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第4章
※安志編※ 太陽の欠片 17
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ーNew life 1ー
涼からsummer camp の出来事を聞いて、ぞっとした。
どうしてもあの日救えなかった洋のことが脳裏に過ってしまう。振り払っても振り払っても、まるで残像のように湧き上がってくる。
高校時代、ロッカールームで洋が上半身を剥かれ呆然と蹲る姿。社会人になって再会した後に起きてしまった大事件。あの携帯に送り付けられていた写真。育ての父に犯されてしまった洋の苦しみはどこまでも深く暗黒だった。
俺の涼は絶対にそんな目に遭わせたくない。
涼はまだ知らない。洋に襲い掛かった数々の悲しい出来事。だから危機感が薄かったことを責めるわけにいかない。
本当に、とにかく無事でよかった。それにしても涼を助けてくれた医師って、まさかあいつなのか。涼も何故か懐かしく落ち着く人だったと言っている。
きっと……おそらく……丈だ。そんな予感がする。
それにしても、なんでタイミングよくアメリカに来ていたのか。偶然なのか……それとも…あっじゃあ洋は? 洋はどこにいる?
あれから連絡を取っていないので、今どこに住んでいる分からないことを悔やんだ。最初に手配したホテルからの移転先を知らない。いや……知ろうとしなかった。
「安志さん、どうしたの?」
潤んで充血した眼を瞬きさせながら涼が俺を見上げてくる。涼が瞬きすると涙がぽとりと零れた。そんな涼を今一度強く抱きしめる。
「いや……なんでもない。あぁ涼、本当に無事でよかった。お前が無事で」
「安志さん……もしかしてさっき洋兄さんのこと思い出していた?」
「あぁ……えっと……なんか、ごめん」
図星を指されてドキッとした。そうだ涼を抱きしめながら洋のこと思い出すなんて、俺はダメな奴だ。
「くすっいいんだよ。安志さん謝らなくても。僕はね……洋兄さんのこと好きだった安志さんが好きなんだよ」
「涼、そんな聞き分けのいいこと言うなよ」
「だって、僕はアメリカで悲しみの湖に沈んでしまったような寂しく物悲しい洋兄さんの孤独を救えなかったから。洋兄さんと僕は従兄弟同士だけど、生まれる前は双子だったんじゃないかって思うほど、まるで自分の片割れのように感じることがあるんだ。不思議だよね。こんな話」
「そうか、そんな風に感じていたのか」
「うん、だからすごく会いたい。今幸せにしているのか確かめたい。僕そうしないと安志さんと前に進めないようなそんな気がして……あっごめん。今でも十分幸せなんだよ。でも心の奥にひっかかることでもあって」
「はぁ涼はどこまでも優しいな」
「そういえばアメリカで僕を助けてくれたお医者さん、すごくカッコよかったよ」
「……」
「それでね、先生にも救えなかった人がいて悔やんでいるみたいだった。だから僕を救えて良かったと本当にほっとした様子だったよ」
「えっ、あいつもそんなこと言っていたのか」
「あいつって? まさか知り合いじゃないよね?」
「……うっ、知らない人だよ」
「うん……でもその救えなかった人が今どう暮らしているのか気になって思わず尋ねてしまったんだ」
「それで?」
「今、とても幸せに暮らしているって」
「そうか」
洋……そうか……よかった。そうだろうな。そう思っていたよ。丈と覚悟の上、旅立っていた洋だから、きっと幸せに暮らしていると信じていた。
「いつか会ってみたいな……俺もその人たちと」
「安志さんもそう思った? 僕も本当にもう一度会いたいって思ったよ。そうしたらその先生もきっと会えるって言ってくれて」
「そうか。さぁそろそろ涼、寝ろよ。今日は疲れただろう」
涼の口からあいつのことばかり出てくると少し面白くなく、不自然に話を遮ってしまった。
「安志さん、もしかして妬いている?」
「何馬鹿なこと言ってんだか、さぁ早く寝ろ」
「あっそうだね。じゃあこのソファ借りるね」
そう言ってソファにゴロンと横になる涼の様子を見ていると心が和んでくる。俺の部屋に涼がいる、夢じゃないんだ。
「涼、ベッドで寝ろよ、俺がソファでいいから」
「えっ?悪いよ」
「いいから」
涼を抱きかかえ、ベッドに下してやると、女の子みたいに横抱きにされて涼の顔は火が付いたように真っ赤になっている。ふっ可愛い。照れているんだな。
「あっ安志さん?」
「何もしないよ。涼が嫌がることは絶対しない。急がない。ゆっくりでいい。涼と俺はこれからゆっくり歩んでいく。時間はやっぷりあるだろ?」
涼のおでこを撫でてやり、そっとキスをした。
「おやすみ涼」
「うん……安志さんありがとう。僕には安志さんだけだよ」
時差の影響もあり疲れていただろう涼は、すぐにうつらうつらしだした。規則正しい安らかな寝息が聞こえてくる。俺は冷蔵庫から缶ビールを取り出しソファに座って、眠りにつく涼のあどけない寝顔をぼんやりと眺めた。
幸せな時間だ。
涼が寝返りを打つと布団がずれてその細い腰が露わになる。
まったく無防備に……俺の気も知らないで。
でも俺はもう間違わない。ゆっくりでいい。時間をかけてでいい。涼のすべてを俺のものにするのは。
それまではこうやって我慢するしかないな。でもそんな相手がいるだけでも幸せだ。俺はもう洋から抜け出せないと思っていたから。
洋を丈に託した後、この先の人生きっと洋以上に好きな人なんて出来ない、きっとこのまま一人で生きていくんだろうと覚悟を決めていた。
涼、こんな俺のところに来てくれてありがとう。
大切にするよ。俺たちの関係。
涼からsummer camp の出来事を聞いて、ぞっとした。
どうしてもあの日救えなかった洋のことが脳裏に過ってしまう。振り払っても振り払っても、まるで残像のように湧き上がってくる。
高校時代、ロッカールームで洋が上半身を剥かれ呆然と蹲る姿。社会人になって再会した後に起きてしまった大事件。あの携帯に送り付けられていた写真。育ての父に犯されてしまった洋の苦しみはどこまでも深く暗黒だった。
俺の涼は絶対にそんな目に遭わせたくない。
涼はまだ知らない。洋に襲い掛かった数々の悲しい出来事。だから危機感が薄かったことを責めるわけにいかない。
本当に、とにかく無事でよかった。それにしても涼を助けてくれた医師って、まさかあいつなのか。涼も何故か懐かしく落ち着く人だったと言っている。
きっと……おそらく……丈だ。そんな予感がする。
それにしても、なんでタイミングよくアメリカに来ていたのか。偶然なのか……それとも…あっじゃあ洋は? 洋はどこにいる?
あれから連絡を取っていないので、今どこに住んでいる分からないことを悔やんだ。最初に手配したホテルからの移転先を知らない。いや……知ろうとしなかった。
「安志さん、どうしたの?」
潤んで充血した眼を瞬きさせながら涼が俺を見上げてくる。涼が瞬きすると涙がぽとりと零れた。そんな涼を今一度強く抱きしめる。
「いや……なんでもない。あぁ涼、本当に無事でよかった。お前が無事で」
「安志さん……もしかしてさっき洋兄さんのこと思い出していた?」
「あぁ……えっと……なんか、ごめん」
図星を指されてドキッとした。そうだ涼を抱きしめながら洋のこと思い出すなんて、俺はダメな奴だ。
「くすっいいんだよ。安志さん謝らなくても。僕はね……洋兄さんのこと好きだった安志さんが好きなんだよ」
「涼、そんな聞き分けのいいこと言うなよ」
「だって、僕はアメリカで悲しみの湖に沈んでしまったような寂しく物悲しい洋兄さんの孤独を救えなかったから。洋兄さんと僕は従兄弟同士だけど、生まれる前は双子だったんじゃないかって思うほど、まるで自分の片割れのように感じることがあるんだ。不思議だよね。こんな話」
「そうか、そんな風に感じていたのか」
「うん、だからすごく会いたい。今幸せにしているのか確かめたい。僕そうしないと安志さんと前に進めないようなそんな気がして……あっごめん。今でも十分幸せなんだよ。でも心の奥にひっかかることでもあって」
「はぁ涼はどこまでも優しいな」
「そういえばアメリカで僕を助けてくれたお医者さん、すごくカッコよかったよ」
「……」
「それでね、先生にも救えなかった人がいて悔やんでいるみたいだった。だから僕を救えて良かったと本当にほっとした様子だったよ」
「えっ、あいつもそんなこと言っていたのか」
「あいつって? まさか知り合いじゃないよね?」
「……うっ、知らない人だよ」
「うん……でもその救えなかった人が今どう暮らしているのか気になって思わず尋ねてしまったんだ」
「それで?」
「今、とても幸せに暮らしているって」
「そうか」
洋……そうか……よかった。そうだろうな。そう思っていたよ。丈と覚悟の上、旅立っていた洋だから、きっと幸せに暮らしていると信じていた。
「いつか会ってみたいな……俺もその人たちと」
「安志さんもそう思った? 僕も本当にもう一度会いたいって思ったよ。そうしたらその先生もきっと会えるって言ってくれて」
「そうか。さぁそろそろ涼、寝ろよ。今日は疲れただろう」
涼の口からあいつのことばかり出てくると少し面白くなく、不自然に話を遮ってしまった。
「安志さん、もしかして妬いている?」
「何馬鹿なこと言ってんだか、さぁ早く寝ろ」
「あっそうだね。じゃあこのソファ借りるね」
そう言ってソファにゴロンと横になる涼の様子を見ていると心が和んでくる。俺の部屋に涼がいる、夢じゃないんだ。
「涼、ベッドで寝ろよ、俺がソファでいいから」
「えっ?悪いよ」
「いいから」
涼を抱きかかえ、ベッドに下してやると、女の子みたいに横抱きにされて涼の顔は火が付いたように真っ赤になっている。ふっ可愛い。照れているんだな。
「あっ安志さん?」
「何もしないよ。涼が嫌がることは絶対しない。急がない。ゆっくりでいい。涼と俺はこれからゆっくり歩んでいく。時間はやっぷりあるだろ?」
涼のおでこを撫でてやり、そっとキスをした。
「おやすみ涼」
「うん……安志さんありがとう。僕には安志さんだけだよ」
時差の影響もあり疲れていただろう涼は、すぐにうつらうつらしだした。規則正しい安らかな寝息が聞こえてくる。俺は冷蔵庫から缶ビールを取り出しソファに座って、眠りにつく涼のあどけない寝顔をぼんやりと眺めた。
幸せな時間だ。
涼が寝返りを打つと布団がずれてその細い腰が露わになる。
まったく無防備に……俺の気も知らないで。
でも俺はもう間違わない。ゆっくりでいい。時間をかけてでいい。涼のすべてを俺のものにするのは。
それまではこうやって我慢するしかないな。でもそんな相手がいるだけでも幸せだ。俺はもう洋から抜け出せないと思っていたから。
洋を丈に託した後、この先の人生きっと洋以上に好きな人なんて出来ない、きっとこのまま一人で生きていくんだろうと覚悟を決めていた。
涼、こんな俺のところに来てくれてありがとう。
大切にするよ。俺たちの関係。
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