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第5章
変わっていく 4
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リビングでは丈とKaiが難しい顔をして座っている。
部屋に荷物を置いて戻った俺は、一体今日起きたことを何から話せばいいのか戸惑ってしまった。
「あの……」
「洋……何が今日起きた? その唇はどうして切れた? 」
丈が端的に重たい口を開くと同時に、Kaiも口を挟んだ。
「なぁ洋、あの重役だろう。お前の悩みは……通訳の松本さんが言っていたが、あの重役はゲイなんだろ? お前また迫られたのか」
「うっ……」
「洋、どういうことだ? 今日の仕事はアメリカ人の通訳じゃなかったのか」
「それが通訳のトラブルがあって、日本の製薬会社の重役の通訳と交代になってしまって」
「製薬会社?」
丈が怪訝そうな顔で覗いてくる。
どうしよう……この先の話を告げるには、あの五年前の義父との事件をKaiにも話さなければならない。でも自分から話すにはあまりに屈辱的で……うまく声が出てこない。
「あっ……」
その時ドアのチャイムが鳴った。
「誰だ? こんな時間に」
「あの……丈、聞いてくれ。今日偶然、ホテルで安志に会った。彼はボディガードの仕事でここに来ていて」
「安志くんに?」
「洋、anjiって誰だよ? 」
Kaiは聞きなれない名前に不思議そうな顔をした。
「俺の幼馴染で、丈もよく知ってる。俺たちがここに来るのを後押ししてくれた奴なんだ。それで彼をここに呼んだ」
「なるほど」
丈は深いため息を漏らした。
ドアを開けると安志が立っていた。温厚な人柄がにじみ出るような優しい笑顔を浮かべていて、少し安堵した。
「安志……」
「洋、お前大丈夫か。顔色悪いなっ」
「あぁ、安志。ここまで迷わず来られたか。ごめんな、急に呼び出して」
「いいんだよ。まずは丈さんに挨拶させてくれ」
「入ってくれ」
リビングに安志を案内するとKaiが大きな声をあげた。
「あっーお前はっひもじい日本人だ!」
「あっホテルのコンシェルジュ!! 随分あの時と態度が違うなっ」
「二人とも知り合い?」
「恵んでやった仲だ」
「なんだそれ?」
二人のやり取りは明るく朗らかで、その場の重たい空気がほぐれていく。
「これで揃ったな」
「あぁ俺達、洋を守る騎士みたいだなぁ」
Kaiが場を明るくしてくれる。
「さぁ洋話せ。話しにくいことなのか。今日何があって何を困っていて……どうして皆を呼んだ?」
丈に言われて、はっと気が付いた。言わなくてはいけないことがある。ちゃんと伝えないと伝わらないことがあるんだ。でも……
「俺をサポートして欲しい。俺はあいつに脅されている。一人じゃ敵わない。明日のこと乗り越えるためには、丈、Kai、安志の助けが必要だ」
「洋、ちゃんと話せ、明日一体何がある? 」
丈が不審そうな表情を浮かべている。この先は……あのことに触れないと説明ができない。どうしよう。躊躇していると安志が助け舟を出してくれた。
「洋、ちょっと丈と二人で話して来いよ。Kaiさんには俺が分かりやすく伝えておくから」
「安志……ありがとう」
「わかった。洋、少し2階に行こう。いいか」
「あぁ」
****
仕事が早く終わったので車を走らせた。疲れが溜まって寝落ちしてしまった洋をそのまま残して病院へ行ったので、早く顔が見たかった。
だがホテルの通用門から出て来た洋の顔色は、酷く青ざめていた。
どうした? 不安そうな表情を浮かべて……あんな顔は……ここしばらくしていなかったのに。一体今日仕事で何があった?
Kaiも一緒に家にと言う時点で、今日ホテルで何か問題が起きたことは明白になった。
車の中で、黄昏時を悲し気に見つめる洋の眼がとても気になった。
そして今……安志くんまでこの家に揃っている。
私の後ろをついて二階に上がってくる洋は、やはり不安そうな表情を浮かべている。二階の私の部屋へ洋を誘い、部屋のドアを閉めるなり、私は洋を抱きしめた。
深く……強く。
「洋、ちゃんと話してくれ。私にだけは隠し事をするな。もうっ」
洋の温もりを感じながらその細い顎を掬い口づけしようとすると、そっと外された。
「どうした? 」
「あ……丈っ……丈ごめん。俺……」
泣きそうな目をしている。いやもう泣いているのか。目元が赤い。
「俺……今日……ごめん」
小さく切れた唇。
嫌がる口づけ。
「まさか……誰かに無理やりキスされてしまったのか」
はっとした表情を浮かべた洋は、私から目を逸らしていった。唇をきゅっと噛みしめたその横顔は悔しそうだった。
「丈、ごめん。俺が油断していたせいで……」
「相手はその重役なんだな…」
「あぁ……でもただの重役じゃないんだ。あいつは……」
「どういうことだ?」
「あいつはあの時……あの五年前に義父の手下だった奴だ。俺たちを邪魔した本部長だ。覚えているだろう?」
「何だって!」
どうして……今になって、あの洋に色目を使っていた本部長がのこのこと出てくるんだ。一体何をもって洋のことを脅しているのだ?
「あの時のことで、脅されているのか」
洋は観念したようにコクリと頷いた。
「忘れようと封じていたあの忌々しい事件……まさか五年も経って、父とは違うルートで脅されるなんて自分が情けないよ。俺は男なのに、丈を守るどころかいつもお前に迷惑ばかりかけてしまう。それが嫌なんだ!もう本当に嫌だ!うっうっ……」
話ながら洋の眼からは悔し涙がぼろぼろと溢れ、語る声も詰まってしまった。
震える肩にあの五年前を思い出す。そっと抱きしめ、その頬を抑え嫌がる洋の唇を今度は真正面から深く奪った。
「丈っ駄目だっ! 俺は汚れている! あんな奴に……くそっ!」
「……洋のせいじゃない。いつだって洋のせいじゃないんだ。洋は汚れてないし、私に迷惑なんてかけてない。だから安心しろ」
「ふっ情けないな。丈には内緒で乗り越えたいなんて偉そうに思っていたけど、これじゃ……到底出来そうもない」
そう言いながら、私に体重を預けてくる洋が愛おしい。
そう君はもう一人じゃない。もう一人で歩いていかなくていい。
その隣には私が、そしてKaiや安志くんもついている。洋のことが好きな人たちは沢山いるよ。
「それでいいんだよ……洋」
部屋に荷物を置いて戻った俺は、一体今日起きたことを何から話せばいいのか戸惑ってしまった。
「あの……」
「洋……何が今日起きた? その唇はどうして切れた? 」
丈が端的に重たい口を開くと同時に、Kaiも口を挟んだ。
「なぁ洋、あの重役だろう。お前の悩みは……通訳の松本さんが言っていたが、あの重役はゲイなんだろ? お前また迫られたのか」
「うっ……」
「洋、どういうことだ? 今日の仕事はアメリカ人の通訳じゃなかったのか」
「それが通訳のトラブルがあって、日本の製薬会社の重役の通訳と交代になってしまって」
「製薬会社?」
丈が怪訝そうな顔で覗いてくる。
どうしよう……この先の話を告げるには、あの五年前の義父との事件をKaiにも話さなければならない。でも自分から話すにはあまりに屈辱的で……うまく声が出てこない。
「あっ……」
その時ドアのチャイムが鳴った。
「誰だ? こんな時間に」
「あの……丈、聞いてくれ。今日偶然、ホテルで安志に会った。彼はボディガードの仕事でここに来ていて」
「安志くんに?」
「洋、anjiって誰だよ? 」
Kaiは聞きなれない名前に不思議そうな顔をした。
「俺の幼馴染で、丈もよく知ってる。俺たちがここに来るのを後押ししてくれた奴なんだ。それで彼をここに呼んだ」
「なるほど」
丈は深いため息を漏らした。
ドアを開けると安志が立っていた。温厚な人柄がにじみ出るような優しい笑顔を浮かべていて、少し安堵した。
「安志……」
「洋、お前大丈夫か。顔色悪いなっ」
「あぁ、安志。ここまで迷わず来られたか。ごめんな、急に呼び出して」
「いいんだよ。まずは丈さんに挨拶させてくれ」
「入ってくれ」
リビングに安志を案内するとKaiが大きな声をあげた。
「あっーお前はっひもじい日本人だ!」
「あっホテルのコンシェルジュ!! 随分あの時と態度が違うなっ」
「二人とも知り合い?」
「恵んでやった仲だ」
「なんだそれ?」
二人のやり取りは明るく朗らかで、その場の重たい空気がほぐれていく。
「これで揃ったな」
「あぁ俺達、洋を守る騎士みたいだなぁ」
Kaiが場を明るくしてくれる。
「さぁ洋話せ。話しにくいことなのか。今日何があって何を困っていて……どうして皆を呼んだ?」
丈に言われて、はっと気が付いた。言わなくてはいけないことがある。ちゃんと伝えないと伝わらないことがあるんだ。でも……
「俺をサポートして欲しい。俺はあいつに脅されている。一人じゃ敵わない。明日のこと乗り越えるためには、丈、Kai、安志の助けが必要だ」
「洋、ちゃんと話せ、明日一体何がある? 」
丈が不審そうな表情を浮かべている。この先は……あのことに触れないと説明ができない。どうしよう。躊躇していると安志が助け舟を出してくれた。
「洋、ちょっと丈と二人で話して来いよ。Kaiさんには俺が分かりやすく伝えておくから」
「安志……ありがとう」
「わかった。洋、少し2階に行こう。いいか」
「あぁ」
****
仕事が早く終わったので車を走らせた。疲れが溜まって寝落ちしてしまった洋をそのまま残して病院へ行ったので、早く顔が見たかった。
だがホテルの通用門から出て来た洋の顔色は、酷く青ざめていた。
どうした? 不安そうな表情を浮かべて……あんな顔は……ここしばらくしていなかったのに。一体今日仕事で何があった?
Kaiも一緒に家にと言う時点で、今日ホテルで何か問題が起きたことは明白になった。
車の中で、黄昏時を悲し気に見つめる洋の眼がとても気になった。
そして今……安志くんまでこの家に揃っている。
私の後ろをついて二階に上がってくる洋は、やはり不安そうな表情を浮かべている。二階の私の部屋へ洋を誘い、部屋のドアを閉めるなり、私は洋を抱きしめた。
深く……強く。
「洋、ちゃんと話してくれ。私にだけは隠し事をするな。もうっ」
洋の温もりを感じながらその細い顎を掬い口づけしようとすると、そっと外された。
「どうした? 」
「あ……丈っ……丈ごめん。俺……」
泣きそうな目をしている。いやもう泣いているのか。目元が赤い。
「俺……今日……ごめん」
小さく切れた唇。
嫌がる口づけ。
「まさか……誰かに無理やりキスされてしまったのか」
はっとした表情を浮かべた洋は、私から目を逸らしていった。唇をきゅっと噛みしめたその横顔は悔しそうだった。
「丈、ごめん。俺が油断していたせいで……」
「相手はその重役なんだな…」
「あぁ……でもただの重役じゃないんだ。あいつは……」
「どういうことだ?」
「あいつはあの時……あの五年前に義父の手下だった奴だ。俺たちを邪魔した本部長だ。覚えているだろう?」
「何だって!」
どうして……今になって、あの洋に色目を使っていた本部長がのこのこと出てくるんだ。一体何をもって洋のことを脅しているのだ?
「あの時のことで、脅されているのか」
洋は観念したようにコクリと頷いた。
「忘れようと封じていたあの忌々しい事件……まさか五年も経って、父とは違うルートで脅されるなんて自分が情けないよ。俺は男なのに、丈を守るどころかいつもお前に迷惑ばかりかけてしまう。それが嫌なんだ!もう本当に嫌だ!うっうっ……」
話ながら洋の眼からは悔し涙がぼろぼろと溢れ、語る声も詰まってしまった。
震える肩にあの五年前を思い出す。そっと抱きしめ、その頬を抑え嫌がる洋の唇を今度は真正面から深く奪った。
「丈っ駄目だっ! 俺は汚れている! あんな奴に……くそっ!」
「……洋のせいじゃない。いつだって洋のせいじゃないんだ。洋は汚れてないし、私に迷惑なんてかけてない。だから安心しろ」
「ふっ情けないな。丈には内緒で乗り越えたいなんて偉そうに思っていたけど、これじゃ……到底出来そうもない」
そう言いながら、私に体重を預けてくる洋が愛おしい。
そう君はもう一人じゃない。もう一人で歩いていかなくていい。
その隣には私が、そしてKaiや安志くんもついている。洋のことが好きな人たちは沢山いるよ。
「それでいいんだよ……洋」
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