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第5章
すぐ傍にいる 7
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「丈……いないのか」
リビングを見渡すが気配はない。すぐにダイニングテーブルにメモが置かれていることに気が付いた。
『洋おはよう。急患が入ったので出かけるよ。悪いな。朝食しっかり食べてから行け。夕食に作ったものだが冷蔵庫に入れてある』
急患か。昨日は俺の方から誘ったのに寝落ちしてしまって、丈に我慢させてしまったかと心配した。昨日のお詫びはまた夜にかな。そう思うと俺の心の中にも期待に満ちた甘いものが込み上げて下半身が疼くのを感じてしまった。うわっ……こんなことを朝から考えてしまうなんて、きっと昨日のあのキスのせいだ。そう納得させ、シャワーを浴びてからキッチンへ向かった。
「昨日は和食を用意してくれていたのか」
冷蔵庫には焼き鮭や野菜の煮びたしなどが皿に盛りつけられ綺麗に並べられていた。そして炊飯器にはごはんが沢山残っていた。
丈らしいな。綺麗で彩りもいい。医師らしく栄養のバランスをいつも気を付けてくれている。君は俺の最高の恋人だよ。
確か今日はスミス氏はソウル在住のアメリカ人の友人とのプライベートな約束が入っているので、ランチはフリーなはずだ。通訳不要だもんな。
よしっ久しぶりに弁当を持っていこう。焼き鮭を見た時から思っていたんだ……あのおにぎりが食べたいと。卵焼きを手際よく焼いて、鮭と合わせて一つのおにぎりへと握っていく。Kaiの分も一緒に作ってやる。
懐かしいな……あれは高校時代だったな。
安志から分けてもらったおにぎりに母の味を思い出して、屋上で泣いてしまったのは。そんな俺を見かねて、優しい安志が家に連れて行ってくれて、おにぎりを習わせてくれて、あの時……安志のお母さん、優しかったな。母と同じ匂いがして。
だから料理が苦手な俺でも……このおにぎりだけは自信を持って作れるようになった。初めて安志に俺が作ったおにぎりを渡した時、あいつ泣きそうな程嬉しそうな顔をしてくれて、そんな優しい幼馴染が今でも大好きだ。
おかしいな。なんだかここ数日、よく安志のことを思い出す。無性に会いたくてたまらない。あの日から五年だ。お前は今どこで何をしているのか。なんだか、すぐ傍にいるような気がするのは何故だろう。
「おーい洋、迎えに来てやったぞ!」
車のクラクションと共にKaiの声が聞こえて来たので、慌ててランチボックスを鞄に詰め込んで外に出た。
「Kai悪いな。今日も迎えに来てもらって。夜勤じゃなかったのか」
「いや夜勤ではなかったよ。でもさ、帰ろうとおもったらひもじそうな日本人を見かけて、夜食作ってやったから思ったより遅くなってしまったから、ちょっと眠いよ」
「何それ? ひもじそうな日本人って」
Kaiの口調がおかしくて、思わず笑ってしまった。
「あぁ仕事で来ているらしく夕食を食べ損ねて、腹ペコって死にそうって顔をしていたからさ」
「ふふっなんか可愛いな」
「可愛いって洋、たぶんお前と同じ年くらいの奴だぜ。そいつ」
「あっそうなのか」
「なぁそれよりその鞄いつもより膨らんでいるぞ? 何入れて来た? 」
運転しながらKaiが興味津々に尋ねてくる。そういえばKaiにも以前このおにぎりつくってあげたら気に入ってくれて、作り方をしつこく聞かれ家にまで押しかけてきて大変だったな。まぁそのお陰でもKaiも今では俺並みに美味しく作れるようになったのだが。
「昼になったら分かるよ」
「なんだよー」
「そういえばその日本人に夜食って、一体何を作った? 」
「うっ……それは秘密だ! 厨房に見つかったら怒られるからな」
「何? 俺、秘密守るよ」
「言うなよ~例のおにぎりだ」
「おにぎり? 」
「あぁ洋、直伝のな」
「えーっお前あんなのお客さんに勝手に出したのか」
「ばれたらクビだ」
「……しょうがない……俺達だけの秘密にしておこう」
「そうしてくれ~洋さまさま!」
「ぷっ」
Kaiがふざけてすがるような眼で見つめてくるので、噴き出してしまった。
それにしても俺が伝えたあのおにぎりを食べた日本人がホテルにいるのか。不思議な感じだ。その人、具が二つも入っているから驚いただろうな。そんなことを考えていると、どんどん目も覚めて、前向きな気持ちになってきた。
「Kai今日も1日頑張ろう! 」
「おお! 今日もしっかりサポートするぜ」
リビングを見渡すが気配はない。すぐにダイニングテーブルにメモが置かれていることに気が付いた。
『洋おはよう。急患が入ったので出かけるよ。悪いな。朝食しっかり食べてから行け。夕食に作ったものだが冷蔵庫に入れてある』
急患か。昨日は俺の方から誘ったのに寝落ちしてしまって、丈に我慢させてしまったかと心配した。昨日のお詫びはまた夜にかな。そう思うと俺の心の中にも期待に満ちた甘いものが込み上げて下半身が疼くのを感じてしまった。うわっ……こんなことを朝から考えてしまうなんて、きっと昨日のあのキスのせいだ。そう納得させ、シャワーを浴びてからキッチンへ向かった。
「昨日は和食を用意してくれていたのか」
冷蔵庫には焼き鮭や野菜の煮びたしなどが皿に盛りつけられ綺麗に並べられていた。そして炊飯器にはごはんが沢山残っていた。
丈らしいな。綺麗で彩りもいい。医師らしく栄養のバランスをいつも気を付けてくれている。君は俺の最高の恋人だよ。
確か今日はスミス氏はソウル在住のアメリカ人の友人とのプライベートな約束が入っているので、ランチはフリーなはずだ。通訳不要だもんな。
よしっ久しぶりに弁当を持っていこう。焼き鮭を見た時から思っていたんだ……あのおにぎりが食べたいと。卵焼きを手際よく焼いて、鮭と合わせて一つのおにぎりへと握っていく。Kaiの分も一緒に作ってやる。
懐かしいな……あれは高校時代だったな。
安志から分けてもらったおにぎりに母の味を思い出して、屋上で泣いてしまったのは。そんな俺を見かねて、優しい安志が家に連れて行ってくれて、おにぎりを習わせてくれて、あの時……安志のお母さん、優しかったな。母と同じ匂いがして。
だから料理が苦手な俺でも……このおにぎりだけは自信を持って作れるようになった。初めて安志に俺が作ったおにぎりを渡した時、あいつ泣きそうな程嬉しそうな顔をしてくれて、そんな優しい幼馴染が今でも大好きだ。
おかしいな。なんだかここ数日、よく安志のことを思い出す。無性に会いたくてたまらない。あの日から五年だ。お前は今どこで何をしているのか。なんだか、すぐ傍にいるような気がするのは何故だろう。
「おーい洋、迎えに来てやったぞ!」
車のクラクションと共にKaiの声が聞こえて来たので、慌ててランチボックスを鞄に詰め込んで外に出た。
「Kai悪いな。今日も迎えに来てもらって。夜勤じゃなかったのか」
「いや夜勤ではなかったよ。でもさ、帰ろうとおもったらひもじそうな日本人を見かけて、夜食作ってやったから思ったより遅くなってしまったから、ちょっと眠いよ」
「何それ? ひもじそうな日本人って」
Kaiの口調がおかしくて、思わず笑ってしまった。
「あぁ仕事で来ているらしく夕食を食べ損ねて、腹ペコって死にそうって顔をしていたからさ」
「ふふっなんか可愛いな」
「可愛いって洋、たぶんお前と同じ年くらいの奴だぜ。そいつ」
「あっそうなのか」
「なぁそれよりその鞄いつもより膨らんでいるぞ? 何入れて来た? 」
運転しながらKaiが興味津々に尋ねてくる。そういえばKaiにも以前このおにぎりつくってあげたら気に入ってくれて、作り方をしつこく聞かれ家にまで押しかけてきて大変だったな。まぁそのお陰でもKaiも今では俺並みに美味しく作れるようになったのだが。
「昼になったら分かるよ」
「なんだよー」
「そういえばその日本人に夜食って、一体何を作った? 」
「うっ……それは秘密だ! 厨房に見つかったら怒られるからな」
「何? 俺、秘密守るよ」
「言うなよ~例のおにぎりだ」
「おにぎり? 」
「あぁ洋、直伝のな」
「えーっお前あんなのお客さんに勝手に出したのか」
「ばれたらクビだ」
「……しょうがない……俺達だけの秘密にしておこう」
「そうしてくれ~洋さまさま!」
「ぷっ」
Kaiがふざけてすがるような眼で見つめてくるので、噴き出してしまった。
それにしても俺が伝えたあのおにぎりを食べた日本人がホテルにいるのか。不思議な感じだ。その人、具が二つも入っているから驚いただろうな。そんなことを考えていると、どんどん目も覚めて、前向きな気持ちになってきた。
「Kai今日も1日頑張ろう! 」
「おお! 今日もしっかりサポートするぜ」
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