘れていた。
「わー降参だ。母さんの腕力強すぎっ」
「こらこら朝さん、洋くんが驚いているよ。まったくあなたはいい歳して」
温かい。涼の家族はみんな陽だまりみたいに良い人たちだ。
じんわり
ほんわり
ぽかぽか
胸の奥で、心が明るく軽く弾む音がした。この嬉しい気持ちを、早く丈に伝えたい。きっと喜んでくれるだろう。俺は丈のことが少しだけ恋しくなってきた。
寂しいのではなく嬉しい気持ちを早く届けたくて知らせたくて……会いたいんだ。
本当に日本に帰って来て本当に良かった。
帰国してから、幸先よいことばかり起きている。周りから注いでもらえる愛情を、俺は素直に心地良く受け止めた。
「ありがとうございます」
涼の両親とお互いのことを喋っていると、明日モデル事務所に契約を交わしに行くことが分かった。モデルってなんのことか分からなくて怪訝な浮かべると、涼が一冊のファッション誌を、ためらいがちに机の上に置いた。
「これは?」
「んっ、ここを見て……」
付箋がついているページを開いて見て驚いた。そこには太陽の光を思いっきり浴びながら、カジュアルな服装でバスケをしている少年がページ全体に大きく載っていた。
まるで背中に羽が生えているかのように軽やかにジャンプしていて、シャツの裾がふわっと捲れあがっているので躍動感がある。スタイルの良さが引き立つ細身のジーンズが、その少年を豹のようにしなやかに見せていた。その顔はどうみても俺にそっくりで、でももっと明るく快活で……少年は涼だった。
「えっこれって涼だよな。いつの間に? 」
「えっと……実は前に水族館に行ったとき、急にモデルが急病で急遽代役を頼まれて……それが縁で」
恥ずかしそうに頬を染めた涼が次のページを捲ると、今度は可愛い女の子と涼が水族館でイルカのショーを見ている写真が載っていた。デート特集なんだろうか、これって。
「わぁ。凄いな。本当にモデルなのか」
「洋兄さんにそう言われるとすごく恥ずかしい。ありがとう。この雑誌は明後日発売になるよ」
「そうなんだ。はぁ……驚いたよ」
そもそも涼のモデルデビューの話なんて俺はまだ聞いてなかったので、驚いてしまった。
そんな俺たちの様子を、叔父も伯母もニコニコと微笑みながら見守ってくれていた。
「二人並ぶと本当に双子みたいね」
「そうだな、洋くんは涼より十歳も年上には見えないな、随分と若く見える」
「えっ俺はもうすぐ三十ですよ。もう二十七歳ですから」
「全然見えないわ。あっそうだ、それでね、洋くんに頼みがあるの」
伯母が思い出したように改まった声を出した。
「なんでしょうか」
「あのね、私たちはニューヨークを拠点に暮らしているので、日本にそう頻繁には帰国できないのよ。それで、うちの涼のことなんだけどね。モデルになることは、最初は猛反対したのよ。でも自分に自信が持ちたいって熱心に電話で説得されて……」
「凄く心配な気持ちわかります」
こんな可愛い涼がモデルなんて、不特定多数の人に見られることをして大丈夫だろうか。安志はきっとやきもきしているんだろうな。
「こんなこと急に頼んでもいいのかしら。やっぱり今更……虫が良すぎるわよね」
「伯母さん、あの……俺で役に立てることがあったら遠慮なく言ってください」
本心だ。俺にとって母方の伯母。母の双子の姉になる人。母にそっくりなその人の頼みを聞けないはずないじゃないか。俺だって何か役に立ちたい。
「そう言ってもらえると助かるわ。あのね洋くん、おこがましいお願いになるのだけれども涼の日本での保護者代わりになってもらえないかしら。何かあった時の緊急連絡先は、あなたの名前を書いてもいいかしら?」
「洋くん、私からも頼むよ。あの子はまだ未成年だし、まだまだ子供なんだ。君なら是非お願いしたい」
そんなこと……叔父と伯母から提案されたことは夢のようだった。俺にはもう肉親と呼べる人はいないとずっと思っていたから。涼に会えただけでも奇跡的なのに、こんな風に頼ってもらえるなんて本当に嬉しかった。心が温まるとはこのことを言うのだ。躰が心底からぽかぽかとしてきた。
「あっはい。俺でよければ、ぜひやらせて下さい。その……嬉しいです。俺なんかを頼りにしてもらえて」
「洋くんだからよ。ずっと一人で頑張って生きて来た洋くんになら、任せられるわ。ありがとう。頼りにしてるわ」
伯母がふわっと俺を抱きしめてくれたので、ものすごく恥ずかしい気分になった。
「母さん~それ駄目だって。もうっアメリカかぶれしてんだ。洋兄さんが照れちゃって真っ赤だよ。それとも母さん若くて綺麗な洋兄さんのことを気に入っちゃった? 」
「こらっ涼っ、あなたたち同じ顔して何言っているの? いらっしゃい。涼もハグしてあげるわっ」
そう言いながら、伯母はもう片方の手で涼を引き寄せた。泣いてしまいそうだ。こんな温もり……もうすっかり忘れていた。
「わー降参だ。母さんの腕力強すぎっ」
「こらこら朝さん、洋くんが驚いているよ。まったくあなたはいい歳して」
温かい。涼の家族はみんな陽だまりみたいに良い人たちだ。
じんわり
ほんわり
ぽかぽか
胸の奥で、心が明るく軽く弾む音がした。この嬉しい気持ちを、早く丈に伝えたい。きっと喜んでくれるだろう。俺は丈のことが少しだけ恋しくなってきた。
寂しいのではなく嬉しい気持ちを早く届けたくて知らせたくて……会いたいんだ。
本当に日本に帰って来て本当に良かった。
帰国してから、幸先よいことばかり起きている。周りから注いでもらえる愛情を、俺は素直に心地良く受け止めた。
「ありがとうございます」
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