重なる月

志生帆 海

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第4章

番外編 ハロウィンナイト 1

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こんにちは~志生帆 海です。ご挨拶から始めることお許しください。
今日はハロウィンですね。少しシリアスをお休みして、2話限定でハロウィンの番外編を更新します。

話は序盤に遡り、まだ丈と洋が日本で医師と製薬会社の会社員だった頃の、二人の関係に少し硬さが残っている設定です。

実はこれは『重なる月』の連載を始める前に書き溜めていたものなんですが、ストーリーの都合上、入れることが出来なかったものです。なので…表現など稚拙で物足りないかもしれませんが、せっかくハロウィンが巡って来たので加筆修正して掲載してみることにしました。

どうぞお気軽にお読みください。腐女子の夢…ということで、私も気軽に楽しい気持ちで書いています。

****

『ハロウィンナイト 1』

 10月31日。世の中はハロウィンのイベントで浮かれていた。

 俺にとってはアメリカにいた時に、無理矢理女装させられて散々な目に遭って以来、恐怖でしかたがないイベントだ。

 だからさっさと帰宅しようと慌てて荷物をまとめていたのに……そんな俺の前に部署の女子社員達が、嬉しそうに抽選箱を差し出してきた。

「ふふふっー崔加くん~まだ帰っちゃ駄目よ!さぁこれをひいて」

 その勢いにたじろいだ俺は、大きく後ずさり首を横に振った。

「……俺はいい」
「何言ってんの?絶対に駄目よ!これは我が社の恒例行事なんだから~ほらぁ社長命令よ!」
「うっ……社長命令……どんな仮装がある?」
「えーとっ、王道のドラキュラでしょ~モンスターもあるし、 スケルトンに……あっコスプレも少々あるのよ」
「……コスプレって?」
「あぁ、えっとね医者とかナー……えっと、コックさんの恰好とか。そんなにひどいのないって~心配しないでよ、さぁとにかく早く引いて!」
「ううっ……分かった」
「男性はこちらの箱からね、さぁどうぞ~ふふふ」

 嫌な予感がした。何か企みがあるとは思った。案の定、俺が引いたカードには「看護師」と書かれていた。

 一気に期待に満ちた眼をした女性陣から歓声があがる。

「やった!崔加くんが看護師をひいた!ぴったりだよねーあぁ血が騒ぐ!」

 えっ……なんでこんなに喜ぶ?看護師といっても、男のだよな?無理矢理、自分を納得させてみたが、手渡されたのは思いっきり丈の短いスカートのナースの衣装だった。

「おい!待てよ。これ女性用じゃ?」
「いいのいいの!崔加くんはこれでいいの。さぁ着替えて」
「絶対に嫌だ」
「駄目だってば。ほら隣の部署の新入社員の林くんも看護師ひいちゃっている。一人じゃないんだから~我慢しなさい!」

 ちらっと横をみると、情けない顔をした隣の部署の新入社員の林が呆然と立っている。目が合うと、そいつに腕を掴まれそのまま更衣室へと衣装もろとも押し込まれてしまった。

「崔加、頼むっ!一緒に着てくれ。先輩に逆らえないっ……なっお願いだ!」

 懇願されて渋々、手渡された衣装を着てみるが、ありえない……こんな姿。鏡に映る自分のナース姿に卒倒しそうだ。林は、なぜか俺と自分を見比べて絶句してるし。

「さぁ出て出て!」

 今すぐ帰りたいと思うのに、外で待ち構えていた女子職員に手を引かれ外へ連れ出されてしまった。途端に上がる歓声にたじろいでしまう。

「きゃあーいい!コホンっ私が解説するわぁ~!崔加くんの女の子以上に整ったお顔に、純白のナースの服が一層清楚で上品な雰囲気を醸し出しているわ。そして男性なのにウエストを絞った細身のナース服を余裕で着こなしていて素晴らしい!短めのスカートから伸びるすっとした脚を見てぇぇ」

「うん!スーツ姿の時からスタイルの良さは際立っていたけれども、ナース服のような体の線に沿ったものを着ると一層目立って、その美しさが溢れんばかりよーじゅるる~」

「きゃあ本当に女の子みたいよ!」
「崔加くん、クォリティ高すぎ~」
「写真撮らなくちゃ!」

 絶叫に近い叫び声で騒ぐ女性社員達にしばらくもみくちゃにされてしまい、俺は耳まで真っ赤になり、早くこの時間が去らないかと祈るばかりだった。

 そんな時後ろから丈の声がした。

「おいっ君は本当に洋なのか」

 ううっ今一番会いたくないのに……こんな姿を見られるの屈辱だ。

「きゃあ~丈先生!」
「丈先生はコスプレしなくても白衣だからいいわぁ~」
「ははは、ちょっと通してくれるか」
 
 ツカツカと丈が俺の前までやって来て、余裕のある笑みを浮かべ、耳元で小声で囁いた。

「洋……その姿、反則だ。他の奴にそんな姿見せるなんて許せないな。後で私の研究室まで来い」

 途端に俺は耳まで真っ赤になって反抗する。

「なっなんでこんな恰好で、丈の部屋に行くんだよ!」

そんな声は、またもや女子職員の歓声にかき消されてしまう。

「きゃー丈ドクターと崔加ナースって並ぶとお似合い~これって背徳感ありありよねっ」
「さぁそろそろ始まるわよ。我が社の一大イベント!ハロウィンナイト!」
「会社の大会議室に移動しましょう」

 話の途中で人混みに押され、大会議室へなだれ込むと、普段の事務的な雰囲気は一切なく、黒いカーテンがひかれ、床にも黒い絨毯が敷き詰められ照明も薄暗くなっていた。

「ここで、くじを引いて。その番号の人が今日のパーティーの即席カップルよ!男女ランダムだからね~男性同士カップルも出来ちゃうかもよ~」

 庶務課の女子が嬉しそうに興奮して騒いでいる。

「はぁ……」

 なんという馬鹿げたイベントだ。もう耐えられない。これならそっと抜け出して、丈の方へ行った方がましだ。背を向けて急いで去ろうとした時に、正面から来た真っ赤なドレスで魔女の仮装をした女とドンっとぶつかってしまった。

「あっすいませんっ」
「痛いっちょっとぉどこ見て歩いてるの!あなた」

 あっ……彼女は、以前丈と車の中でキスしていた人だ。丈と付き合う前、会社帰りに偶然見てしまったんだ。

「あら、あなた男なの?うまく化けてるけど」
「……」
「ふふふ、私は綺麗なものなら……なんでも好きよ」

 なんというか妖艶な雰囲気に圧倒され、 じりじりと壁に追いやられていく。

「可愛い子ねぇ」

 赤い唇から赤い舌がのぞき、俺のことを狙うハンターのような眼でじっと見つめてくる。

「やっ……やめろ」

 女だからと大人しくしていたが、流石に壁に追いやられ獲物のように震えているのは男として納得がいかない。横をすり抜けて去ろうとしたとき、その女に肩を掴まれ囁かれた。

「ねぇあなたって、もしかして男を知ってるんじゃない?」
「はっ?」

 なんだ!いきなり……

「ふふふ。女の勘よ。さぁて相手は誰かしらね」

 妖しい笑みを浮かべキョロキョロと辺りを見回している。

 まずい……丈のことがバレてはいけない。それに香水の匂いがきつくて、不快な気持ちが込み上げてしまった。一刻も早くこの場から去りたい。

 そう思った瞬間に、突然丈が現れ女の腰に手を回して俺から引き離してくれた。

「やぁ暁香、お前今日の仮装決まってるな」
「あら丈来てたの?あなたは仮装しなくてもそれで充分ね。ふふっ」

 丈の首に手を巻き付け、至近距離でしゃべり出す。その光景に胸がズキンと傷むが、丈が目で「先に部屋に行ってろ」と合図しているのが分かり、どさくさに紛れて気まずい場から逃げ出すことが出来た。

 真っ赤なドレスを着た妖艶な彼女は、小悪魔のように魅力的で綺麗だった。それに比べて俺は……こんな衣装着たって、あの女性のようにはなれない。

 俺は男だから当たり前だ。

 皆の前で堂々と丈と付き合ってるなんて絶対に言えない。俺たちの関係は永遠に秘密なんだ。ぐるぐる頭の中で考えていると、 どんどん気分が落ちこんでくる。それでも足は丈の研究室へ向かっていた。

 トントンー

 部屋をノックするが返事はない。当たり前だ。今頃あの綺麗な女と一緒なんだからな。
 とにかく……疲れたから、 少し休みたい。
 研究室兼医務室でもある丈の部屋にそっと入り、医療用ベッドに腰かければ思い出す。

 俺と丈の出会いの日々を。このベッド……あれは初めて丈に会社まで送ってもらった日だったな。車酔いした俺を抱いて、 ここに寝かせてくれたんだったよな。あの頃の俺は、まだまだ丈のことを信頼できなくて激しく反発していた。

 ふっ 懐かしい。今はどうだ……こんなにも丈が恋しいなんて。少し触れられないだけでも、まして今日のように丈が普通に女の人と話している所を見てしまうと、胸が締め付けられる。

 なんだか胸が苦しいもんだな。
 きゅっと唇を噛みしめ、まだナースの仮装姿であることに嫌悪感を抱いた。

 早く着替えたい……でもこんな姿をまた他の人に見られるのはもう嫌だ。そんなことを考えているうちにどっと疲れが出て来たので、ベッドの壁に躰を預けて目を閉じた。

「なんだか……眠い…」

 急に眠気が込み上げ、暗闇に誘われるように眠りに落ちてしまった。


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