重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
263 / 1,657
第5章

暁の星 7

しおりを挟む
 
「洋、ずっと一緒だ」

 太陽の光が降り注ぐ中、俺たちは誓いのキスを交わした。
 ごく自然にそれは交わされた。

 俺は初めて大勢の人前で丈とキスをした。

 アメリカという自由の国が、俺の心をほぐしてくれたのか……こんな風に自然に受け入れられるなんて、だが腰を抱かれ深まっていく丈のキスに少し戸惑い、唇をずらし丈に囁く。

「丈っもう離れろよ」
「もう少しだけ……」
「んっ」

 これ以上は恥ずかしいので、丈を突き飛ばそうとした途端、周りから温かい拍手が聞こえて来た。

「えっ」

飛び交うのは周りの人々からの祝福のメッセージ

「Congratulations on your marriage!」(結婚おめでとう!)
「Please become happy.」(どうぞ幸せに)
「A beautiful person.」(美しい人!)

 えっなんで……結婚…って?

 最初はその声に戸惑ったが、徐々に見ず知らずの人たちからの温かい言葉に胸が熱くなってきた。

「丈っこれって……」

 見上げると、丈は余裕の笑みだった。

「洋、私たちの様子が結婚式に見えたようだな」
「そんなっ」

 恥ずかしい! 恥ずかしくて消えたいくらいだ。
 俺が顔を赤くしていると、老夫婦が声をかけて来た。

「Do you have a wedding ring?」(結婚指輪持っているの? 」
「No, I don't have it.」(いいえ……)
「Then use this.」 (じゃあ、これを使いなさい)

 見ると老婦人はお孫さんらしき少女と手をつないでいた。さらりと……その少女の金髪のポニーテールを結わいていたブルーのリボンを解いて、丈の手の平に乗せてくれた。

「Something Four」(※サムシング・フォーよ)

※結婚式における欧米の慣習。結婚式で花嫁が以下の4つのものを身につけると幸せになれるというもの。
 なにかひとつ古いもの (Something Old)
 なにかひとつ新しいもの (Something New)
 なにかひとつ借りたもの (Something Borrowed)
 なにかひとつ青いもの (Something Blue)

「You seem very happy.I'm seeing and feel good.」(あなたたちはとても幸せそうで、見ていて気持ちいいわ)
「Thank you .」(ありがとうございます)

 風にそよぐブルーのリボンを見つめると、昔母から聞いたことを思い出す。聖母マリアのシンボルカラーである青、つまり純潔を表していると。

「洋、良かったな」

 丈がそのリボンを俺の薬指にきゅっと結んでくれる。包帯を巻くかのように器用な手つきだった。

「丈っ! 俺……」
「洋は結んでくれないのか」

 周りからも期待に満ちた視線を感じるので、観念して俺も丈の薬指にたどたどしくリボンを巻いていった。
 
 青いリボンがまるで運命の赤い糸のように、俺と丈をつないでいく。

「Forever Happy.」(いつまでもお幸せに)

 小さな少女が曇りのない眼で、俺たちを見つめてくれる。

「Congratulations to both of you. Wishing you much love to fill your journey. 」(お二人とも、おめでとう! これからの旅が愛にあふれたものでありますように。)

 隣にいた老紳士が柔和な笑みで言葉をかけてくれ、老婦人がお祝いのメッセージと共に、俺と丈をハグしてくれた。

「Live,Love,Lough,and be Happy! 」(一生懸命生きて、愛して、笑って、幸せになってね! )

 周りからの拍手に涙が込み上げてきた。一生こんな体験出来ないと思っていた。

 こんな風に丈と俺のことを祝福してもらえるなんて!
 見ず知らずの人から温かいメッセージをもらえるなんて!

 今日という日を一生、心に刻んでいこう。

 恥ずかしいセリフだが、感極まって素直に口に出来たよ。

「この先、俺は一生懸命生きて、丈を愛して、そして前をみて微笑み合えるように努力するよ」
「洋、ずっと愛してるよ」

 ブルーのリボンを結んだ指を絡ませながら、もう一度俺たちが抱き合うと、拍手の音が鳴り響き、爽やかな海風が吹き抜けていった。

しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...