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第5章
暁の星 7
しおりを挟む「洋、ずっと一緒だ」
太陽の光が降り注ぐ中、俺たちは誓いのキスを交わした。
ごく自然にそれは交わされた。
俺は初めて大勢の人前で丈とキスをした。
アメリカという自由の国が、俺の心をほぐしてくれたのか……こんな風に自然に受け入れられるなんて、だが腰を抱かれ深まっていく丈のキスに少し戸惑い、唇をずらし丈に囁く。
「丈っもう離れろよ」
「もう少しだけ……」
「んっ」
これ以上は恥ずかしいので、丈を突き飛ばそうとした途端、周りから温かい拍手が聞こえて来た。
「えっ」
飛び交うのは周りの人々からの祝福のメッセージ
「Congratulations on your marriage!」(結婚おめでとう!)
「Please become happy.」(どうぞ幸せに)
「A beautiful person.」(美しい人!)
えっなんで……結婚…って?
最初はその声に戸惑ったが、徐々に見ず知らずの人たちからの温かい言葉に胸が熱くなってきた。
「丈っこれって……」
見上げると、丈は余裕の笑みだった。
「洋、私たちの様子が結婚式に見えたようだな」
「そんなっ」
恥ずかしい! 恥ずかしくて消えたいくらいだ。
俺が顔を赤くしていると、老夫婦が声をかけて来た。
「Do you have a wedding ring?」(結婚指輪持っているの? 」
「No, I don't have it.」(いいえ……)
「Then use this.」 (じゃあ、これを使いなさい)
見ると老婦人はお孫さんらしき少女と手をつないでいた。さらりと……その少女の金髪のポニーテールを結わいていたブルーのリボンを解いて、丈の手の平に乗せてくれた。
「Something Four」(※サムシング・フォーよ)
※結婚式における欧米の慣習。結婚式で花嫁が以下の4つのものを身につけると幸せになれるというもの。
なにかひとつ古いもの (Something Old)
なにかひとつ新しいもの (Something New)
なにかひとつ借りたもの (Something Borrowed)
なにかひとつ青いもの (Something Blue)
「You seem very happy.I'm seeing and feel good.」(あなたたちはとても幸せそうで、見ていて気持ちいいわ)
「Thank you .」(ありがとうございます)
風にそよぐブルーのリボンを見つめると、昔母から聞いたことを思い出す。聖母マリアのシンボルカラーである青、つまり純潔を表していると。
「洋、良かったな」
丈がそのリボンを俺の薬指にきゅっと結んでくれる。包帯を巻くかのように器用な手つきだった。
「丈っ! 俺……」
「洋は結んでくれないのか」
周りからも期待に満ちた視線を感じるので、観念して俺も丈の薬指にたどたどしくリボンを巻いていった。
青いリボンがまるで運命の赤い糸のように、俺と丈をつないでいく。
「Forever Happy.」(いつまでもお幸せに)
小さな少女が曇りのない眼で、俺たちを見つめてくれる。
「Congratulations to both of you. Wishing you much love to fill your journey. 」(お二人とも、おめでとう! これからの旅が愛にあふれたものでありますように。)
隣にいた老紳士が柔和な笑みで言葉をかけてくれ、老婦人がお祝いのメッセージと共に、俺と丈をハグしてくれた。
「Live,Love,Lough,and be Happy! 」(一生懸命生きて、愛して、笑って、幸せになってね! )
周りからの拍手に涙が込み上げてきた。一生こんな体験出来ないと思っていた。
こんな風に丈と俺のことを祝福してもらえるなんて!
見ず知らずの人から温かいメッセージをもらえるなんて!
今日という日を一生、心に刻んでいこう。
恥ずかしいセリフだが、感極まって素直に口に出来たよ。
「この先、俺は一生懸命生きて、丈を愛して、そして前をみて微笑み合えるように努力するよ」
「洋、ずっと愛してるよ」
ブルーのリボンを結んだ指を絡ませながら、もう一度俺たちが抱き合うと、拍手の音が鳴り響き、爽やかな海風が吹き抜けていった。
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