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第5章
暁の星 11
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「もうこんな時間か」
昼休みにおにぎり片手にスマホを急いでチェックする。プライベートなスマホなので滅多に着信もメールも来ないが、涼と付き合いだしてからは俺にとって特別なアイテムになっている。
『新着メール1件』
その表示に胸が躍り開封してみると、やはり涼からだった。
『安志さん……今日仕事何時に終わる? 会社の近くまで行ってもいいかな』
今日から涼も大学の授業が始まって忙しくなるだろうから、俺も出張の準備でもしようと納得させ会わないつもりだったのに、これはかなり嬉しいサプライズだ。
わざわざ家と反対方向の俺の会社まで来てくれるなんて、その気持ちが嬉しい。午後も思いっきり頑張れそうだ。
「さぁいくぞ」
午後は警備の仕事が入っていたのでネクタイをきゅっと締め直し、同僚に声を掛けた。
****
少しだけ仕事が長引いて退社するのが遅くなってしまい慌てて降りたロビーを見まわすが涼の姿がなかった。でも外に出てみると、道路の向こうのガードレールにもたれている涼を見つけることが出来た。
スタイルのよい長い足を投げ出し、ラフなジーンズにリュック姿でガードレールにもたれる姿は、まるでモデルのようで、そこだけスポットライトで照らされているように別世界だった。
信号が変わるまでの時間が、長く感じる。
「涼、待たせたな」
「安志さん!突然来てごめん。仕事忙しかったんじゃない? 」
「涼に会えると思ったから、ものすごい勢いで終わらせてきた。気合い入ったよ」
「よかった! 」
「何かあったのか」
「んっ……そうだね。少し歩こうか。ここじゃ」
「あぁそうだな」
すでに日は短くなり薄暗い中、涼と並んで横浜の街を歩いていく。モデルのように綺麗な涼の隣に俺みたいな凡人の……洒落っ気のないスーツ姿の男が歩くのは申し訳ない。
道行く人は、涼の美しさに目を奪われているのにさ。
「安志さん、僕なんかと歩くの嫌じゃない? 」
「えっなんで? 」
「だって安志さん、スーツ姿が大人っぽくてとても素敵だから。僕はすごく自分が子供っぽいって……さっき思ったんだ」
「何言ってるんだ、俺は逆のこと思っていたよ」
「逆? 」
「あぁ涼みたいにモデルみたいな綺麗な子の横に、こんなむさくるしいスーツの男がいたんじゃって」
涼がそんな可愛いこと考えているなんてと苦笑しながら答えると、涼は驚いて目を丸くした。
「なんで? 安志さんのスーツ姿……そのアメリカで見たときも素敵だったけど、日本で実際に仕事している姿をさっき目の当たりにして僕、ドキドキした!」
「ぷっ、なんかお互い褒め合ってるな」
「なんか、これって二人の世界だね」
「ははっ、これってイチャついているっていうのか? 」
「そうかも! 」
涼が屈託のない顔で笑うので、つられて笑ってしまった。
「安志さんと写真を撮りたい」
涼が唐突にそんなこと言うので、少し驚いてしまった。
「写真? 」
「安志さんもうすぐ出張に行ってしまうから寂しく思って……それで無性に写真が撮りたくなって、ここまで来たんだよ」
「おー俺なんかでいいのか」
「当たり前だよ。安志さんの写真が欲しい」
「そっそうか」
写真なんて改めて撮ったことなんてほとんどないし。写真うつり悪いんだよな。涼をがっかりさせないといいけど。でも、そんな可愛いことを言い出してくれる涼のことを今すぐ抱きしめたくなった。
「涼、じゃあせっかくだから横浜らしい夜景が見えるところに行こうよ」
元町の商店街を突き抜け、急な坂道をのぼっていく。木々が生い茂る小道からは横浜の夜景がちらちらと見えて来た。宝石をちりばめたような夜景が心に華を添えてくれる。
坂を登り切れば「※港の見える丘公園」だ。
※横浜港を見下ろす小高い丘にある公園。横浜ベイブリッジを望む絶好のビューポイントです。港の見える丘公園は、横浜でも有数のバラの名所。イングリッシュローズをテーマに一年草と宿根草との混植のガーデンとなり、四季を通していろいろなバラや草花が咲き競います。春と秋にはローズガーデンも見頃。
「なんだか甘い匂いがするな」
秋風に漂って届くのは薔薇の香か……こんな風に香りを気にしたことなんてなかったのに、涼と歩くと全てが新鮮だ。
「あっほら薔薇園があるんだね」
「あぁそうえいばこっちに」
自然に涼の手を引いていた。
もう暗がりだし、辺りはカップルだらけで、周りのことなんて誰も気にしていないようだから。涼も嫌がる素振りもなく、素直に付いてきてくれる。
「わぁこれ綺麗だ!」
二人して月の光を受けたような淡い黄色い薔薇に目が留まった。
「ローズヨコハマという名前なんだね」
急に甘酸っぱいような切ない想いが込み上げてきて、月光のような薔薇の前に立つ涼のことを、思わずふわっと抱きしめてしまった。
「安志さん?」
「ごめん、なんか幸せすぎてさ」
「うん、僕もそう思った。ここで写真を撮ろうか」
「あぁそうしよう」
昼休みにおにぎり片手にスマホを急いでチェックする。プライベートなスマホなので滅多に着信もメールも来ないが、涼と付き合いだしてからは俺にとって特別なアイテムになっている。
『新着メール1件』
その表示に胸が躍り開封してみると、やはり涼からだった。
『安志さん……今日仕事何時に終わる? 会社の近くまで行ってもいいかな』
今日から涼も大学の授業が始まって忙しくなるだろうから、俺も出張の準備でもしようと納得させ会わないつもりだったのに、これはかなり嬉しいサプライズだ。
わざわざ家と反対方向の俺の会社まで来てくれるなんて、その気持ちが嬉しい。午後も思いっきり頑張れそうだ。
「さぁいくぞ」
午後は警備の仕事が入っていたのでネクタイをきゅっと締め直し、同僚に声を掛けた。
****
少しだけ仕事が長引いて退社するのが遅くなってしまい慌てて降りたロビーを見まわすが涼の姿がなかった。でも外に出てみると、道路の向こうのガードレールにもたれている涼を見つけることが出来た。
スタイルのよい長い足を投げ出し、ラフなジーンズにリュック姿でガードレールにもたれる姿は、まるでモデルのようで、そこだけスポットライトで照らされているように別世界だった。
信号が変わるまでの時間が、長く感じる。
「涼、待たせたな」
「安志さん!突然来てごめん。仕事忙しかったんじゃない? 」
「涼に会えると思ったから、ものすごい勢いで終わらせてきた。気合い入ったよ」
「よかった! 」
「何かあったのか」
「んっ……そうだね。少し歩こうか。ここじゃ」
「あぁそうだな」
すでに日は短くなり薄暗い中、涼と並んで横浜の街を歩いていく。モデルのように綺麗な涼の隣に俺みたいな凡人の……洒落っ気のないスーツ姿の男が歩くのは申し訳ない。
道行く人は、涼の美しさに目を奪われているのにさ。
「安志さん、僕なんかと歩くの嫌じゃない? 」
「えっなんで? 」
「だって安志さん、スーツ姿が大人っぽくてとても素敵だから。僕はすごく自分が子供っぽいって……さっき思ったんだ」
「何言ってるんだ、俺は逆のこと思っていたよ」
「逆? 」
「あぁ涼みたいにモデルみたいな綺麗な子の横に、こんなむさくるしいスーツの男がいたんじゃって」
涼がそんな可愛いこと考えているなんてと苦笑しながら答えると、涼は驚いて目を丸くした。
「なんで? 安志さんのスーツ姿……そのアメリカで見たときも素敵だったけど、日本で実際に仕事している姿をさっき目の当たりにして僕、ドキドキした!」
「ぷっ、なんかお互い褒め合ってるな」
「なんか、これって二人の世界だね」
「ははっ、これってイチャついているっていうのか? 」
「そうかも! 」
涼が屈託のない顔で笑うので、つられて笑ってしまった。
「安志さんと写真を撮りたい」
涼が唐突にそんなこと言うので、少し驚いてしまった。
「写真? 」
「安志さんもうすぐ出張に行ってしまうから寂しく思って……それで無性に写真が撮りたくなって、ここまで来たんだよ」
「おー俺なんかでいいのか」
「当たり前だよ。安志さんの写真が欲しい」
「そっそうか」
写真なんて改めて撮ったことなんてほとんどないし。写真うつり悪いんだよな。涼をがっかりさせないといいけど。でも、そんな可愛いことを言い出してくれる涼のことを今すぐ抱きしめたくなった。
「涼、じゃあせっかくだから横浜らしい夜景が見えるところに行こうよ」
元町の商店街を突き抜け、急な坂道をのぼっていく。木々が生い茂る小道からは横浜の夜景がちらちらと見えて来た。宝石をちりばめたような夜景が心に華を添えてくれる。
坂を登り切れば「※港の見える丘公園」だ。
※横浜港を見下ろす小高い丘にある公園。横浜ベイブリッジを望む絶好のビューポイントです。港の見える丘公園は、横浜でも有数のバラの名所。イングリッシュローズをテーマに一年草と宿根草との混植のガーデンとなり、四季を通していろいろなバラや草花が咲き競います。春と秋にはローズガーデンも見頃。
「なんだか甘い匂いがするな」
秋風に漂って届くのは薔薇の香か……こんな風に香りを気にしたことなんてなかったのに、涼と歩くと全てが新鮮だ。
「あっほら薔薇園があるんだね」
「あぁそうえいばこっちに」
自然に涼の手を引いていた。
もう暗がりだし、辺りはカップルだらけで、周りのことなんて誰も気にしていないようだから。涼も嫌がる素振りもなく、素直に付いてきてくれる。
「わぁこれ綺麗だ!」
二人して月の光を受けたような淡い黄色い薔薇に目が留まった。
「ローズヨコハマという名前なんだね」
急に甘酸っぱいような切ない想いが込み上げてきて、月光のような薔薇の前に立つ涼のことを、思わずふわっと抱きしめてしまった。
「安志さん?」
「ごめん、なんか幸せすぎてさ」
「うん、僕もそう思った。ここで写真を撮ろうか」
「あぁそうしよう」
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