253 / 1,657
第5章
太陽の影 10
しおりを挟む
このドアの向こう側には涼がいる。
俺も会いたい。
涼と話したい。
そんな気持ちを押し隠し、車椅子の義父とKentをドアの先へと見送った。しばらくして室内から和やかな談笑が聞こえてくるのを確認すると、俺は一人また階段を上って部屋に戻った。
この部屋は、義父が用意してくれた丈と俺のための部屋だ。
ふぅ……
深い溜息をつきながら窓辺に腰かけていると、玄関先から声が聞こえて来た。
そっとカーテンの影から覗いてみると、心配で迎えに来たらしい大柄の白人の男の子と涼が微笑みあっている光景が見えた。
きっと涼の同級生かな。なんだか楽しそうにしている。きっと涼には、俺とは違って友達が沢山いるのだろう。昨日のことはショックだったろうが、それを乗り越えられる明るく前向きな力を持っている。
最初に会った時から太陽のように眩しかった涼。だから負けずに頑張れ。
本当に君はあれから随分成長したね。成長するとますます俺に似てきて、まるで双子の片割れような分身のような不思議な存在だ。
実際は太陽と月のように、かけ離れた性格なのに。
俺は涼に会いたいのに会えないもどかしい気持ちを抑えたくて、カーテンの端をきゅっと握りしめて耐えた。
今日ではないだけだ。
きっとまた会える。
涼……君とは縁がある。
ここではない、どこかで会おう。
お互い笑い合って、会いたいんだ。
俺は義父を食い止めることに、今日はエネルギーをだいぶ使ってしまったようだ。
会いたいと願えばきっとまた会える。
あの日、洋月が願ったように……ヨウが願ったように……
****
「洋、どうした?」
部屋に来た丈に問われ、我に返った。
「いや……何でもない」
「ふっそれが何でもない顔か」
「んっそうだな。その……会いたいのに会えないって辛いものだなって」
「あぁ……そうだよ。私もあの時、洋に会えなくて辛かった」
「丈……あの時はごめん、俺ひとりで……勝手に消えようとして」
「もういいんだ。今こうやって一緒にいられるから」
俺は丈の肩に額を押し当て、丈の温かい体温を分けてもらう。
「でも俺には今丈がいる。丈が来てくれて嬉しかった」
「ふっ今日は妙に素直だな」
「だってまさか来てくれると思っていなくて」
「だから? 」
「……嬉しい」
「洋は可愛い奴だな」
丈は俺の背中にその逞しい手を回して、優しく擦ってくれる。
「これからどうする? ここに泊まるのか」
「そうだね、1泊だけしようか」
流石に夜中に来て朝帰るなんてひどいと思い、本当は今すぐにでもこの別荘から出たかったが、丈が一緒ということもあり一泊することを選んだ。その決断には義父もKentも喜んでくれて、夜には一緒にワインを飲んだりした。
義父はすっかり弱くなった。
躰だけじゃなく心が弱くなったのだ。
昔からは信じられないほど俺の言葉一つ一つに反応し、まるで怯えているようだ。俺が邪険に扱うことをに、罪悪感すら感じてしまう。
参ったな……こんなはずじゃなかったのに。人は変わっていくものなのだな。
「じゃあ義父さん、もう寝ます。明日の昼にはここを出るよ」
「洋、ありがとう。来てくれて……丈くん、洋のことをよろしくな、ゆっくり休みなさい」
「……はい」
義父の口からそんな言葉を聞ける日が来るなんて、思いもしなかった。
思えば俺たちは随分遠いところに来ている。
ソウルもアメリカも……日本からは遠い。
部屋に戻って、丈と共にベッドに腰かけた。
「丈……俺たち、今すぐじゃなくていいけれども、いつか日本へ帰ろうか。もう帰ってもいいんだよね」
「そうだな……洋が帰りたいのならそうしよう」
「俺……帰ったら、安志に会いたい。さっき急に思い出したんだ、安志のことを」
「そうだな。安志くんとはあれっきりになってしまって申し訳なかったな。ずっと私も洋がどうするのかが気になっていた」
「全く俺って酷いやつだね。安志の気持ちを受け止めることが出来なかったのが苦しくて、ソウルに送り出してくれたのに……結局、連絡を途絶えさせてしまって。涼のこともあって、会いたい人に会えないって辛いってことが、今日よくわかったよ」
「そうか……」
「安志も俺に今でも会いたいと思っていてくれるかな」
「あぁ、きっと洋の思う通りだよ。大丈夫……上手くいくよ。それより洋、今は少し黙って……」
いつの間にか、丈が俺に口づけをしていた。
慰めるように労わるようなキスからそれは始まった。
俺もそれを受け止め返していく。
「あっ……んっ…」
労りのキスに少しづつ甘い感情が混じり、徐々に深まっていくことに俺は動揺してしまう。
「ちょっと待て……丈っここでは駄目だ。下の部屋には義父とKentがいるのだから」
「洋……私はここで抱きたい」
「えっ」
「駄目か」
俺のことを見つめる丈の眼には、情熱の炎が揺らいでいた。
俺も会いたい。
涼と話したい。
そんな気持ちを押し隠し、車椅子の義父とKentをドアの先へと見送った。しばらくして室内から和やかな談笑が聞こえてくるのを確認すると、俺は一人また階段を上って部屋に戻った。
この部屋は、義父が用意してくれた丈と俺のための部屋だ。
ふぅ……
深い溜息をつきながら窓辺に腰かけていると、玄関先から声が聞こえて来た。
そっとカーテンの影から覗いてみると、心配で迎えに来たらしい大柄の白人の男の子と涼が微笑みあっている光景が見えた。
きっと涼の同級生かな。なんだか楽しそうにしている。きっと涼には、俺とは違って友達が沢山いるのだろう。昨日のことはショックだったろうが、それを乗り越えられる明るく前向きな力を持っている。
最初に会った時から太陽のように眩しかった涼。だから負けずに頑張れ。
本当に君はあれから随分成長したね。成長するとますます俺に似てきて、まるで双子の片割れような分身のような不思議な存在だ。
実際は太陽と月のように、かけ離れた性格なのに。
俺は涼に会いたいのに会えないもどかしい気持ちを抑えたくて、カーテンの端をきゅっと握りしめて耐えた。
今日ではないだけだ。
きっとまた会える。
涼……君とは縁がある。
ここではない、どこかで会おう。
お互い笑い合って、会いたいんだ。
俺は義父を食い止めることに、今日はエネルギーをだいぶ使ってしまったようだ。
会いたいと願えばきっとまた会える。
あの日、洋月が願ったように……ヨウが願ったように……
****
「洋、どうした?」
部屋に来た丈に問われ、我に返った。
「いや……何でもない」
「ふっそれが何でもない顔か」
「んっそうだな。その……会いたいのに会えないって辛いものだなって」
「あぁ……そうだよ。私もあの時、洋に会えなくて辛かった」
「丈……あの時はごめん、俺ひとりで……勝手に消えようとして」
「もういいんだ。今こうやって一緒にいられるから」
俺は丈の肩に額を押し当て、丈の温かい体温を分けてもらう。
「でも俺には今丈がいる。丈が来てくれて嬉しかった」
「ふっ今日は妙に素直だな」
「だってまさか来てくれると思っていなくて」
「だから? 」
「……嬉しい」
「洋は可愛い奴だな」
丈は俺の背中にその逞しい手を回して、優しく擦ってくれる。
「これからどうする? ここに泊まるのか」
「そうだね、1泊だけしようか」
流石に夜中に来て朝帰るなんてひどいと思い、本当は今すぐにでもこの別荘から出たかったが、丈が一緒ということもあり一泊することを選んだ。その決断には義父もKentも喜んでくれて、夜には一緒にワインを飲んだりした。
義父はすっかり弱くなった。
躰だけじゃなく心が弱くなったのだ。
昔からは信じられないほど俺の言葉一つ一つに反応し、まるで怯えているようだ。俺が邪険に扱うことをに、罪悪感すら感じてしまう。
参ったな……こんなはずじゃなかったのに。人は変わっていくものなのだな。
「じゃあ義父さん、もう寝ます。明日の昼にはここを出るよ」
「洋、ありがとう。来てくれて……丈くん、洋のことをよろしくな、ゆっくり休みなさい」
「……はい」
義父の口からそんな言葉を聞ける日が来るなんて、思いもしなかった。
思えば俺たちは随分遠いところに来ている。
ソウルもアメリカも……日本からは遠い。
部屋に戻って、丈と共にベッドに腰かけた。
「丈……俺たち、今すぐじゃなくていいけれども、いつか日本へ帰ろうか。もう帰ってもいいんだよね」
「そうだな……洋が帰りたいのならそうしよう」
「俺……帰ったら、安志に会いたい。さっき急に思い出したんだ、安志のことを」
「そうだな。安志くんとはあれっきりになってしまって申し訳なかったな。ずっと私も洋がどうするのかが気になっていた」
「全く俺って酷いやつだね。安志の気持ちを受け止めることが出来なかったのが苦しくて、ソウルに送り出してくれたのに……結局、連絡を途絶えさせてしまって。涼のこともあって、会いたい人に会えないって辛いってことが、今日よくわかったよ」
「そうか……」
「安志も俺に今でも会いたいと思っていてくれるかな」
「あぁ、きっと洋の思う通りだよ。大丈夫……上手くいくよ。それより洋、今は少し黙って……」
いつの間にか、丈が俺に口づけをしていた。
慰めるように労わるようなキスからそれは始まった。
俺もそれを受け止め返していく。
「あっ……んっ…」
労りのキスに少しづつ甘い感情が混じり、徐々に深まっていくことに俺は動揺してしまう。
「ちょっと待て……丈っここでは駄目だ。下の部屋には義父とKentがいるのだから」
「洋……私はここで抱きたい」
「えっ」
「駄目か」
俺のことを見つめる丈の眼には、情熱の炎が揺らいでいた。
10
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる