重なる月

志生帆 海

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第6章

新しい一歩 2

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 天窓の上空には、無限に広がる星空の下。

 俺は涙が溢れて止まらなくなってしまった優也さんの頭を抱え込むように胸に抱いていた。

 洋が気を利かせてくれたようで隣の部屋から微かにBGMが流れてくる。物哀しく美しい繊細なメロディだ。これはなんという曲だろう。その音楽に合わせるように揺りかごを揺らすように、胸に抱いた優也さんを抱きしめて揺らいでいく。

 涙が零れ落ちる度に小さく震える肩が細く頼りない。五歳も年上の彼なのに庇護欲を掻き立てられてしまった。胸に抱く存在が心から愛おしいと思った。

「優也さん」
「……」
「ねぇ返事してよ」
「う……ん」
「良かった。ちょっと座ろう」

 今ならその固く閉ざしていた心を開いてくれている。もっともっと知りたい、話したい。そんな気持ちで一杯だ。

 俺のシャツの胸元は優也さんが流した涙でぐっしょりと濡れていた。こんなにも大きな哀しみを、この人はずっと一人で抱えていたのか。

 でもその涙は冷たくなく人肌を感じた。とても人間らしい優しい涙だった。

 こんな風に他人から感情をぶつけてもらうのは、いつぶりだろう。いや初めてだろうか。いつだって調子良くやってきた。でも本当は誰にも本音を見せていなかったし誰からも本音でぶつかってもらえなかったのが、俺なのかもしれない。そんなことをふと感じてしまった。

 だから優也さんが本気で僕の胸で泣いてくれたのが、心地よくさえ感じた。

 この人に必要とされる人間になりたい。

 そう思う気持ちがまた一段と強くなっていく。

 二人で部屋の白い壁にもたれてみると、ラグはひいてあるが床が少し冷たい。

「寒いな……肩抱いてもいい?」
「……」

 返事の代わりにコクリと小さな頷きが返って来た。

「優也さんには最初に言っておくよ。こんなこと言ったら、ひいちゃうかな。嫌だったらもう触れないから」
「……何?」

 優也さんが涙で濡れた目でじっと見つめてくる。
 躊躇われるが、最初に話しておきたいことだ。

「俺……恋愛対象は同性なんだ。こんなの駄目かな? 」
「あっ」

 優也さんは目を一瞬見開いて、その後……頬を酔ったように朱色に染めた。

 えっと……この反応はどうとったらいいんだ。


****

 バスタブにお湯を張るとバスルームが白い湯気でどんどん霞んでいく。そんな中俺は丈と抱擁しキスを交わしていく。啄むようなキスから噛みつくようなキス。舌を絡めとられ翻弄されていくと、どんどん躰が熱くなっていく。

「丈……んっ……もう熱い」
「ふっそうだな。服脱ぐか」

 器用な丈の手によって、着ていた洋服を一枚一枚床に落とされていく。そしてやっと素肌に丈が触れてくれる。そんな些細なことに喜びを感じてしまう。

「おいで」

 丈がバスルームの中に入る様に手を引いて誘導してくれる。中に入るとシャワーのお湯が優しく降って来た。

「洗ってやるから、そっち向いていろ」
「んっ……」

 タイルの壁に手をついて丈に背を向けると、泡立ったスポンジを持った手が背後からまわってきて、躰を滑るようになぞられた。

「あっ」

 思わず声が出てしまった。

「洋、静かに。まだだよ。きちんと洗ってほぐしてやるから」

 丈の手が胸の小さな突起をかすめていく。触れそうで触れない距離で行ったり来たりするもんだから、俺はもっともっと欲しくなって腰が小刻みに震えてしまう。

「丈、またいつもの意地悪だ……お願いだ。ちゃんと触れてくれ」
「洋はこれくらいが気持ちいいんだろう」

 揶揄されて、かっとなってしまう。

「丈っ!」

 文句を言おうとする口を塞がれる。顔には温かいシャワーのお湯が跳ねてくる。甘い温かいしっとりとした水気を含んだ上質なキスを浴びると気持ち良くて、うっとりして来る。次第に自分のものが緩やかに立ち上がっていくのを感じた。

「洋はキスが好きだな。ここも大きくなってきたな」

 そう言いながら俺のものをすーっと撫でながら、うなじにキスを落とされる。背後から覆いかぶさっている丈の躰にも、すでに張り詰めたものを感じる。

「丈だって一緒だろ。あたってる……し…」
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