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第6章
番外編 Happy New Year Kai×優也
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「優也さん、こっちこっち」
大晦日はホテルの仕事が最高に忙しい時だ。それは分かっているから諦めていたのに、Kaiくんからほんの少しの時間しか取れないが会いたいと言われて嬉しかった。
ホテルの従業員出入り口から出て来たkaiくんに、そのまま路地裏でぎゅっと抱きしめられて驚いた。こんな職場の近くでまずいだろうと思う反面、Kaiくんの体温が暖かくてなんだか急に泣きたくなった。
ソウルに来てからは、いつも一人で年末年始も過ごしていた。一人で過ごすことには慣れても、ソウルの冬の寒さが堪える時もあった。こんな寒い時期に触れる人肌は、本当に危険で癖になる。
「……Kaiくん君は暖かいな」
「早く会いたくて走って来たんだ。今日は人手が足りなくて十五分しか一緒にいられないから」
「……少しでもいい。嬉しいよ」
こんなやり取りは、僕たちが付き合っていると実感する瞬間だ。
つい一週間前のことなんだ。洋くんの家で開催されたクリスマスパーティーの夜に、Kaiくんから告白されたのは……突然のことでびっくりした。
僕の秘めたる願いを知っていたのか。僕がKaiくんの温かい人柄に惹かれて、そっと見ていたことに気がついていたのだろうか。
躰を奪われることから始まった翔との恋と全然違う。
労わるような優しいキスから始まった恋。
Kaiくんのキスは優しく心地よかった。
もう二度と恋はしないと誓ったはずなのに凍った心はKaiくんの情熱によって、あっという間に溶かされていた。
「優也さん、こんなに冷たくなって……待たせちゃったね」
「……これくらい大丈夫だ」
「駄目だよ。風邪引いたら困る。優也さんは一人で我慢しそうだから心配なんだ。そうだ、これ使って」
そう言いながらKaiくんは首に巻いていたマフラーを外して、僕の首にぐるぐると巻いてくれた。
「これKaiくんのだろ? 悪いよ」
「これは優也さんへのプレゼントなんだ。寒い中待ってくれているのが分かっていたから俺が巻いて暖めておいた。……なんてキザだよな」
マフラーは優しいオレンジ色。ふわふわと暖かくて、くすぐったい気持ちになる。Kaiくんみたいな優しい色だ。
「うん、やっぱり似合うな。優也さんにはこういう優しい暖かい感じの色が似合うな」
「これはKaiくんみたいな色だ」
「俺みたい? あっじゃあ俺だと思って、いつもつけていて。もう寒くない? 」
「うん、もう寒くないよ」
ふと翔にもらったあの白いマフラーは、僕の悲しみに濡れて、いつの間にか落としてしまったことを思い出した。でも今度は……このマフラーならば幸せに染まったような色で、いつもポカポカと僕の心を暖めてくれそうだ。
「あーもっと一緒にいたいな」
Kaiiくんの手が再び伸びて来て、そのまま胸元に抱きしめられる。体格の良い躰は逞しく居心地がいい。
「そういえば俺さマフラーにちょっと思い出があって……」
「んっ? どんな? 」
「実は昔ホテルの仕事で日本へビラ配りに行ったことがあるんだ」
「えっ……そうなの?」
「その時真っ白なマフラーをして俯いて歩いて来た人が凄く悲しそうで辛そうで、なんとか励ましてあげたかったけど、まだまだ日本語も未熟でうまく伝わらなくてさ」
「そっそれで?」
心臓が急にバクバクしだした。思いがけない話だった。
「その人怒って走って逃げちゃってさ……その時白いマフラーを落として行ったんだ。すぐ拾ってあげたかったけど、すごい雑踏であっという間にいろんな人に踏まれちゃって、真っ黒になって……あの時拾って届けられたら良かったなって後悔してるよ」
まさか……それはもしかしてあの日の僕のことじゃないだろうか。
Kaiくんは気がついていないし僕も今まですっかり忘れていたが。もし本当にそうだったら、Kaiくんとの出会いは必然だったような気がする。恥ずかしくて言い出せないが。僕がソウルに来るきっかけを作ってくれたのは君だったのか。思いがけない事を知って息を飲んでしまったが、Kaiくんは僕の動揺に気がつかず話を続けた。
「だからかな。妙にマフラーの色で迷ってさ。白かオレンジか」
「いや……白じゃなくて良かった。オレンジ色がKaiくんみたいで好きだ」
「照れるな。さてと、もうそろそろ行かないとまずい。くそっやっぱりあっという間だな。次に会うのは来年だね」
「もうあと一時間で来年だ」
「来年はもっと一緒にいよう」
会うたびに僕の心を溶かしてくれるKaiくんのことが、どんどん好きになっていく。
来年もこの幸せが続きますように。そう願わずにいられない。
「一人で帰れる? 風邪ひかないようにな。俺は少しでも優也さんに会えて元気が出たよ。このまま今日は徹夜だけど頑張れそうだよ」
屈託無く笑うKaiくんへ……気がついたら自分からキスをしていた。
チュッとリップ音が木枯らしに舞って、少し恥ずかしかった。
「わっ! 優也さんっ? 」
「仕事……頑張って」
もらうだけ、待つだけの恋はもうしたくない。
僕からも、こうやって与えれば良かったのか。
新しい恋は、新しい自分になれる恋。
来年はもっと踏み出してみたい。
Kaiくん君と一緒に……
大晦日はホテルの仕事が最高に忙しい時だ。それは分かっているから諦めていたのに、Kaiくんからほんの少しの時間しか取れないが会いたいと言われて嬉しかった。
ホテルの従業員出入り口から出て来たkaiくんに、そのまま路地裏でぎゅっと抱きしめられて驚いた。こんな職場の近くでまずいだろうと思う反面、Kaiくんの体温が暖かくてなんだか急に泣きたくなった。
ソウルに来てからは、いつも一人で年末年始も過ごしていた。一人で過ごすことには慣れても、ソウルの冬の寒さが堪える時もあった。こんな寒い時期に触れる人肌は、本当に危険で癖になる。
「……Kaiくん君は暖かいな」
「早く会いたくて走って来たんだ。今日は人手が足りなくて十五分しか一緒にいられないから」
「……少しでもいい。嬉しいよ」
こんなやり取りは、僕たちが付き合っていると実感する瞬間だ。
つい一週間前のことなんだ。洋くんの家で開催されたクリスマスパーティーの夜に、Kaiくんから告白されたのは……突然のことでびっくりした。
僕の秘めたる願いを知っていたのか。僕がKaiくんの温かい人柄に惹かれて、そっと見ていたことに気がついていたのだろうか。
躰を奪われることから始まった翔との恋と全然違う。
労わるような優しいキスから始まった恋。
Kaiくんのキスは優しく心地よかった。
もう二度と恋はしないと誓ったはずなのに凍った心はKaiくんの情熱によって、あっという間に溶かされていた。
「優也さん、こんなに冷たくなって……待たせちゃったね」
「……これくらい大丈夫だ」
「駄目だよ。風邪引いたら困る。優也さんは一人で我慢しそうだから心配なんだ。そうだ、これ使って」
そう言いながらKaiくんは首に巻いていたマフラーを外して、僕の首にぐるぐると巻いてくれた。
「これKaiくんのだろ? 悪いよ」
「これは優也さんへのプレゼントなんだ。寒い中待ってくれているのが分かっていたから俺が巻いて暖めておいた。……なんてキザだよな」
マフラーは優しいオレンジ色。ふわふわと暖かくて、くすぐったい気持ちになる。Kaiくんみたいな優しい色だ。
「うん、やっぱり似合うな。優也さんにはこういう優しい暖かい感じの色が似合うな」
「これはKaiくんみたいな色だ」
「俺みたい? あっじゃあ俺だと思って、いつもつけていて。もう寒くない? 」
「うん、もう寒くないよ」
ふと翔にもらったあの白いマフラーは、僕の悲しみに濡れて、いつの間にか落としてしまったことを思い出した。でも今度は……このマフラーならば幸せに染まったような色で、いつもポカポカと僕の心を暖めてくれそうだ。
「あーもっと一緒にいたいな」
Kaiiくんの手が再び伸びて来て、そのまま胸元に抱きしめられる。体格の良い躰は逞しく居心地がいい。
「そういえば俺さマフラーにちょっと思い出があって……」
「んっ? どんな? 」
「実は昔ホテルの仕事で日本へビラ配りに行ったことがあるんだ」
「えっ……そうなの?」
「その時真っ白なマフラーをして俯いて歩いて来た人が凄く悲しそうで辛そうで、なんとか励ましてあげたかったけど、まだまだ日本語も未熟でうまく伝わらなくてさ」
「そっそれで?」
心臓が急にバクバクしだした。思いがけない話だった。
「その人怒って走って逃げちゃってさ……その時白いマフラーを落として行ったんだ。すぐ拾ってあげたかったけど、すごい雑踏であっという間にいろんな人に踏まれちゃって、真っ黒になって……あの時拾って届けられたら良かったなって後悔してるよ」
まさか……それはもしかしてあの日の僕のことじゃないだろうか。
Kaiくんは気がついていないし僕も今まですっかり忘れていたが。もし本当にそうだったら、Kaiくんとの出会いは必然だったような気がする。恥ずかしくて言い出せないが。僕がソウルに来るきっかけを作ってくれたのは君だったのか。思いがけない事を知って息を飲んでしまったが、Kaiくんは僕の動揺に気がつかず話を続けた。
「だからかな。妙にマフラーの色で迷ってさ。白かオレンジか」
「いや……白じゃなくて良かった。オレンジ色がKaiくんみたいで好きだ」
「照れるな。さてと、もうそろそろ行かないとまずい。くそっやっぱりあっという間だな。次に会うのは来年だね」
「もうあと一時間で来年だ」
「来年はもっと一緒にいよう」
会うたびに僕の心を溶かしてくれるKaiくんのことが、どんどん好きになっていく。
来年もこの幸せが続きますように。そう願わずにいられない。
「一人で帰れる? 風邪ひかないようにな。俺は少しでも優也さんに会えて元気が出たよ。このまま今日は徹夜だけど頑張れそうだよ」
屈託無く笑うKaiくんへ……気がついたら自分からキスをしていた。
チュッとリップ音が木枯らしに舞って、少し恥ずかしかった。
「わっ! 優也さんっ? 」
「仕事……頑張って」
もらうだけ、待つだけの恋はもうしたくない。
僕からも、こうやって与えれば良かったのか。
新しい恋は、新しい自分になれる恋。
来年はもっと踏み出してみたい。
Kaiくん君と一緒に……
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