重なる月

志生帆 海

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第6章

プロローグ

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 飛行機の窓の外には、懐かしい景色が広がっている。

 煌く宝石箱のような東京の夜景を、こうやって空から見下ろすのは、実に五年ぶりのことだ。
 あの日、義父から逃れ、震えながら乗り込んだ飛行機。窓から遠ざかっていく夜景に、悪縁から解き放たれたような気分になったことを、まざまざと思い出す。


 もうすぐ俺は再び生まれ育った国へと降り立つ。

 この五年間……月が重なるように出会った俺と丈は二人で寄り添うようにソウルで過ごした。ソウルで俺たちの出会いの謎は解明され、何度生まれ変わっても襲い掛かってくる過酷な運命を、一つ一つ乗り越えてきた。

 今、月輪のネックレスは完璧な形を取り戻し、俺の胸で揺れている。

 壊れたもの、壊されたもの……

 そこにいつまでも執着していても何も始まらない。

 一度壊れた月輪が修復できたように、俺もまた壊され、壊してしまった日本での生活を見つめなおしてみたい。

 このネックレスに支えられ、秘かに願っていた帰国がもうすぐ叶う。
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