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第6章
帰国 2
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講義終了のベルが鳴った。
「月乃~今日のコンパ行くよな?」
「あっ悪いっ急に予定が変更になって、やっぱり無理だ」
「なんだよーここ数日付き合い良かったのに~お前目当ての女が集まるんだぞ。どうするんだ? 」
「おい! 僕は最初から行きたくないって言ったのに、お前が無理やり入れたんだろっ」
「まずいな~女どもに恨まれる」
ぼやく山岡の肩をポンポンっと叩いて、僕は足早に階段を先に降りた。
「ほんとごめんな。急ぐから先行くよ。また明日! 」
「なんだよ~本命デートか~」
「ははっ」
「待てー可愛い子か。詳しく話せー!!」
大袈裟に騒ぐ山岡を尻目に、俺は駅へ急いだ。まだ時間はたっぷりあるのに、なんだか気が急く。
朝、安志さんからメールがあって、仕事が一日早く終わったので予定より早く今晩到、帰国するとのことだった。
朝そのメールを見てからドキドキ感がとまらない。
夏にアメリカで会って安志さんが先に帰国した時よりも、この一週間の方が長く感じ、不安で寂しかったのは何故だろう。僕は安志さんと過ごせば過ごす程、彼のことが好きになっている。
****
羽田空港に着くと、まだ十八時だった。安志さんはまだソウルの空港にいる時間だ。でもいい。家でなんてじれったくて待っていられない。
ここで真っ先に出迎えたい。
それに電話で話した洋兄さんのことも心配だ。洋兄さんの身の上に何か良くないことが起きたようで、気になってしょうがない。
僕の中の洋兄さんは、年下の僕が支えてあげたくなる程に弱っていて、哀しみに濡れた目をしていた。あんな洋兄さんの姿を最後に見てしまったからなのか、いつも僕の心に暗い影を落としていた。
「ふぅ……まだここで三時間以上待たないと」
カフェでサンドイッチを摘まみながらコーヒーを飲んでいると、テーブルに置いたスマホが揺れた。安志さんから着信だ。
「もしもしっ」
「あっ、涼か……」
「うん」
「心配かけたな。詳しくは着いたら話すけど、全部ちゃんと話せたよ」
「洋兄さんは無事? 大丈夫?」
「あぁ無事だ。今度はちゃんと救ってやれた」
今度は……?
そういえば、洋兄さんと安志さんの間には今までどんなことがあったのか……二人は生れつき幼馴染だって聞いたから、僕には敵わない二人だけの歴史を持っている。
少し妬いちゃうな、こんな考え駄目なのに。
「そうなんだね。本当に良かった」
「涼、寂しかっただろう? 心配かけてごめんな」
「……うん」
「あと三時間後に会えるな」
「もう空港にいるよ」
「えっもう?」
「うん。だって待っていられなくて」
「ありがとう。涼、なんだか凄く嬉しいもんだな。帰りを待ってくれる人がいるっていうのは」
「うん、ずっと待っていたから、早く会いたいんだ」
「俺もだ」
安志さんが素直な気持ちを伝えてくれる。本当に安志さんは真っすぐだ。一瞬洋兄さんに嫉妬めいたことを思ってしまったのが恥ずかしい。でも洋兄さんが無事だと聞いてほっとした。これで安志さんも僕も一歩前に進めるような気がした。
一歩前にというと、その先を想像して赤面してしまう。でも最近はもう、なんだか僕の方が我慢できない。これって自然なことなんだろうか。安志さんともっともっと深く繋がりたい。心も躰もしっかりと深く。いつの間にかキスより先を望んでしまっていた。最初は進むのが怖かったのに、自然にそう思っていた。
洋兄さん……洋兄さんになら分かる? この不思議なふわふわした気持ち。
あぁ……こういうことを考えていると無性に洋兄さんに会いたくなってしまう。直接会いたい。顔を見てみたい。
十七歳の僕は、あの時の洋兄さんの顔にそっくりになったよ。
子供の頃は気が付かなかったけど、すごく女顔で……洋兄さんのお母さんと双子だったという母にそっくりなんだ。
それから母のアルバムで洋兄さんのお母さんの写真を見つけたよ。母の横で優しく微笑む少女は儚げな天使のように息を呑むほど美しかった。僕の母よりも、さらにか弱そうな少女の名前は「夕」と書かれていた。名前の通り、夕日のような優しい穏やかな瞳だったよ。
そっと日本へ旅立つ日にその写真を持ってきてしまった。手帳に挟んだ古びた写真を取り出しそっと手でなぞると熱い思いが込み上げてくる。この写真、渡せるといいな。
「安志さんが会えたなら、きっと僕ももうすぐだね。だって洋兄さんは必ずまた会えるって言ってくれたから」
そう写真に向かって呟いた。
小さな嫉妬と大きな憧れ。
洋兄さんは、僕にとってそういう人だ。
「月乃~今日のコンパ行くよな?」
「あっ悪いっ急に予定が変更になって、やっぱり無理だ」
「なんだよーここ数日付き合い良かったのに~お前目当ての女が集まるんだぞ。どうするんだ? 」
「おい! 僕は最初から行きたくないって言ったのに、お前が無理やり入れたんだろっ」
「まずいな~女どもに恨まれる」
ぼやく山岡の肩をポンポンっと叩いて、僕は足早に階段を先に降りた。
「ほんとごめんな。急ぐから先行くよ。また明日! 」
「なんだよ~本命デートか~」
「ははっ」
「待てー可愛い子か。詳しく話せー!!」
大袈裟に騒ぐ山岡を尻目に、俺は駅へ急いだ。まだ時間はたっぷりあるのに、なんだか気が急く。
朝、安志さんからメールがあって、仕事が一日早く終わったので予定より早く今晩到、帰国するとのことだった。
朝そのメールを見てからドキドキ感がとまらない。
夏にアメリカで会って安志さんが先に帰国した時よりも、この一週間の方が長く感じ、不安で寂しかったのは何故だろう。僕は安志さんと過ごせば過ごす程、彼のことが好きになっている。
****
羽田空港に着くと、まだ十八時だった。安志さんはまだソウルの空港にいる時間だ。でもいい。家でなんてじれったくて待っていられない。
ここで真っ先に出迎えたい。
それに電話で話した洋兄さんのことも心配だ。洋兄さんの身の上に何か良くないことが起きたようで、気になってしょうがない。
僕の中の洋兄さんは、年下の僕が支えてあげたくなる程に弱っていて、哀しみに濡れた目をしていた。あんな洋兄さんの姿を最後に見てしまったからなのか、いつも僕の心に暗い影を落としていた。
「ふぅ……まだここで三時間以上待たないと」
カフェでサンドイッチを摘まみながらコーヒーを飲んでいると、テーブルに置いたスマホが揺れた。安志さんから着信だ。
「もしもしっ」
「あっ、涼か……」
「うん」
「心配かけたな。詳しくは着いたら話すけど、全部ちゃんと話せたよ」
「洋兄さんは無事? 大丈夫?」
「あぁ無事だ。今度はちゃんと救ってやれた」
今度は……?
そういえば、洋兄さんと安志さんの間には今までどんなことがあったのか……二人は生れつき幼馴染だって聞いたから、僕には敵わない二人だけの歴史を持っている。
少し妬いちゃうな、こんな考え駄目なのに。
「そうなんだね。本当に良かった」
「涼、寂しかっただろう? 心配かけてごめんな」
「……うん」
「あと三時間後に会えるな」
「もう空港にいるよ」
「えっもう?」
「うん。だって待っていられなくて」
「ありがとう。涼、なんだか凄く嬉しいもんだな。帰りを待ってくれる人がいるっていうのは」
「うん、ずっと待っていたから、早く会いたいんだ」
「俺もだ」
安志さんが素直な気持ちを伝えてくれる。本当に安志さんは真っすぐだ。一瞬洋兄さんに嫉妬めいたことを思ってしまったのが恥ずかしい。でも洋兄さんが無事だと聞いてほっとした。これで安志さんも僕も一歩前に進めるような気がした。
一歩前にというと、その先を想像して赤面してしまう。でも最近はもう、なんだか僕の方が我慢できない。これって自然なことなんだろうか。安志さんともっともっと深く繋がりたい。心も躰もしっかりと深く。いつの間にかキスより先を望んでしまっていた。最初は進むのが怖かったのに、自然にそう思っていた。
洋兄さん……洋兄さんになら分かる? この不思議なふわふわした気持ち。
あぁ……こういうことを考えていると無性に洋兄さんに会いたくなってしまう。直接会いたい。顔を見てみたい。
十七歳の僕は、あの時の洋兄さんの顔にそっくりになったよ。
子供の頃は気が付かなかったけど、すごく女顔で……洋兄さんのお母さんと双子だったという母にそっくりなんだ。
それから母のアルバムで洋兄さんのお母さんの写真を見つけたよ。母の横で優しく微笑む少女は儚げな天使のように息を呑むほど美しかった。僕の母よりも、さらにか弱そうな少女の名前は「夕」と書かれていた。名前の通り、夕日のような優しい穏やかな瞳だったよ。
そっと日本へ旅立つ日にその写真を持ってきてしまった。手帳に挟んだ古びた写真を取り出しそっと手でなぞると熱い思いが込み上げてくる。この写真、渡せるといいな。
「安志さんが会えたなら、きっと僕ももうすぐだね。だって洋兄さんは必ずまた会えるって言ってくれたから」
そう写真に向かって呟いた。
小さな嫉妬と大きな憧れ。
洋兄さんは、僕にとってそういう人だ。
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