365 / 1,657
第7章
来訪 1
しおりを挟む
翌朝、思い切って鎌倉の家へ電話してみた。こうやって改まって電話するのは何年振りだろうか。ソウルで医師をやっていることを伝えったきりかもしれない。
たまに二人の兄からメールが入って、家の様子は一方的に知らされてはいたが、自分から連絡を取るようなことは一切していなかった。
私は三兄弟の中でも、上の二人の兄のように社交的ではなく内向的で人付き合いが苦手だったので、家族の中でもいつも浮いていた。幼い頃はそんな性格の私を心配して父がよく仕事のついでに海外に連れて行ってくれたものだ。
「はい月影寺です」
「もしもし。あ……流(りゅう)兄さん、私です」
「えっ……お前、丈なのか! まったく音沙汰なしで、今までどこをほっつき歩いていたんだ」
「すいません。あの……皆さんはお元気ですか」
「あぁ母さんはまた伊豆の別荘に行っているが、みんな元気だ。お前今どこにいる? まだソウルなのか」
「いえ……日本に戻って来ています」
「何? そうか。おっ! もしかしてこっちに帰って来る気になったのか」
「いえ……そういうわけではなく……でも今からそちらへ行ってもいいですか。出来たら少し滞在したいのですが」
「へぇ珍しいこと言うな。もちろんいいぞ。んっ……それってもしかして」
「友人を一緒に連れて行きますので、部屋をお願いします」
「おっお前に友人? なんだそれ、そんなことすんの初めてじゃないか。もしかして彼女か」
「……男ですが」
「そうか。まぁそうだよな。うーん、とにかく待っているから、父さんたちにも伝えておくからな」
「ありがとうございます」
真ん中の兄は、電話越しにもかなり驚いているようだった。そんな様子に苦笑してしまった。まぁ無理もない。確かに私には友人らしい友人もいなかったし、まして家に誰かを連れて行ったことなんて一度もないからな。
****
「洋兄さん、もう起きないと。洋兄さんってば」
ゆさゆさと甘い声と共に肩を揺さぶられてようやく目が覚めた。一瞬自分が何処にいるのか分からなかったが、すぐに俺のことを覗き込んでくる涼の明るい笑顔に、一気に温かい気持ちになった。
「あっ涼、おはよう!随分早起きだね」
「くすっ洋兄さんぐっすり眠っていたね。もう九時過ぎだよ」
「えっもうそんな時間? 」
「僕さ、少しジョギングしてきてもいい?」
「分かった。じゃあその間にシャワーを浴びて、朝食作って置いてあげるよ、何かある?」
「本当? 洋兄さんの手料理嬉しいな。冷蔵庫のもの適当に使ってね。じゃあ三十分くらいで戻るからよろしくね」
ジョギングに行くつもりだったようで既にスポーツウェアに着替えていた涼は、黒いキャップを被り軽快に出かけていった。
その軽い足取りと後姿が眩しくて目を細めて見送った。
涼はやっぱりまだ十代だし、若いな。俺は運動はいまいちだが、涼は運動神経も良さそうなだもんな。そうえいば安志も中学高校と野球をやっていて、よく応援に行ったのが懐かしい。
安志も涼も運動好き同士、気が合うだろう。二人のデートの様子を想像すると顔がにやついてしまう。
それにしても随分と寝坊してしまった。涼の隣で寝るなんて初めてで照れ臭かったけれども嬉しかった。身内っていいものだな。一晩中、丈とはまた違う安心感に包まれていた。
「あっそうだ! 丈に連絡しないと……」
慌ててシャワーを浴びて着替えてから、丈に連絡を取ろうとソファに腰を下ろした途端に玄関のインターホンが鳴った。
「涼! 早かったな」
そう言いながら玄関を開けると……
「えっ」
「あっ!」
そこに立っていたのは意外な人物だった。
たまに二人の兄からメールが入って、家の様子は一方的に知らされてはいたが、自分から連絡を取るようなことは一切していなかった。
私は三兄弟の中でも、上の二人の兄のように社交的ではなく内向的で人付き合いが苦手だったので、家族の中でもいつも浮いていた。幼い頃はそんな性格の私を心配して父がよく仕事のついでに海外に連れて行ってくれたものだ。
「はい月影寺です」
「もしもし。あ……流(りゅう)兄さん、私です」
「えっ……お前、丈なのか! まったく音沙汰なしで、今までどこをほっつき歩いていたんだ」
「すいません。あの……皆さんはお元気ですか」
「あぁ母さんはまた伊豆の別荘に行っているが、みんな元気だ。お前今どこにいる? まだソウルなのか」
「いえ……日本に戻って来ています」
「何? そうか。おっ! もしかしてこっちに帰って来る気になったのか」
「いえ……そういうわけではなく……でも今からそちらへ行ってもいいですか。出来たら少し滞在したいのですが」
「へぇ珍しいこと言うな。もちろんいいぞ。んっ……それってもしかして」
「友人を一緒に連れて行きますので、部屋をお願いします」
「おっお前に友人? なんだそれ、そんなことすんの初めてじゃないか。もしかして彼女か」
「……男ですが」
「そうか。まぁそうだよな。うーん、とにかく待っているから、父さんたちにも伝えておくからな」
「ありがとうございます」
真ん中の兄は、電話越しにもかなり驚いているようだった。そんな様子に苦笑してしまった。まぁ無理もない。確かに私には友人らしい友人もいなかったし、まして家に誰かを連れて行ったことなんて一度もないからな。
****
「洋兄さん、もう起きないと。洋兄さんってば」
ゆさゆさと甘い声と共に肩を揺さぶられてようやく目が覚めた。一瞬自分が何処にいるのか分からなかったが、すぐに俺のことを覗き込んでくる涼の明るい笑顔に、一気に温かい気持ちになった。
「あっ涼、おはよう!随分早起きだね」
「くすっ洋兄さんぐっすり眠っていたね。もう九時過ぎだよ」
「えっもうそんな時間? 」
「僕さ、少しジョギングしてきてもいい?」
「分かった。じゃあその間にシャワーを浴びて、朝食作って置いてあげるよ、何かある?」
「本当? 洋兄さんの手料理嬉しいな。冷蔵庫のもの適当に使ってね。じゃあ三十分くらいで戻るからよろしくね」
ジョギングに行くつもりだったようで既にスポーツウェアに着替えていた涼は、黒いキャップを被り軽快に出かけていった。
その軽い足取りと後姿が眩しくて目を細めて見送った。
涼はやっぱりまだ十代だし、若いな。俺は運動はいまいちだが、涼は運動神経も良さそうなだもんな。そうえいば安志も中学高校と野球をやっていて、よく応援に行ったのが懐かしい。
安志も涼も運動好き同士、気が合うだろう。二人のデートの様子を想像すると顔がにやついてしまう。
それにしても随分と寝坊してしまった。涼の隣で寝るなんて初めてで照れ臭かったけれども嬉しかった。身内っていいものだな。一晩中、丈とはまた違う安心感に包まれていた。
「あっそうだ! 丈に連絡しないと……」
慌ててシャワーを浴びて着替えてから、丈に連絡を取ろうとソファに腰を下ろした途端に玄関のインターホンが鳴った。
「涼! 早かったな」
そう言いながら玄関を開けると……
「えっ」
「あっ!」
そこに立っていたのは意外な人物だった。
10
お気に入りに追加
445
あなたにおすすめの小説



好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる