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第7章
期待と不安 6
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「涼……ごめん。本当はあの時……俺もあの家にいたんだ」
「そうか、やっぱりそうだったんだね。ねぇ洋兄さんに聞いてもいいかな。どうしてあんなにタイミング良く駆けつけることが出来たの? なんだか都合良すぎない?」
「……それは……涼……君になんて話していいか……俺はまだその覚悟が出来ていない。ただ偶然じゃない。俺は涼を助けたくてソウルからアメリカに向かったんだ」
とうとう涼に聞かれてしまった。だが俺は涼には話せない。あの場所にいた人が俺の義父で、俺はあの人に犯されたなんてことは。
輝くような美しさを放つ涼には、知らなくていい汚れた世界の話だ。
押し黙っていると、涼がふっと微笑んで俺を安心させるかのように逆に抱きしめてくれた。
「涼……? 」
君は十歳も年下のくせに、たまに驚くほど大人びたことをするな。涼なりに俺のことを守ろうとしていることがじんわりと伝わって来て心が温まる。本当に思い切って日本に戻って来てよかった。
「洋兄さんごめん、僕……しつこく聞いて、もういいんだ。ただ、素直にありがとうって言いたい。僕を助けてくれたのは丈さんと洋兄さんだったんだね。それがちゃんと分かってよかった」
「涼……全部話せなくてごめんな。でもこれだけは分かって欲しい。俺は今とても幸せだってこと。だからもう大丈夫だ。お前は変な心配しなくても大丈夫だから」
「分かった、洋兄さん、じゃあ今日は一緒に寝てもいい? 」
「えっ一緒にベッドで? 」
「うん。僕、お兄さんが欲しかったんだ。小さいころからずっと」
全く……可愛い涼にねだられたら嫌とは言えないな。安志もいつもこんな調子で、涼にねだられて鼻の下伸ばしているんじゃないかって思うと楽しい気分になった。ちょっとくすぐったく恥ずかしい気持ちだったが、そのまま一緒にベッドに入った。
「流石にちょっと狭いかな。ごめんね涼」
「ううん……洋兄さん細いから大丈夫だ」
「そう? なぁ涼……俺もずっと兄弟が欲しかったよ。涼は従兄弟だけど俺の弟みたいだよ。もう……」
父が亡くなって母も亡くなり肉親が一人もいなくなったと思っていたのに、こんなに温かい優しい弟みたいな従兄弟と巡り会えるなんて、あの時は夢にも思わなかった。
「洋兄さんは……僕が守る……」
まどろみながら、涼が囁いてくれた。
ありがとう。涼、君がいてくれて救われているよ。今日は俺もぐっすり眠れそうだ。
****
お風呂上がりの丈さんに缶ビールを渡した。なんか意外な組み合わせの二人で、緊張してしまうもんだな。お互い躰が大きいので妙に俺の部屋が狭く感じるぞ。
「あぁ、ありがとう」
「うーむ、なんか面と向かって、照れますね」
「ははっそうだね。安志くんには洋がいろいろお世話になって、今日は私まで泊めてもらって悪かったね」
「いやいや、こっちこそ涼がアメリカでお世話になってって、あーこんな会話変ですよねっ、普通にしゃべってもいいですか?」
「あぁもちろんだ」
畏まっているのも疲れるので、思い切って提案した。
俺達よりも丈さんはずっと年上だし、医師という仕事柄なのか冷静沈着だから余計に緊張するもんだ。でも、これはこれでなんだか頼りになる兄貴を持ったような気分だ。
「ところで、この後日本でどうするか決めているのか」
「あぁそうだな、明日……洋を私の実家に連れて行こうと思っている」
「えっ丈さんの実家に? 大丈夫なのか、それ」
「私自身もう五年以上帰っていないので分からないが、とにかく洋を連れて一度顔を出したいと思っている」
「へぇ……」
意外なことを告げられて驚いたが、洋にはもうあの義父しかいないから、丈さんの世界に触れていくのは、いい事なのかもしれない。
「で、実家って遠いのか」
「まぁそう遠くもない……鎌倉だ。そこにしばらく泊まろうと思っている」
「鎌倉か。急にそんな場所へ行って大丈夫だろうか……洋が心配だな」
「まぁな実家は寺だし、敷地だけは広いから、そんなに洋が気を遣わなくても済むはずだ」
「てっ……寺!?」
なんか意外だった。寺と医師の丈さんって結びつかないぞ。なんだか洋のことが本気で心配になってきた。寺って男ばかりいそうじゃないか。いやそんなこといったら坊さんに失礼だよな。
「ははっ、洋も驚いていたな。私のイメージじゃないって」
激しく同意して、コクコクっと頷いてしまった。
「とっとにかく二度と洋を危ない目には遭わせないでくれ。それと泣かせないって約束してくれよ」
「あぁ。もちろんだ」
「洋も涼くんも、もう寝ただろうか。私たちもそろそろ休むか」
「そうだな。俺はソファでいいから、ベッドどうぞ」
「ありがとう、悪いな。安志くん、君が今とても幸せそうで良かったよ。涼くんは素直で明るくていい子だな」
「あぁ大事な人だ。とても……」
今頃、あの美しい従兄弟達は夢の中だろうか。
涼のモデルとしての生活も、洋の日本での新しい生活もどちらも気になってしょうがない。でも一番嬉しいのは、洋が日本に無事に戻って来たことなんだ。
明日からまた何かが大きく変化していきそうな予感がして、俺の中に明日への期待と不安が渦巻いていくのを感じた。でもきっと、すべてなるようになる。
今まで築き上げた絆を大切に、時に思い出しながら……俺は二人をしっかりとサポートしていきたい。
そう期待と不安の狭間で固く誓った。
「期待と不安」 了
「そうか、やっぱりそうだったんだね。ねぇ洋兄さんに聞いてもいいかな。どうしてあんなにタイミング良く駆けつけることが出来たの? なんだか都合良すぎない?」
「……それは……涼……君になんて話していいか……俺はまだその覚悟が出来ていない。ただ偶然じゃない。俺は涼を助けたくてソウルからアメリカに向かったんだ」
とうとう涼に聞かれてしまった。だが俺は涼には話せない。あの場所にいた人が俺の義父で、俺はあの人に犯されたなんてことは。
輝くような美しさを放つ涼には、知らなくていい汚れた世界の話だ。
押し黙っていると、涼がふっと微笑んで俺を安心させるかのように逆に抱きしめてくれた。
「涼……? 」
君は十歳も年下のくせに、たまに驚くほど大人びたことをするな。涼なりに俺のことを守ろうとしていることがじんわりと伝わって来て心が温まる。本当に思い切って日本に戻って来てよかった。
「洋兄さんごめん、僕……しつこく聞いて、もういいんだ。ただ、素直にありがとうって言いたい。僕を助けてくれたのは丈さんと洋兄さんだったんだね。それがちゃんと分かってよかった」
「涼……全部話せなくてごめんな。でもこれだけは分かって欲しい。俺は今とても幸せだってこと。だからもう大丈夫だ。お前は変な心配しなくても大丈夫だから」
「分かった、洋兄さん、じゃあ今日は一緒に寝てもいい? 」
「えっ一緒にベッドで? 」
「うん。僕、お兄さんが欲しかったんだ。小さいころからずっと」
全く……可愛い涼にねだられたら嫌とは言えないな。安志もいつもこんな調子で、涼にねだられて鼻の下伸ばしているんじゃないかって思うと楽しい気分になった。ちょっとくすぐったく恥ずかしい気持ちだったが、そのまま一緒にベッドに入った。
「流石にちょっと狭いかな。ごめんね涼」
「ううん……洋兄さん細いから大丈夫だ」
「そう? なぁ涼……俺もずっと兄弟が欲しかったよ。涼は従兄弟だけど俺の弟みたいだよ。もう……」
父が亡くなって母も亡くなり肉親が一人もいなくなったと思っていたのに、こんなに温かい優しい弟みたいな従兄弟と巡り会えるなんて、あの時は夢にも思わなかった。
「洋兄さんは……僕が守る……」
まどろみながら、涼が囁いてくれた。
ありがとう。涼、君がいてくれて救われているよ。今日は俺もぐっすり眠れそうだ。
****
お風呂上がりの丈さんに缶ビールを渡した。なんか意外な組み合わせの二人で、緊張してしまうもんだな。お互い躰が大きいので妙に俺の部屋が狭く感じるぞ。
「あぁ、ありがとう」
「うーむ、なんか面と向かって、照れますね」
「ははっそうだね。安志くんには洋がいろいろお世話になって、今日は私まで泊めてもらって悪かったね」
「いやいや、こっちこそ涼がアメリカでお世話になってって、あーこんな会話変ですよねっ、普通にしゃべってもいいですか?」
「あぁもちろんだ」
畏まっているのも疲れるので、思い切って提案した。
俺達よりも丈さんはずっと年上だし、医師という仕事柄なのか冷静沈着だから余計に緊張するもんだ。でも、これはこれでなんだか頼りになる兄貴を持ったような気分だ。
「ところで、この後日本でどうするか決めているのか」
「あぁそうだな、明日……洋を私の実家に連れて行こうと思っている」
「えっ丈さんの実家に? 大丈夫なのか、それ」
「私自身もう五年以上帰っていないので分からないが、とにかく洋を連れて一度顔を出したいと思っている」
「へぇ……」
意外なことを告げられて驚いたが、洋にはもうあの義父しかいないから、丈さんの世界に触れていくのは、いい事なのかもしれない。
「で、実家って遠いのか」
「まぁそう遠くもない……鎌倉だ。そこにしばらく泊まろうと思っている」
「鎌倉か。急にそんな場所へ行って大丈夫だろうか……洋が心配だな」
「まぁな実家は寺だし、敷地だけは広いから、そんなに洋が気を遣わなくても済むはずだ」
「てっ……寺!?」
なんか意外だった。寺と医師の丈さんって結びつかないぞ。なんだか洋のことが本気で心配になってきた。寺って男ばかりいそうじゃないか。いやそんなこといったら坊さんに失礼だよな。
「ははっ、洋も驚いていたな。私のイメージじゃないって」
激しく同意して、コクコクっと頷いてしまった。
「とっとにかく二度と洋を危ない目には遭わせないでくれ。それと泣かせないって約束してくれよ」
「あぁ。もちろんだ」
「洋も涼くんも、もう寝ただろうか。私たちもそろそろ休むか」
「そうだな。俺はソファでいいから、ベッドどうぞ」
「ありがとう、悪いな。安志くん、君が今とても幸せそうで良かったよ。涼くんは素直で明るくていい子だな」
「あぁ大事な人だ。とても……」
今頃、あの美しい従兄弟達は夢の中だろうか。
涼のモデルとしての生活も、洋の日本での新しい生活もどちらも気になってしょうがない。でも一番嬉しいのは、洋が日本に無事に戻って来たことなんだ。
明日からまた何かが大きく変化していきそうな予感がして、俺の中に明日への期待と不安が渦巻いていくのを感じた。でもきっと、すべてなるようになる。
今まで築き上げた絆を大切に、時に思い出しながら……俺は二人をしっかりとサポートしていきたい。
そう期待と不安の狭間で固く誓った。
「期待と不安」 了
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