226 / 1,657
第4章
※ 安志編※ 太陽の欠片 6
しおりを挟む
ーsummer camp・1-
ピィーピピー
車のクラクション音が外から聴こえてくる。
「Ryo!I've come to pick up.(迎えに来たよ)」
「Thank you!Billy!」
「じゃあ母さん行ってきます」
「涼、くれぐれも気を付けてね」
「はい」
今日から一週間、六月に高校を卒業したばかりの僕は※Prom(プロム)で意気投合した男女八人のグループでsummer campに参加することになっている。
※プロム プロムナード(米:promenade、舞踏会)の略称で、アメリカやカナダの高校で学年の最後に開かれるフォーマルなダンスパーティーのことである。
恐らくこれがアメリカでの最後の旅行になるだろう。来月から僕は安志さんが待つ日本で暮らすことになる。日本の大学に九月から通い、そのまま安志さんがいる日本で就職して、ずっと安志さんと一緒に日本で暮らしたいと思っているから。
summer campか……
中学や高校で参加したような勉強がメインのものではなく、卒業生向きの緩い遊びメインのキャンプだそうだ。あまり乗り気はしなかったが、僕の送別会という名目でハイスクールのクラスメイト達が企画してくれたものだから断れなかった。
……安志さん、今からハイスクールの友人たちと一週間ほどsummer campに行ってくる。忙しくなるからあまりメール出来なくなるかもしれない。ごめん!……
安志さんへのメールを一通送信してから、僕は家を出た。
ビリーの車に乗り込むと、彼は白い歯を大きく見せて嬉しそうに笑っていた。
「Ryo~来てくれて嬉しいよ! 一週間も一緒に遊べるなんて夢のようだな! 」
「あぁ」
このビリーという男はクラスメイトの一人で、アメフト部の主将だった奴だ。
いかにもアメリカの青年らしい風貌で、背が高く体をガッツリ鍛えていて運動神経がいいハンサムな男なのでハイスクールでも抜群に人気があったが、僕はこいつが少しだけ苦手だった。普段はいい奴なのに、たまに僕のことを見る目が、あの何度も経験した嫌な雰囲気を帯びることがあったから。でも気のせいだと思いたい。特に今まで何があったわけでもないし、僕が過敏になり過ぎている。
それにビリーにはちゃんとステディな彼女もいる。summer campには他にも大勢の参加者がいるし、二人きりでもないし気を付けていれば大丈夫だろう。
「なぁRyo、本当に秋から日本へ行ってしまうのか」
「うん、九月入学でもう入学手続きも終わってるよ」
「もうここには戻って来ないつもりか」
「あぁ僕は日本の方が合うみたいだ。向こうで就職することも考えている」
「……えっそうなのか。それは残念だな」
ビリーは心底残念そうな顔をし、雰囲気が気まずくなったので話を逸らす。
「ビリーこそ、また大学でもアメフトをやるのか」
「あぁもちろんだよ! しかしRyoも一緒の大学に来ればよかったのに。お前の頭の良さや足の速さなら、どんな奴にもひけをとらないのに。陸上部は日本でも続けるのだろう? 」
「そうだね。走るのは好きだから続けてみようかな」
「しかしお前のプロムでの余興良かったよ」
「あっあれはもう忘れろっ!」
「ははっ、本当に最高に綺麗だったぞ。お前の女装!」
「もう言うなよっ!思い出しても恥ずかしい」
「そうか~写真もばっちり撮ったぜ! はははっ見るか?」
「なっ!もう消せよっ」
プロムでの余興で、僕はくじでうっかり女装役をひいてしまった。もちろん女装役は僕一人ではなかったし、みんな余興だって割り切って楽しんでいたので、一人だけ抵抗するわけにも行かなかった。
ううう……抹殺したい過去だ。いくらなんでもドレスにウィッグ姿なんて勘弁してほしかった。これがまた何故か似合っていたようで、みんな目を丸くしやがって。
目立つことは避けて来たのに……はぁ…なんて運が悪いんだ。
マンハッタンから車で約三時間のニューヨーク州の山中にあるキャンプまで、僕はビリーとこんな風に、たわいもない会話をしながら過ごした。
ピィーピピー
車のクラクション音が外から聴こえてくる。
「Ryo!I've come to pick up.(迎えに来たよ)」
「Thank you!Billy!」
「じゃあ母さん行ってきます」
「涼、くれぐれも気を付けてね」
「はい」
今日から一週間、六月に高校を卒業したばかりの僕は※Prom(プロム)で意気投合した男女八人のグループでsummer campに参加することになっている。
※プロム プロムナード(米:promenade、舞踏会)の略称で、アメリカやカナダの高校で学年の最後に開かれるフォーマルなダンスパーティーのことである。
恐らくこれがアメリカでの最後の旅行になるだろう。来月から僕は安志さんが待つ日本で暮らすことになる。日本の大学に九月から通い、そのまま安志さんがいる日本で就職して、ずっと安志さんと一緒に日本で暮らしたいと思っているから。
summer campか……
中学や高校で参加したような勉強がメインのものではなく、卒業生向きの緩い遊びメインのキャンプだそうだ。あまり乗り気はしなかったが、僕の送別会という名目でハイスクールのクラスメイト達が企画してくれたものだから断れなかった。
……安志さん、今からハイスクールの友人たちと一週間ほどsummer campに行ってくる。忙しくなるからあまりメール出来なくなるかもしれない。ごめん!……
安志さんへのメールを一通送信してから、僕は家を出た。
ビリーの車に乗り込むと、彼は白い歯を大きく見せて嬉しそうに笑っていた。
「Ryo~来てくれて嬉しいよ! 一週間も一緒に遊べるなんて夢のようだな! 」
「あぁ」
このビリーという男はクラスメイトの一人で、アメフト部の主将だった奴だ。
いかにもアメリカの青年らしい風貌で、背が高く体をガッツリ鍛えていて運動神経がいいハンサムな男なのでハイスクールでも抜群に人気があったが、僕はこいつが少しだけ苦手だった。普段はいい奴なのに、たまに僕のことを見る目が、あの何度も経験した嫌な雰囲気を帯びることがあったから。でも気のせいだと思いたい。特に今まで何があったわけでもないし、僕が過敏になり過ぎている。
それにビリーにはちゃんとステディな彼女もいる。summer campには他にも大勢の参加者がいるし、二人きりでもないし気を付けていれば大丈夫だろう。
「なぁRyo、本当に秋から日本へ行ってしまうのか」
「うん、九月入学でもう入学手続きも終わってるよ」
「もうここには戻って来ないつもりか」
「あぁ僕は日本の方が合うみたいだ。向こうで就職することも考えている」
「……えっそうなのか。それは残念だな」
ビリーは心底残念そうな顔をし、雰囲気が気まずくなったので話を逸らす。
「ビリーこそ、また大学でもアメフトをやるのか」
「あぁもちろんだよ! しかしRyoも一緒の大学に来ればよかったのに。お前の頭の良さや足の速さなら、どんな奴にもひけをとらないのに。陸上部は日本でも続けるのだろう? 」
「そうだね。走るのは好きだから続けてみようかな」
「しかしお前のプロムでの余興良かったよ」
「あっあれはもう忘れろっ!」
「ははっ、本当に最高に綺麗だったぞ。お前の女装!」
「もう言うなよっ!思い出しても恥ずかしい」
「そうか~写真もばっちり撮ったぜ! はははっ見るか?」
「なっ!もう消せよっ」
プロムでの余興で、僕はくじでうっかり女装役をひいてしまった。もちろん女装役は僕一人ではなかったし、みんな余興だって割り切って楽しんでいたので、一人だけ抵抗するわけにも行かなかった。
ううう……抹殺したい過去だ。いくらなんでもドレスにウィッグ姿なんて勘弁してほしかった。これがまた何故か似合っていたようで、みんな目を丸くしやがって。
目立つことは避けて来たのに……はぁ…なんて運が悪いんだ。
マンハッタンから車で約三時間のニューヨーク州の山中にあるキャンプまで、僕はビリーとこんな風に、たわいもない会話をしながら過ごした。
10
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる