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第4章
※安志編※ 太陽の欠片 20
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ーNew life 4ー
大丈夫だよ涼……君が怖がるようなことを、俺は絶対にしない。
耳たぶまで赤く染めた涼はいじらしく可愛くて、このまま青いシーツの上に押し倒してしまいたくなるほど扇情的だ。だがそれでは俺はキャンプの奴らとなんら変わらないことになる。
ゆっくりでいいんだ……キスの先は。こうやって仕事の後に会いたい人がいて、抱きしめられるだけで今はいい。
涼とのキスは気持ちいい……甘く若々しい吐息を、近くに感じられるから。
俺はその日を自然と迎えられるまで我慢する
「安志さん、あの……」
「どうした? 」
「……僕……お腹空いちゃって」
「ははっ」
ははっ涼のやつ。色気がないな。まぁ今日はきっと昼飯も食わずに頑張ったんだろうな。
「涼、弁当買ってきたよ」
「ほんと? 実は昼食べてなくて……」
「やっぱりな、さぁ食べよう。俺も腹減ったよ」
ベッドの上から涼を起こし、散らかっていたテーブルを片付けて和風弁当を二つ並べてやった。
「わぁ和食だ! 日本食、恋しかった」
もぐもぐと美味しそうに食べる涼の姿にほっとする。うん、元気そうだ。美味しそうによく食べるもんだな。そんな健康的な様子に嬉しくなる。
「涼はさ、何歳の時渡米したんだ? 」
「んー小学校に入る歳だったから六歳だったかな」
「それからずっと向こうに? 」
「うん、そうだよ、なんで? 」
「いや……じゃあこっちに知り合いはいないんだな、あっ親戚とかは? 」
「……そうだね。父方の祖父母はもう亡くなったし……母方の方は記憶にないから、多分もう誰もいないと思う。いるとしたら洋兄さんだけだよ。そうだ、安志さんは洋兄さんと同じ中学、高校だったんでしょ? じゃあその卒業した高校に行けば、もしかしたら今の住所わかるんじゃないかな。卒業アルバムある? 高校時代の洋兄さんを見てみたい」
「……洋は高ニで転校したから卒業アルバムには載ってないない」
「高ニで……そうなんだ。転校って何処へ? 」
「アメリカだよ。親父さんの都合で」
「そうか、それでアメリカに来たんだね。洋兄さんのお父さんの話は、我が家ではタブーだったから。母が嫌がってね。アメリカにいる間に、洋兄さんの家に遊びに行ってみたかったけれども、結局どこに住んでいるのか分からなかった。だから洋兄さんのお父さんの顔も見たことないよ。最後に会ったとき日本へ帰って就職するって言っていたのに、あーもっと詳しく聞いておくべきだったな」
「……そうか」
「ねぇ安志さん、なにか手掛かりはない? そうだ、安志さんは五年前に一度会ったんだよね」
「……」
あぁやっぱり駄目だ。洋が今はこの日本にいないことを、ちゃんと話さないといけない。
「涼、すまない」
「なにが?」
「実は……洋はもう今は日本にはいないんだ、涼にも話した通り五年前に再会して、その後別れてから一度も会ってない」
「えっ? なんで……日本にいないなんて、一体何処へ」
「……洋は五年前にとんでもないことに巻き込まれて、それで日本から逃げた」
「一体誰から、何から逃げたの? 洋兄さんにあの後何かあったの? 」
ひどく心配そうに涼が聞いてくるが、この先は……どうしても俺の口からは告げられない。あまりに残酷な内容になってしまうから。
「それが俺の口からは言えないんだ、すまない」
「そんな……日本じゃなかったら、何処に? 」
「最初はソウルに行ったよ。俺が知っているのはそこまでなんだ。最初に滞在したホテルの名前しか知らないんだ」
「そんな……僕、洋兄さんに会いたくて…日本に来ることを選んだのに……ここにいないだなんて! ひどいよ!」
茫然とした表情で、すっかりしょげてしまった涼のことを、俺は抱きしめてやった。すると涼は俺の肩に額を押しあて、うっうっと小さな嗚咽を漏らした。
「涼……泣くなよ。俺が悪かったよ」
どうしよう。涼に泣かれると弱いんだ。嗚咽で震える躰を何度も何度も優しくなでてやる。
「涼、ごめんな。ちゃんと話していなくて。俺も今なら洋に会えそうだ、いや会いたい。涼、お前と一緒にいるところを洋にきちんと見てもらいたいよ」
「……安志さんも会いたい?」
「あぁ今すごく会いたいな。なぁ一緒に洋の行方を探そう」
「本当? 手伝ってくれる? 」
「あぁもちろんだ。その前にまずは大学生活を軌道にのせてからだぞ」
「うん。日本での生活がもう少し落ち着いたら一緒に。あ……でも、安志さんに一つだけ聞いてもいい?」
「洋兄さん、今、幸せだと思う?」
「大丈夫。今はとても幸せに暮らしている」
「……そのセリフ」
「んっ? 」
「いや、なんでもない」
****
そのセリフ……あのサマーキャンプで助けてくれた医師も同じことを言っていた。あの医師が救えなかった人って、まさか……
でも洋兄さんが今幸せだと、確信のこもった安志さんの返事に励まされた。
とにかくまずは明日からの大学生活だ。
そしてそれから僕は必ず洋兄さんを見つけるよ。
安志さんと一緒に会いたい。
切なく哀しい……
僕の心の中の洋兄さんは、あの日フェリーで別れたままなんだ。涙を流しているわけでないのに、涙で濡れたような眼をしていたから。ずっと年上なのに守ってあげたくなる位、儚げだったから……
ずっと気になっている。
僕が前に進むためにも……洋兄さん……会いたいよ。
『太陽の欠片』了
大丈夫だよ涼……君が怖がるようなことを、俺は絶対にしない。
耳たぶまで赤く染めた涼はいじらしく可愛くて、このまま青いシーツの上に押し倒してしまいたくなるほど扇情的だ。だがそれでは俺はキャンプの奴らとなんら変わらないことになる。
ゆっくりでいいんだ……キスの先は。こうやって仕事の後に会いたい人がいて、抱きしめられるだけで今はいい。
涼とのキスは気持ちいい……甘く若々しい吐息を、近くに感じられるから。
俺はその日を自然と迎えられるまで我慢する
「安志さん、あの……」
「どうした? 」
「……僕……お腹空いちゃって」
「ははっ」
ははっ涼のやつ。色気がないな。まぁ今日はきっと昼飯も食わずに頑張ったんだろうな。
「涼、弁当買ってきたよ」
「ほんと? 実は昼食べてなくて……」
「やっぱりな、さぁ食べよう。俺も腹減ったよ」
ベッドの上から涼を起こし、散らかっていたテーブルを片付けて和風弁当を二つ並べてやった。
「わぁ和食だ! 日本食、恋しかった」
もぐもぐと美味しそうに食べる涼の姿にほっとする。うん、元気そうだ。美味しそうによく食べるもんだな。そんな健康的な様子に嬉しくなる。
「涼はさ、何歳の時渡米したんだ? 」
「んー小学校に入る歳だったから六歳だったかな」
「それからずっと向こうに? 」
「うん、そうだよ、なんで? 」
「いや……じゃあこっちに知り合いはいないんだな、あっ親戚とかは? 」
「……そうだね。父方の祖父母はもう亡くなったし……母方の方は記憶にないから、多分もう誰もいないと思う。いるとしたら洋兄さんだけだよ。そうだ、安志さんは洋兄さんと同じ中学、高校だったんでしょ? じゃあその卒業した高校に行けば、もしかしたら今の住所わかるんじゃないかな。卒業アルバムある? 高校時代の洋兄さんを見てみたい」
「……洋は高ニで転校したから卒業アルバムには載ってないない」
「高ニで……そうなんだ。転校って何処へ? 」
「アメリカだよ。親父さんの都合で」
「そうか、それでアメリカに来たんだね。洋兄さんのお父さんの話は、我が家ではタブーだったから。母が嫌がってね。アメリカにいる間に、洋兄さんの家に遊びに行ってみたかったけれども、結局どこに住んでいるのか分からなかった。だから洋兄さんのお父さんの顔も見たことないよ。最後に会ったとき日本へ帰って就職するって言っていたのに、あーもっと詳しく聞いておくべきだったな」
「……そうか」
「ねぇ安志さん、なにか手掛かりはない? そうだ、安志さんは五年前に一度会ったんだよね」
「……」
あぁやっぱり駄目だ。洋が今はこの日本にいないことを、ちゃんと話さないといけない。
「涼、すまない」
「なにが?」
「実は……洋はもう今は日本にはいないんだ、涼にも話した通り五年前に再会して、その後別れてから一度も会ってない」
「えっ? なんで……日本にいないなんて、一体何処へ」
「……洋は五年前にとんでもないことに巻き込まれて、それで日本から逃げた」
「一体誰から、何から逃げたの? 洋兄さんにあの後何かあったの? 」
ひどく心配そうに涼が聞いてくるが、この先は……どうしても俺の口からは告げられない。あまりに残酷な内容になってしまうから。
「それが俺の口からは言えないんだ、すまない」
「そんな……日本じゃなかったら、何処に? 」
「最初はソウルに行ったよ。俺が知っているのはそこまでなんだ。最初に滞在したホテルの名前しか知らないんだ」
「そんな……僕、洋兄さんに会いたくて…日本に来ることを選んだのに……ここにいないだなんて! ひどいよ!」
茫然とした表情で、すっかりしょげてしまった涼のことを、俺は抱きしめてやった。すると涼は俺の肩に額を押しあて、うっうっと小さな嗚咽を漏らした。
「涼……泣くなよ。俺が悪かったよ」
どうしよう。涼に泣かれると弱いんだ。嗚咽で震える躰を何度も何度も優しくなでてやる。
「涼、ごめんな。ちゃんと話していなくて。俺も今なら洋に会えそうだ、いや会いたい。涼、お前と一緒にいるところを洋にきちんと見てもらいたいよ」
「……安志さんも会いたい?」
「あぁ今すごく会いたいな。なぁ一緒に洋の行方を探そう」
「本当? 手伝ってくれる? 」
「あぁもちろんだ。その前にまずは大学生活を軌道にのせてからだぞ」
「うん。日本での生活がもう少し落ち着いたら一緒に。あ……でも、安志さんに一つだけ聞いてもいい?」
「洋兄さん、今、幸せだと思う?」
「大丈夫。今はとても幸せに暮らしている」
「……そのセリフ」
「んっ? 」
「いや、なんでもない」
****
そのセリフ……あのサマーキャンプで助けてくれた医師も同じことを言っていた。あの医師が救えなかった人って、まさか……
でも洋兄さんが今幸せだと、確信のこもった安志さんの返事に励まされた。
とにかくまずは明日からの大学生活だ。
そしてそれから僕は必ず洋兄さんを見つけるよ。
安志さんと一緒に会いたい。
切なく哀しい……
僕の心の中の洋兄さんは、あの日フェリーで別れたままなんだ。涙を流しているわけでないのに、涙で濡れたような眼をしていたから。ずっと年上なのに守ってあげたくなる位、儚げだったから……
ずっと気になっている。
僕が前に進むためにも……洋兄さん……会いたいよ。
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