重なる月

志生帆 海

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第4章

※安志編※ 太陽の欠片 12

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summer camp 7

 真夜中にふと目が覚めた。こんな変な時間に目覚めるなんて……

 そうか……バンガローでBilly達とビールを飲んで、かなり酔ったんだ。そのまま酔いつぶれて気が付いたらBillyのベッドを占領してしまったから後で謝らないと。

 バンガローの中は食い散らかしたスナックとアルコールの匂い、それに若い男の汗臭さが充満して空気が澱んでいたので、無性に外の空気が吸いたくなった。

 こんな時間に外に出ても大丈夫かと思ったが、我慢できずに飛び出してしまった。

 そっとドアを開けると、夏の夜なのにひんやりと涼しく心地良かった。見上げれば漆黒の空に※月が白いかさをかぶって、ぽっかりと浮かんでいた。

※月がかさをかぶると雨
月の周りを淡い光の輪が囲むことを月傘と言います。 原理は虹の現象とよく似ていて、月が見える空には薄い雲が広がっています。その雲は氷の結晶でできていて月の光を浴びて、ある角度に限定して光が広がったり、屈折したりします。その光が集まり輪のように見えるのが月暈です。 ◆ 天気のことわざより引用◆

 見上げた月は、孤独そのものだった。

 月は不安げに黒い世界に浮かび、足元の草は夜露に濡れて涙のようだ。こんな時間に一人こんな場所で孤独に空を見上げていると、例えようのない程の不安に押しつぶされそうになってしまう。頭をブルッと振り嫌な考えを打ち消そうとした。

 どうも……おかしい、何かが不安だ。ここに来てからずっと誰かに見られているような視線を感じていた。一体誰だ? 何なのか……僕のことを撫でまわすように絡みついてくるあの視線。
 
 それはこの家からだ。あの池で釣りをしていた時、視線を感じ辿って行くと、カーテンの影に隠れる人影を見つけた。

 この家は誰のものだ?

 やっぱり別荘のようだな。それにこんな時間なのにまだ灯りが付いている。確かにこの家にいる奴が僕のことをじっと見つめていた。危険なのか、それとも何か別の理由でもあるのか。気になってしょうがない。

 ぐるぐると定まらない思考。
 そんな時ふっと安志さんの顔を思い出した。
 そして出発前に、安志さんからの返信メールの文章を。

「涼、こんなこと書くと怒るかもしれないがキャンプではなるべく一人になるなよ。お前が護身術にも長けていて強いのは知っているが、一人で大勢に囲まれたりでもしたら強くても抵抗できないんだよ。洋がそうだったように俺は心配なんだ。くれぐれも無理はするなよ。じゃあ楽しんでこい」

 ふっ確かに安志さんの言う通りだよな。こんな時間にこんな場所に一人で……まだ酔いが冷めきらないふらつく躰で歩き回るのは危険だ。

 もう帰ろう。安志さんに心配かけたくない。

 そう思い躰を翻し、歩き出した時だった。暗闇の茂みがガサッと揺れたのは。

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