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第5章
変わって行く 1
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「……」
小さな声で洋が何か呟いた。
「洋、頼れそうな奴が誰かいるんだな。教えてくれ」
「……Kaiなら」
kaiっていうのは、聞き覚えがある。そうだ、昨日俺におにぎり作ってくれたコンシェルジュだ。やっぱりあいつと洋は知り合いだった。俺の思っていた通りだった。
「分かるよ。そいつのことなら知っている」
「えっそうなの? 」
「あぁ昨日洋のおにぎり食わしてくれたから」
「あっ!ひもじそうな日本人って安志のことだったのか」
「ぷっ!なんだよそれ!」
「ごめんっ」
洋も笑っていた。泣きながら笑っていた。意外にも、こんな時なのに……お互い微笑みを浮かべることが出来たことに驚いた。
洋は……変わったな。泣いているだけでなく、前向きになった。もう五年前の怯えるだけの洋じゃないんだ。
「ふっ……安志、俺……思いっきり泣いてお前に甘えたらなんだかすっきりしたよ。本当にありがとう」
洋が、泣き晴らした眼を手で擦りながら恥ずかしそうに微笑んでいた。その甘い表情になんともいえない気持ちが込み上げてくる。
「そいつを紹介してくれ、手伝って欲しいことがある」
「分かった。安志、俺にも考えがある」
「洋に?」
「あぁ……明日俺は予定通り、重役の部屋へ行くよ」
「えっ! 何を言って……」
信じられない。そんな危険なことをお前にさせられるか! そう思うのに、洋は俺の手をそっと握って優しく微笑んできた。
「安志、大丈夫だよ。抱かれにいくわけじゃない。さっきは俺は動揺していた。冷静になってやるべきことが見えてきたよ」
洋はこんな時に、こんな風に微笑むことが出来る奴だったのか。
この年間一体どんな生活をしてきたのだろう。一体何を乗り越えたのだろうか。俺の知らない空白の五年間に、何が洋をこんな風に変えたのか。
「でも、やっぱり俺一人じゃ太刀打ちできない部分があるのも事実だ。そこをKaiと安志で補って欲しい」
「洋……お前……」
「んっ?」
「いや、なんだか男らしくなったな。なんだか前よりずっと」
洋はその柔らかい漆黒の髪をふわりと揺らし、清らかに静かに微笑んだ。
「うん……そうかな。そうかもしれない。安志……この五年間で俺は本当にいろいろなことを経験したよ。一つだけ学んだのは逃げないということ。この現実から目を背けず、自分が進むべき道を信じて歩むだけだよ」
「そうか……そうなのか。じゃあ洋、俺も迷わない。お前を全力でサポートするよ」
「ありがとう、もう時間だ。戻らないと。詳しくはまた夜にな。本当にありがとう。さっきは取り乱して泣いたりしてごめん。勇気と元気を、お前から分けてもらえたよ」
そう言いながら…階段を軽やかに駆け降りていく洋の背中に逞しさ感じた。もう以前のように儚げな悲壮感は漂っていなかった。
洋が逞しくなったのは嬉しいことでもあり少しだけ寂しいことでもあったが、それでもさっき俺の胸で、俺を頼り、泣きじゃくってくれた。あの姿を見せてくれたことが嬉しかった。
幼馴染として友として、お前を助ける側に……これからも居ていいと言われたような気がして。
頼ってもらった。甘えてもらった。もうそれだけで十分だ。
洋、こちらこそありがとう。
俺もその後姿を見送った後、一人階段を静かに降りた。途中でふと涼のことを思い出し、スマホの画像をまた開いてしまった。
写真の中で、明るく微笑む涼に早く伝えたい。
涼……君の従兄弟の洋はすごく心が強くなっていたよ。
俺もようやく洋への恋心を完全に手放す時がきたようだ。
さっき洋は必死に俺に助けを求めてくれた。恋人の丈に見せることが出来ない洋の取り乱した姿をしっかりと俺にだけは見せてくれたのだから……もう本当に満足だ。
これでいい。これがいい。
明日の夜が過ぎ、すべて解決したら、涼、君のことをきちんと伝えようと思っている。
決戦は明日だ。
もう少しだけ待っていてくれ。
小さな声で洋が何か呟いた。
「洋、頼れそうな奴が誰かいるんだな。教えてくれ」
「……Kaiなら」
kaiっていうのは、聞き覚えがある。そうだ、昨日俺におにぎり作ってくれたコンシェルジュだ。やっぱりあいつと洋は知り合いだった。俺の思っていた通りだった。
「分かるよ。そいつのことなら知っている」
「えっそうなの? 」
「あぁ昨日洋のおにぎり食わしてくれたから」
「あっ!ひもじそうな日本人って安志のことだったのか」
「ぷっ!なんだよそれ!」
「ごめんっ」
洋も笑っていた。泣きながら笑っていた。意外にも、こんな時なのに……お互い微笑みを浮かべることが出来たことに驚いた。
洋は……変わったな。泣いているだけでなく、前向きになった。もう五年前の怯えるだけの洋じゃないんだ。
「ふっ……安志、俺……思いっきり泣いてお前に甘えたらなんだかすっきりしたよ。本当にありがとう」
洋が、泣き晴らした眼を手で擦りながら恥ずかしそうに微笑んでいた。その甘い表情になんともいえない気持ちが込み上げてくる。
「そいつを紹介してくれ、手伝って欲しいことがある」
「分かった。安志、俺にも考えがある」
「洋に?」
「あぁ……明日俺は予定通り、重役の部屋へ行くよ」
「えっ! 何を言って……」
信じられない。そんな危険なことをお前にさせられるか! そう思うのに、洋は俺の手をそっと握って優しく微笑んできた。
「安志、大丈夫だよ。抱かれにいくわけじゃない。さっきは俺は動揺していた。冷静になってやるべきことが見えてきたよ」
洋はこんな時に、こんな風に微笑むことが出来る奴だったのか。
この年間一体どんな生活をしてきたのだろう。一体何を乗り越えたのだろうか。俺の知らない空白の五年間に、何が洋をこんな風に変えたのか。
「でも、やっぱり俺一人じゃ太刀打ちできない部分があるのも事実だ。そこをKaiと安志で補って欲しい」
「洋……お前……」
「んっ?」
「いや、なんだか男らしくなったな。なんだか前よりずっと」
洋はその柔らかい漆黒の髪をふわりと揺らし、清らかに静かに微笑んだ。
「うん……そうかな。そうかもしれない。安志……この五年間で俺は本当にいろいろなことを経験したよ。一つだけ学んだのは逃げないということ。この現実から目を背けず、自分が進むべき道を信じて歩むだけだよ」
「そうか……そうなのか。じゃあ洋、俺も迷わない。お前を全力でサポートするよ」
「ありがとう、もう時間だ。戻らないと。詳しくはまた夜にな。本当にありがとう。さっきは取り乱して泣いたりしてごめん。勇気と元気を、お前から分けてもらえたよ」
そう言いながら…階段を軽やかに駆け降りていく洋の背中に逞しさ感じた。もう以前のように儚げな悲壮感は漂っていなかった。
洋が逞しくなったのは嬉しいことでもあり少しだけ寂しいことでもあったが、それでもさっき俺の胸で、俺を頼り、泣きじゃくってくれた。あの姿を見せてくれたことが嬉しかった。
幼馴染として友として、お前を助ける側に……これからも居ていいと言われたような気がして。
頼ってもらった。甘えてもらった。もうそれだけで十分だ。
洋、こちらこそありがとう。
俺もその後姿を見送った後、一人階段を静かに降りた。途中でふと涼のことを思い出し、スマホの画像をまた開いてしまった。
写真の中で、明るく微笑む涼に早く伝えたい。
涼……君の従兄弟の洋はすごく心が強くなっていたよ。
俺もようやく洋への恋心を完全に手放す時がきたようだ。
さっき洋は必死に俺に助けを求めてくれた。恋人の丈に見せることが出来ない洋の取り乱した姿をしっかりと俺にだけは見せてくれたのだから……もう本当に満足だ。
これでいい。これがいい。
明日の夜が過ぎ、すべて解決したら、涼、君のことをきちんと伝えようと思っている。
決戦は明日だ。
もう少しだけ待っていてくれ。
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